日本商工会議所創立100周年

未来志向で新しい日商へ

2023.04.03

周年事業

  • コンテンツ本部 本部長 雨宮 健人

経団連・経済同友会とともに経済三団体と称される日本商工会議所が、2022年に創立100周年を迎えた。23年3月をもって100周年に際して設置された創立100周年記念事業推進室は役割を終える。日本商工会議所の100周年事業の取り組みを紹介する。文=雨宮健人


100周年事業の組織発足

21年4月、細田幸氏は創立100周年事業担当に着任した。100周年に当たり、専任部門が設置されるのは知っていたが、まさか当事者になるとは思わない。配属を知り、その大変さを想像して目の前が真っ暗になった。

創立100周年記念式典準備室――これが当初この組織につけられた部門名だ。室長、副室長を含めた4人構成。部門名には「記念式典」とあるが、100周年で実施する事業全般を担当する。手掛ける事業は記念式典以外に記念誌、ロゴ・スローガンの作成、記念映像、さらに周年特設サイト、商工会議所PR動画、オンライン記念講演会など多岐にわたる。

一般的な会社組織とは違い、日商は全国の商工会議所を総合調整し、その意見を代表する機能があり、創立100周年記念式典準備室の上には13人で構成される諮問機関が存在する。日商の会頭および副会頭、つまり各地の商工会議所会頭がメンバーで、各地と情報共有を図る目的もある。

周年事業の策定・実施に関し、三村明夫会頭(当時)が最もこだわったのが「未来志向」だ。商工会議所の意義と役割を再確認し、決意新たに次の100年に向けた飛躍を期すためのものとする。この方針は、あらゆる制作物作成において常に意識された。

これまでの“お堅いイメージ”を一新する

21年9月、日経BP・日経BPコンサルティングをはじめとするパートナー企業とともに、各種事業・コンテンツの実質的な制作業務がスタートした。

まず21年12月にロゴ・スローガンが完成した。3種(バージョン違いを含めると8種)の候補案から、役職員にアンケートを実施し選ばれた。中央の円は日の丸(日本)が、右の円は日本にある無数の中小企業が表現されている。

100周年ロゴ

100周年ロゴ

次に外部公開したのは周年特設サイトだ。色数を限定してシンプルにし、さりげない挙動を随所に加えたものとした。

22年4月、100周年ロゴをアニメーションで動かした「coming soonページ」を公開。その後、5月に「年表」、7月には商工会議所のあゆみと活動をまとめた「商工会議所PR動画」、全国515の会議所から募った「全国商工会議所からの未来へのメッセージ」と、段階的にコンテンツを拡充。約1年弱を経て“新しい日商”のつまったプラットフォームが完成した。

周年特設サイトの画像

生みの苦しみだったPR動画

商工会議所PR動画とは、全国の商工会議所がPRや会員加入促進ツールとして活用することを目的に、日商が提供するものだ。商工会議所の歴史を振り返るうえで、当時の資料はほとんど現存しない。コンテンツの収集は困難を極めた。

22年度に入り、創立100周年記念式典準備室は創立100周年記念事業推進室に名称を変更。体制強化の観点で、新たに村岡菜摘氏が記念事業推進室にメンバーとして加わった。

当初の予定よりも半年ほど遅れた7月にPR動画は完成した。完成が延びたのは表現の推敲と最後までシナリオが確定できなかったからだ。その分、予算も膨らんだ。「このような動画を作った経験が過去になく、室長からわれわれまでよいものにしたい気持ちが強かった。いかに妥協点を探すか。まさに“生みの苦しみ”だった」と実務を中心的に担った新田大介室長代理は語る。

最大の難関・記念式典

とりわけ3人が最も苦労したことに挙げたのが記念式典だ。式典は9月16日に東京国際フォーラムにおいて開催された。

登壇者や来賓、関係省庁の調整、コロナへの対応などは特に苦労した。会場は東京国際フォーラムで決まっていたが何人まで収容を許可されるか、複数ケースでのシミュレーションをしなければならない。式典の係員となる所内全職員への説明、消防や警察との調整、式典に参加する来賓や全国の商工会議所関係者への案内も3人が駆けずり回って行った。

式典の様子の写真
22年9月16日に開催された記念式典の様子

あえて周年史と呼ばず「記念誌」

記念誌の構成やデザインについては推進室から三村会頭に直接相談した。過去の振り返りだけではない、未来を見据えた内容になるよう議論を繰り返した。

記念誌は全部で56ページ、そのうち歴史を扱ったのは20ページと、一般的な周年史と比較するとコンパクトなつくりだ。周年史と呼ばず、あえて記念誌と呼ぶのは過去よりも未来に重きを置いたからだ。

資料は事業報告書や日商が刊行する会議所ニュースが現物の状態で残っていたものの、体系立てて記述するにはこれまでの取り組みを時系列にまとめ直す作業が必要だった。日経BPコンサルティングは、まずカテゴリー別に年表形式のデータベースを作成。日商にない資料の収集、および提言活動の背景や相互の因果関係について各種文献に当たり整理した。冊子における過去の記述ボリュームは大きくないが、その裏には気が遠くなるような工数と下準備があった。

