周年事業周年小ネタ書評(5)
『千年、働いてきました』で分かった企業DNAの本質
- 文=菅野和利
- 2018年11月05日
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新潮文庫から2018年8月に刊行された『千年、働いてきました 老舗企業大国ニッポン』は、ビジネス書としては珍しいタイプの文庫だ。刊行されたのは2006年、12年後の2018年にようやく文庫化された。文芸書や研究書でリバイバル復刊というのはよく聞く。しかし、ビジネス書、しかも経営論ではなく具体的な企業紹介の内容で12年後に文庫化というのはなかなか珍しい。
ページをめくって目次を読むと、プロローグの見出しは「手のひらのケータイから」。ケータイって、今はスマホでしょ、と本を閉じてはもったいない。この『千年、働いてきました』は12年前の刊行ながら、老舗企業が老舗たるゆえんについて実に示唆に富んでいる。新潮社編集部に確認したところ、「普遍的な内容なので、あえて大きく改変せずに文庫化した」という。
老舗の背骨に貫かれているコア・ミッション
『千年、働いてきました』では、578年創業の金剛組から、1902年創業の呉竹まで、18社の老舗企業(創業100年以上)を紹介している。刊行当時、全盛期を迎えていたケータイの部品技術を一つの軸に、老舗の強みを解き明かしていく。例えば、折り曲げられるケータイに使われている銅箔は、元禄時代創業の福田金属箔粉工業が世界で高いシェアを持っていた。銅箔をつくる技術の源流を辿ると、日本の伝統である金箔づくりにまで遡れる。福田金属箔粉工業は、この箔づくりの高い技術をケータイの部品製作に生かした。
ここまでならよくある切り口だ。日本の老舗の技術って凄いよね、という話にとどまらないのが本書の醍醐味だ。「三百年以上も倒れなかった老舗の背骨に貫かれているものは何か」、著者の野村進氏はその本質に切り込んでいく。福田家十一代目の福田氏はこう言う。「金属の箔とか粉末を、いかに加工して、いかに人のためになるか。そういうコア・ミッションから離れないことが、自分の身の程をわきまえるということやな」。企業の存在価値であるコア・ミッションから離れず企業活動を続けていく。その経験が蓄積されていけばいくほど、コア・ミッションの使命感は強くなっていく。最近の言葉でいえば、企業DNAが社内に浸透すると言い換えてもいいだろう。
他の老舗企業にも同じように、老舗のコアを聞いていく。清酒業(1854年創業)からバイオテクノロジー企業に発展した勇心酒造の家訓は「不義にして富まず」。箔製造企業のカタニ産業(1899年創業)の蚊谷八郎社長は「儲かればいいと思って、本道からはずれたらあかん。どんな商売でも、なぜそういう商売をするのかという説明がつかんといかんわね」と語る。
最後に野村氏は、「『企業のDNA』といった表現がしばしば使われるけれど、この『DNA』とは『文化』と同義ではあるまいか」と、老舗企業の取材から得た印象を総括している。
企業DNAが文化なら、明日、明後日、1年後、2年後に出来上がるものではない。ある程度の年月がかかる。1日の積み重ねが10年、50年、100年となる。自分たちがいなくなった後も、企業の文化として痕跡は残っていく。企業DNAをつくるのは他でもない、今働いている自分たちだ。その認識があるかないかで、企業DNAがどんなふうになるかが変わるかもしれない。
- 2018年11月05日
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