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企業研究医療分野に押し寄せるゲームチェンジ(1)

縮小市場の中で勝ち抜く

  • 文=内野侑美 
  • 2019年01月22日
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縮小市場の中で勝ち抜く

日本がいま抱える社会課題の1つに高齢化があげられる。2025年から団塊の世代が後期高齢者となり、社会保障費は莫大になると予想される。この負担を少しでも減らすべく、デジタルの活用に注目が集まっている。2018年、次世代医療基盤法が施行され、オンライン診療に保険点数が認められた。ゲームチェンジが巻き起こる業界で生き残る企業とは。日経BP総研副所長を務める藤井省吾氏に聞いた。

新薬に代わるデジタル技術の進化

日経BP総研副所長を務める藤井省吾氏

― 医療分野の近年の動向は、どのような動きでしょうか。

藤井:医療業界で、大きな問題として捉えられているのが、ブロックバスターの特許切れです。ブロックバスターとは、1剤で年間売上10億ドル(約1000億円)を超える新薬のことです。日本の製薬会社が持つ特許技術がここ数年で切れ、ジェネリックに切り替わります。ジェネリックだと価格は約2分の1から5分の1です。利益が減少するため、日本の製薬会社は大きな岐路に立たされるといえるでしょう。

― 特許切れを迎えるブロックバスターは、どのような薬でしたか

藤井:特許切れを迎えようとしているブロックバスターは、主に生活習慣病の薬が多くを占めます。生活習慣病とあるように、投薬だけでなく、患者さんがどのように生活を送るか、それにより治療効果が変わっていきます。そこにデジタルツールが役立つと考えられています。

― スマホのアプリを使って生活習慣改善に訴えかけると聞きました。

藤井:医療分野でもデジタル化が進み、iPhone6が30年前のスーパーコンピューター「クレイ」と同じ性能を持つようになりました。スマホのアプリには、生活習慣の見直しを促すものも登場しています。病院には2週間に1度しか行かなくても、患者をモニタリングできるようになり、点と点だった治療を線でつなげるようになったといえます。米国のブルースター社が開発した糖尿病治療アプリの事例では、糖尿病血糖値の指標のヘモグロビンA1Cが1.2ポイント減ったとの結果が出ています。これは、新薬登場レベルの成果です。米国ではすでにこのアプリに保険が適用されています。日本でも今年から、禁煙アプリは保険適用が可能になると言われています。

世界ネットワークで情報交換により、シナジーを生む

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― そんな中、新薬開発に力を入れる製薬会社がある。

藤井:生活習慣病に関しては、投薬よりも生活習慣改善を促すアプリのほうが今後有効になるかもしれません。しかし新薬にまだ勝機が残っている分野もあります。がん、認知症、精神疾患、難病などです。21世紀医療フォーラムという研究会に参加する中外製薬は、75周年を迎えた2000年頃から事業を見直し、90周年を機に大きく転換しました。

― 中外製薬の事業転換とはどのようなものか。

藤井:中外製薬は1925年に薬の輸入会社として誕生しました。その後、大衆薬の開発、販売などを行い、60年代からは医療薬にシフト。80年代から90年代にかけては、骨粗しょう症の治療薬をはじめとするバイオ医薬品の会社になっていきました。2000年に入り、スイスのロッシュとアライアンスを決定。それまで会社を支えてきた、グロンサン内服液やバルサンなどの大衆薬は全て他企業に売り渡し、主にがん治療薬に主軸をシフトしました。2008年には、国内がん治療薬のトップシェアを誇るまでになります。売上は2002年と2015年を比べると2048億円から4602億円に、利益は303億円から907億円に拡大しています。アライアンスを組んだロッシュグループとして定期的に情報交換を行い、世界の市場の動向をシェア。一方、開発はそれぞれ切磋琢磨しながら進めるスタイルが功を奏しています。

次回は、グローバル化の道を歩んだ別の製薬会社と、今後のプレーヤーシフトについて聞きます。

プロフィール

藤井省吾

89年東京大学農学部卒業、91年東京大学大学院農学系研究科修士了、農学修士。91年日経BP社入社。医療雑誌『日経メディカル』記者、健康雑誌『日経ヘルス』副編集長を経て、2008年~13年まで6年間『日経ヘルス』編集長を務める。14年~17年3月まで、ビズライフ局長・発行人として働く女性の雑誌『日経WOMAN』、健康・美容雑誌『日経ヘルス』、共働き向けウエブマガジン『日経DUAL』、女性を応援するウエブ『日経ウーマンオンライン』を事業推進。2014年には健康・医療の最新情報サイト『日経Gooday』を立ち上げた。18年4月から日経BP社執行役員、BP総研副所長コンサルティング局長。

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  • 2019年01月22日
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