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周年事業周年小ネタ書評(8)

『ペスト』デフォー版に見る周年アーカイブの3原則

  • 文=菅野和利
  • 2020年06月26日
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『ペスト』デフォー版に見る周年アーカイブの3原則

人は目に見えない敵と闘うとき、どんな心でどんな行動を取るのか。カミュ『ペスト』(新潮文庫)の発行部数が100万部を超えたという。これから何が起こるのか。少しでもヒントを得たいと購入した方もいるだろう。


多くの方がカミュの『ペスト』を選んだはずだが、もしかしたら同タイトルのダニエル・デフォー版『ペスト』を間違えて買った方もいるかもしれない。カミュ版とデフォー版と両方読んだ方もいるだろう。

『ロビンソン・クルーソー』で知られるデフォーが『ペスト』を出版したのは1722年。その2年前の1720年には仏マルセイユでペストが大流行している。デフォーが住むロンドンでは、その約半世紀前の1665年、市民の5分の1以上が亡くなったといわれるほどペストが猛威を振るった。デフォーは1665年のペストの文献を当たり、ノンフィクションのような書きぶりでペストの脅威を記し、書籍として出版した。現在のコロナ禍と同じように、ペストが流行したロンドンでも多くの商業活動が休止した。その様子も克明に書かれている。

周年書評になぜデフォー版『ペスト』を選んだかというと、3つの特徴があるからだ。これらの特徴が周年事業でのアーカイブづくりに非常に役立つ。

1つめは「数字」だ。『ペスト』には気が滅入るほど死者数のデータが出てくる。1週間ごとの病死者数、疫病による死者数、地区別の死者数と、死者、死者、死者である。死者に対しては大変申し訳ないが目をそむけたくなる。ただ、この数字のおかげで、地区ごとの時系列の状況がとてもよく分かる。

2つめは印象的な「エピソード」が盛り込まれている点だ。ビジネス用の文章でも事例が好まれるのは、エピソードがあると頭に入りやすいからだろう。本書の中でも多くのエピソードが語られている。病気の妻子に渡す食べ物や金を石の上に置いて、遠く離れてから妻と会話を交わす船頭の話、酔っぱらって死体と間違われて死体運搬車に乗せられて、墓場に放り込まれる寸前で気付いた男の話など、忘れようにも忘れられないエピソードが盛り込まれている。

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ロンドンの小路を回る死体運搬車の絵

今すぐ会社資料のアーカイブづくりを

『ロビンソン・クルーソー』『ペスト』の作者、ダニエル・デフォー(1660-1731)。新聞『レビュー』を創刊したジャーナリストでもあった

周年事業でよく聞く困りごとが、過去の資料が残っていないというものだ。「周年を機に過去をまとめたい。でも、どこに何があるか分からない。もしかしたら何も残っていないかも……」。こういったケースでは、社員やOB含めて資料探しの依頼からアーカイブづくりがスタートする。大変な労力だ。

自社に置き換えて資料探しの大変さが想像できたら、ぜひとも今からアーカイブづくりに取り掛かってほしい。大げさに捉えなくてもよい。経営会議の資料は必ず同じところにまとめる、社内報やイントラの記事は必ずバックアップを取る、製品カタログはモデルチェンジしても必ず保存しておく、会社案内は何年発行のものか分かるように裏表紙に発行年を記載する。こういった意識付けや小さな工夫から始めよう。また、どんな資料が社内に発生するのか、棚卸しも重要だ。例えば、社内表彰制度があれば、その評価ポイントは貴重なエピソードとなる。

紙の資料であっても、PDFなどのデジタルデータに変換するのも簡単になり、保存場所もビジネス向けの大容量クラウドサービスもお手頃価格で利用できるようになった。今の活動の一つひとつが後々の周年の歴史になる。資料をきちんと残しておこう。

膨大な資料の何を取っておくべきか。取捨選択のカギは、『ペスト』の特徴で述べたように「数字」と「エピソード」。この2つがそろっていれば、周年事業でコンテンツを作成するときに、自社の歴史を語りやすい。

ここまで読んで、3つめの特徴は? と気になっている方もいるだろう。もったいぶったわけではないが、3つめは「地名」、つまり場所だ。デフォー版『ペスト』の中には地名がふんだんに出てくる。中公文庫版には地図もついている。地名とその土地の様子が描かれているからこそ、ペストの流行の広がりが鮮明に頭に入ってくる。

自社の歴史や年表を作成するときにも、場所の情報は重要な役割を果たす。何があったのか、“どこで”あったのか。自社が成長していたのか縮小したのかの目安にもなる。場所の情報は思っているよりも重要だ。

ただ、“どこで”という情報は、今後重要ではなくなるかもしれない。新型コロナウイルスの影響で、ビジネスでもオンラインでの活動が増えている。時代の転換点では過去のノウハウが役に立たなくなる場合もある。場所の情報の代わりに何が重要になるのか。注意深く見ていきたい。

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  • 2020年06月26日
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