総合人材サービスを展開するパーソルグループは、海外を含め約7万8,000人を擁する「はたらいて、笑おう。」の体現者だ。人的資本をビジネスの中核に据える同社は、どのように社員やスタッフのウェルビーイングを高め、企業価値向上に結びつけているのか。パーソルホールディングス グループ人事本部 人事企画部の宮本衣里氏と、人的資本経営の戦略から開示までリードする土本晃世氏に、人的資本経営の重要性、AI時代を見据えた取り組み、そして3年目を迎えた人的資本レポートの狙いについて聞いた。
「人」が事業そのものだからこそ、経営層も真剣
パーソルグループにとっての人的資本経営の重要性についてお聞かせください。
宮本パーソルグループには海外も含め約7万8,000人の従業員がいます。グループ発足から10年、新たにグループインした企業も多く、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」をはじめ理念の浸透を非常に重視しています。私たちの事業そのものが人的資本に資する事業であり、「人」こそが資本だという考えは創業当初から変わっていません。
どのような体制で人事施策を推進しているのでしょうか。
宮本社員向けの施策に関しては年8回の人事委員会を設け、CEOをはじめすべての執行役員が参加して、人事戦略やサクセッションプランなど重要なテーマを継続的に議論しています。打ち上げ花火のような派手な施策ではなく、地道な議論と実行を重ね、文化になるまで定着させていくことを大切にしています。
土本経営層には、社員のエンゲージメントやウェルビーイングの向上が大前提として根付いています。例えば「キャリアチャレンジ制度」(※1)「キャリアスカウト制度」(※2)という施策は、現場のマネジャーにとっては、優秀な人材が引き抜かれるリスクもありますが、経営層には「エンゲージメントを高めるためには、社員が自分でキャリアを選択できる仕組みは当然必要だ」という共通認識があり、導入の決定は非常にスムーズでした。その上で、マイナス影響をどう抑えるかという観点で調整を進めました。
人事委員会は単なる形式で終わることがありません。予定調和はなく、必ず議論が起こります。結論が出なければ宿題として次回に持ち越し、熟議を重ねます。経営層が本気で「人」について考えていることが、会議プロセスからも強く伝わってきます。
宮本派遣スタッフ向けの施策に関しては、CHROが座長を務める「スタッフウェルビーイング委員会」を設置し、派遣事業の全執行役員が参加して、スタッフのウェルビーイング向上策を議論・実行しています。
- 「キャリアチャレンジ制度」…社員が自ら手を挙げて社内公募に応募し、他の部署・グループの別ポジションに挑戦できる制度。
- 「キャリアスカウト制度」…社員が自身の経験や志向を登録しておくと、それに適合する社内・グループ内の部署からオファーを受け取れる制度。
パーソルホールディングスグループ人事本部 人事企画部 部長
宮本 衣里 氏
企業価値との連動と、AI時代を見据えた人事戦略
人的資本戦略におけるパーソルグループの重点テーマや課題、施策についてお聞かせください。
宮本特に2つのポイントを重視しています。1つは企業価値との連動です。これまでは社員・スタッフへの取り組みを通じた社会価値の向上に注力してきました。今後は社会価値・経済価値が相まって高まる企業価値の向上をより強く意識し、財務部門や経営企画部門との連携を強めながら、人的資本施策と財務・経営戦略を一体で考えていきます。
もう一つが生成AIの影響です。AIと共に働く社会になったとき、管理職の役割がどう変わるのか、社員にはどんなスキルセットが求められるのか、人事としてどのような支援施策を整備するかが、これからの大きなテーマですね。
土本そのため、現在の大きな課題は「人材ポートフォリオの変革」です。今後3〜5年で事業内容や事業ポートフォリオの変化を見据え、どのような戦略ポジションが必要になるのか、そこで求められる役割や能力は何かを関係部門と議論しています。既存の人材でカバーできる領域もあれば、不足している領域もありますので、リスキリングや外部人材の活用を含め、迅速に対応していく必要があります。
また、生産性向上を重要指標として位置付け、「調整労働生産性指標」を導入しました。財務部門、AI・DX部門と連携しながら、モニタリングと改善に取り組んでいます。
AIについてはどのような取り組みを進めていますか。
土本「ビジネスにインパクトを与えるAI」と「日々の業務にインパクトを与えるAI」の2つの軸で考えています。「ビジネスの側面」は、お客さま企業と人材のマッチングビジネスそのものにAIを活用し、提供品質やスピードを向上させる取り組みです。一方の「業務の側面」は、お客さまへの価値提供を支える社員が日々AIを使いながら働くための支援です。単にツールを提供するだけでなく、「AIと一緒に働くのが当たり前」という意識をどうインストールしていくかが、重要だと考えています。
パーソルホールディングスグループ人事本部 人事企画部 シニアエキスパート
土本 晃世 氏
充実したストーリーでカルチャーを伝える
2026年に3回目となる人的資本レポートを発行しました。これまでの取り組みを踏まえて、今回のレポートの開示の狙いや方向性を教えてください。
土本初回の2023年度は、幅広いステークホルダーを想定して、基本的な考え方や施策全般を紹介しました。2回目の2024年度は、投資家をメインターゲットに人的資本への投資が財務的・社会的価値にどうインパクトを与えるのかをロジカルに示すこと、そして経営のコミットメントの高さをどう表現するかを重視しました。
