周年事業周年小ネタ書評(1)
『漫画 君たちはどう生きるか』に見る原作のアレンジ力がすごい
- 文=菅野和利
- 2018年04月23日
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ビジネス書や一般書の書評はごまんとあれど、直接的に周年事業を内容とする書籍の数は少ない。周年プロジェクトに頓挫したときに心が奮い立つ書籍や、周年誌をつくる上での小ネタになる書籍を紹介するため、本連載は「執念による周年書評」としたい。企画実現のために執念を燃やしたわけではなく、執念で周年にこじつけている。斜め下や斜め上から、はたまた裏返してピザ生地のようにぐるぐる回して周年事業の糧となる書評とする。
本題に入る。『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)は、2018年3月に発行部数が200万部を超えた堂々たるミリオンセラーだ。1937年に刊行された同名の書籍を基に、マガジンハウスが企画して羽賀翔一氏が漫画化した。「コペル君」と呼ばれる中学生が、おじさんとの交流を通じて社会の在り方や倫理観について気付きを得ていく。「立派な人間」になるための成長ストーリーに押し付けがましさがなく、今の読者も共感できる仕上がりになっている。
原作が発行された1937年は、蘆溝橋事件により日中戦争が始まったとされる年だ。時代のきなくさい雰囲気の中で売り出されたことになる。著者は、岩波新書の創刊に携わり、後に雑誌「世界」の初代編集長になった吉野源三郎氏。当時のトップクラスの知識層だとしても、80年後に漫画版がつくられて200万部を超えるとは想像できなかっただろう。
周年事業の担当者に役立つ情報として、この『漫画 君たちはどう生きるか』と1937年発行の原作との違いを取り上げたい。
本書は原作を忠実に漫画化したものではない。原作の骨子はそのままに、エピソードを一部カットしたり登場人物を絞ったりして、今の読者が読みやすい工夫を随所にちりばめている。例えば、漫画と文章の分量。すべてを漫画にするのではなく、絵とセリフだけでは伝えきれない箇所が文章でしっかりと書かれている。逆に、文章ばかりが続くと今の読者は飽きそうなエピソード部分を漫画にした。今、読者に受け入れられるには何が必要か、原作の素晴らしさを最大限伝えるにはどうすればよいか、編集者、漫画家は考え抜いたに違いない。
周年事業では、過去資料を探し出してコンテンツにする場合も多い。そのとき『漫画 君たちはどう生きるか』のコンセプトは参考になる。過去資料を“原作”と考えれば、今、過去資料が読者に受け入れられるには何が必要か。過去資料の素晴らしさを最大限伝えるにはどうすればよいか、「今の観点」から過去資料を読み解いて読者に伝える努力をすべきだ。
「今の観点」を得るにはどうすればよいか。単なる材料としてではなく、過去資料に心で向き合う。今に生きる自分の心が動いたら、それが「今の観点」となる。自分が感じたことを取り上げコンテンツとして生かせば、ほかの読み手の心にも響く可能性が高い。
本書の中でコペル君のおじさんは「くりかえしていうけれど、君自身が心から感じたことや、しみじみと心を動かされたことを、くれぐれも大切にしなくてはいけない」と書く。周年事業で過去資料に当たるときにぜひ心に留めておきたい言葉だ。
- 2018年04月23日
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