また「未来志向」に関しては、今後30年の未来を予測した未来年表のページや、11人の副会頭にアンケートを敢行し日本経済の未来に必要なことや展望を紹介する「日本経済この先のゆくえ」などを収録。ビジネス誌の特集記事のような、一般企業の経営者にとっても未来に生かせる貴重な情報を盛り込んだ。

当初は記念式典で配布する想定だったが、記念式典の様子を採録することになり、式典の1カ月後の10月に発行された。

記念誌:未来予測年表ページ
記念誌:「日本経済この先のゆくえ」ページ

記念誌。発行後、関係者に郵送された。周年特設サイトからPDFダウンロードが可能

制作物として最後に仕上がったのが、日商100年のあゆみをつづった記念映像である。先に完成したPR動画でも日商の歴史は紹介されており、その差異化も課題の1つだった。そこで歴代会頭を軸に日商の歴史を紹介する形を採用した。

当初は記念式典で商工会議所PR動画と続けて流す予定だったが、式典開催1週間前、間に合わせることよりもさらに納得のいくものを作り上げる判断をした。式典後に三村会頭から小林健会頭への交代が発表となり、小林新会頭の会見の様子やスローガン掲載がかなった。結果として過去をひもとく映像であるにもかかわらず、未来を予感させるつくりに昇華させることとなった。動画は23年1月に完成、2月にWebサイトに格納され、日商の周年事業は完結した。

周年事業を振り返る。実現した未来志向

組織の成り立ちなど、多くの社員は普段意識しない。周年事業を行うと、組織が立ち上がった核心に触れられる。周年事業の担当者ならなおさらだ。

少人数・専任という座組で実務を担った点に関し、細田氏は苦労もありつつもメリットはあると分析する。「役員との距離が近く、個人的にはやりやすかった。内容面に関してはおおむね推進室のメンバーで話し合って完結できた。日商にとって100周年という一世一代の節目に担当者として携われたのは貴重な経験。苦労の分、達成感はとてつもなく大きい」

村岡氏は、もし周年事業の担当者になったら「組織について理解を深めることのできる絶好のチャンスになる。対外的にも重要な業務となり、組織の発信力強化にもつながる仕事として前向きに捉えていただければと思う」と語る。

写真:新田大介氏

日本商工会議所 創立100周年記念事業推進室長代理 新田大介氏

写真:細田幸氏

日本商工会議所 創立100周年記念事業推進室 細田幸氏

写真:村岡菜摘氏

日本商工会議所 創立100周年記念事業推進室 村岡菜摘氏

新田氏は「一般的な会社や団体と違い、われわれは各地の商工会議所があって存在でき、活動に至っているのを改めて認識した。周年事業の意義として考えた、各地商工会議所への感謝を身に染みて実感した」と感想を述べた。さらに周年事業を担当したからこそ感じた周年事業の効果について次のように示した。

「周年事業の担当は、おそらく二度と経験できない貴重な機会となる。日経さんとご一緒し、本当に多様なやり取りの中で、各種制作物のクオリティーが上がっていったのを肌身で感じた。いろんな資料を当たって、日経さんが見つけたものでこんな写真があったんだ、こういう経緯で委員会が立ち上がったんだ、こんな熱い会頭がいたんだ…など多くの発見や驚きがあった」

さらに新田氏は周年事業が進む中で、自分が所属する組織の“すごさ”を実感した点にも言及した。「日商の職員にも気づきをもたらしたと思う。式典では天皇陛下の御臨席が実現し、そういった組織に勤められているのを認識するとともに、御臨席いただけた意味を受け、この先、誇りを携えて業務に当たることができる。自分の会社は何をやっていて、何のために働いているか。外へのブランディング効果もあるが、それ以上に中へのブランディング効果が強いと感じた」

最後に周年事業で三村会頭が目指した「未来志向」は実現できたかを尋ねた。新田氏はきっぱり「できたと思う」と答えた。「先鋭的な取り組みをしている商工会議所もあるが、人口減や会員企業減で存在自体が危ぶまれる商工会議所もある。中小企業の変革とともに、商工会議所自身も変革しなければならない。全国の商工会議所の皆様にもそのことを認識いただけたように感じる」

その証拠に、商工会議所PR動画を会員の前で流したいという要望も後を絶たない。全国の商工会議所に、未来へのメッセージやこれからの経済に関するアンケートに答えてもらった周年特設サイトの施策が、今後の商工会議所を考える契機となったのは想像に難くない。もちろん一朝一夕に成果が出るわけではないが、下地はできつつある。

折しも22年11月から新しい会頭が就任した。「100周年を未来への布石として、全国の商工会議所とともに…を意識しながら活動を継続するマイルストーンとしたい」そう新田氏は締めくくった。