3回目となる2025年度(人的資本レポート2026)は、中期経営計画の最終年度であり、人事戦略や施策に大きな変更がないタイミングでした。単に前年の更新をしても意味がないので、「誰に何を伝えるのか」を改めて考え、今回は社員と採用候補者を主なターゲットに据えています。
実は、長年当社の事業を見ていただいている機関投資家の方から、「10年にわたりパーソルを見てきたが、カルチャーがよくわからない」という声をいただいたことがあります。
パーソルは「はたらいて、笑おう。」「“はたらくWell-being”創造カンパニー」という抽象度の高い言葉を掲げています。会社側で「これが正解の働きがいや働き方だ」と決めつけず、一人ひとりが自分に合った働き方を「選べる状態」をつくることにこだわってきました。
その結果、外部からはやや抽象的に見えてしまう。3年目のレポートでは、パーソルの「選択肢を増やす」という価値観とそれを本気で実行している姿を、社員のストーリーを通じて伝えることに力点を置きました。
その時々の課題に応じてレポートの方針も変えてきたのですね。今回の人的資本レポートの反応についてお聞かせください。
土本営業部門では、人的資本レポートを顧客企業へのアプローチツールとして活用しています。発行後1週間で約150冊を現場に配布し、営業担当向けの勉強会も実施しました。人的資本インパクトパスをどのように作ったのか、どんなプロセスで策定・開示しているのか、といった質問が多く出ました。
他にも、施策担当者から「きちんと発信してもらえたことでモチベーションが上がった」「自分たちが信念を持ってやってきたことの意味を感じられてうれしい」という声がありました。家族や友人に自分の会社を理解してもらえるという反応も多く、モチベーションやロイヤルティー向上につながっていると感じています。
社外の反応はいかがでしょうか。
投資家の方々からは、「『“はたらくWell-being”創造カンパニー』というコンセプトに真摯に向き合い、その道筋をロジカルに示し、社員の実像も伝わってきた」「言いたいことが非常にクリアで、メッセージが伝わりやすかった」といった評価をいただいています。
投資家とのコミュニケーションも積極的ですね。
土本年2回、統合報告書発行後と人的資本レポート発行後に投資家とのエンゲージメントを行っており、IR部門、サステナビリティ担当部門、人事部門の3部門がそろって機関投資家の皆さまと対話します。そこで得たフィードバックを関係部門が直接受け止め、経営層の議論の材料にしている点も、当社の特徴だと思います。
価値を伝えるため、人材リスクを“外部目線”で捉え直す
人事担当者として、人的資本経営に取り組む原動力はどこにあるのでしょうか。
宮本パーソルに入社するまで、就職氷河期やリーマンショック、子育て期などを経験し、自分らしく働けない状況のつらさを実感してきました。パーソルの派遣社員として働いた時期も含め、いろいろな働き方や選択肢に触れたことで、自分で選べることの大切さを強く感じています。「自分の“はたらく”は自分で決める」というメッセージのもと、一人ひとりの選択肢を増やし、自分で選べる状態をつくることが、私の原動力です。
土本私もキャリア採用ですが、これまでの経験から人材や組織が変わることの難しさと、事業成長と人材・組織の変化をどうつなぐかという課題を強く感じてきました。人的資本開示を通じてうまく外圧を取り込み、自己変革につなげるというアプローチに可能性を感じています。今のエネルギー源は、パーソルの価値観を自然体で体現している社員・スタッフの皆さんの存在です。この集合体としての“パーソル”に意義を感じ、それを支えることがやりがいになっています。
今後の展望をお聞かせください。
宮本AIの進展により働く環境が大きく変わる中で、これまで当たり前に行ってきたエンゲージメントや理念浸透の取り組みを、どう途切れさせずに続けるかが一段と難しくなります。事業・部門ごとの影響や懸念を丁寧に聞きながら、財務・経営戦略とも連動した形で、調整労働生産性などの指標を全体で追っていくフェーズに入っていくと考えています。
土本今後は、リスクと機会に対して人事としてどのような打ち手を講じるのかを、外部にも示していく必要があります。そのためには、人材リスクを外部の目線で捉え直し、「何を課題と認識し、どう動こうとしているのか」を開示していくことが重要です。人的資本経営を、一人ひとりの働き方と企業価値向上をつなぐ仕組みとして、地道に磨き込んでいきたいと考えています。
石河 織恵(日経BPコンサルティング)
パーソルホールディングス株式会社
https://www.persol-group.co.jp/パーソルグループは、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を掲げ、国内外約690拠点・約7万8000人の体制で人材派遣や転職支援、ITアウトソーシング等を展開。経営の方向性である「テクノロジードリブンの人材サービス企業へ」の実現に向け、「AIを起点とした、収益性向上と事業モデル転換」を基本方針とし、取り組みを進めている。
-
サービス内容についての お問い合わせはこちら
お問い合わせをする
- 本文中の情報は、2026年5月現在のものです。
- 本文中に記載の社名、製品・サービス名およびロゴマークは、各社の商標または登録商標です。
- 本文の内容について、理由や形態を問わず、一部または全部の複写・改変・転載を禁止します。