「JASIS 2025最先端科学・分析システム&ソリューション展」レポート

BtoB展示会における企業ブランディングのあり方

  • ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 新井 徹

2025年9月3日(水)から5日(金)まで、アジア最大級の最先端科学・分析システム&ソリューション展「JASIS2025」が幕張メッセ(千葉市)で開催された。主催者発表によると、来場者数は台風15号の影響からか、19,750人と昨年の21,918人を下回ったが、出展社数は444社(昨年408社)、出展小間数は1,287小間(昨年1,214小間)と、ともに昨年を上回った。来場者数、出展社数、出展小間数ともコロナ禍前の2019年の数字に迫りつつある。

今回は「JASIS2025」の代表的な出展ブースを例に取り、BtoB展示会におけるブランディングのあり方について考えてみた。

大規模ブースをホール奥に並べるレイアウト

今回も昨年と同様、展示会で使われたのは幕張メッセの5~8ホール。昨年は5ホール奥に日本電子、8ホール奥に島津製作所と、ホール奥の両端に大規模ブースが配置され、ホール手前には、堀場製作所、リガク、日本分光、日立ハイテク、アジレント・テクノロジーといった中規模ブースが並び、その間で、小規模ブースを挟み込むような形だった。今年は、ホール奥に日本電子(5ホール)、日本分光(6ホール)、日立ハイテク(7ホール)、堀場製作所、島津製作所(8ホール)といった大規模ブースがずらりと並び、その手前を中小のブースが埋める形が取られた。

BtoBの展示会はその業界の縮図であり、大規模ブースはイコール業界大手である。来場者の中には、まずは大手のブースから見て回りたい人もいると思うが、今回の導線は、まずホール奥に人が流れ、一通り大規模ブースを横伝いに回ったあとに、手前の中小ブースに回遊させる流れが作られていると言える。

今回は企業ブランディングの観点から、筆者が注目した業界大手の日本電子、日立ハイテク、島津製作所の3社のブースについてレポートしてみたい。

自社事業を唯一“見取り図化”できていたブース日本電子(JEOL)

5ホールの日本電子(JEOL)は、オーソドックスだがわかりやすい業界大手にふさわしいブース作り。特に感心したのは、ブース中央に掲げられた「YOKOGUSHI 2.0 分野別ソリューション」というパネル。左に「ライフサイエンス」、右に「半導体」という大きな円のアイコンを置き、「ライフサイエンス」の周りに「食品」「サスティナビリティ」の小さな円、「半導体」の周りに「高分子」「電池」「表面処理」という小さな円が配置されている。これは言わば日本電子の事業分野、ソリューションの見取り図だ。各事業への注力の度合いを円の大きさで示し、各事業の関係性を配置で示して可視化する、この簡単なことが実はなかなかできない。どうしても、事業ごとに軽重をつけるというその判断が出来ずに、各事業、ソリューションを横並びで紹介するのが出展社ブースの常である。そして大手になるほどその傾向は強い。今回の「JASIS2025」で自社の事業を“見取り図化”できていたのは日本電子だけだったのではないか。

ひとつ気になったのは「YOKOGUSHI 2.0」の説明がやや手薄だったこと。パネルでの説明は複数個所に設置されているが「YOKOGUSHIとは何のことで、2.0でどう進化したのか?」について、もう少し説明があってもよかったかもしれない。日本電子の事業方針を示す重要なキーワードであろうし、社内では概念が共有されていると思うが、展示会で初めてこの言葉を知った人にも分かる丁寧な説明が欲しかった。

これはもう「HITACHI」のブース日立ハイテク

7ホールの日立ハイテクは、「日立ハイテク」というよりは「HITACHI」のブースと言える。かつての「Hitachi High-Tech」のロゴは完全に姿を消し、赤と白で構成された「HITACHI」のロゴが遠目にも存在感を示していた。グループ企業の場合、グループとしてのブランディングと各事業会社のブランディングをどのように整理し、どちらをどう立てるのかが大きなブランディング課題となるが、日立グループの場合は「真のOne HITACHI」の旗頭のもと、グループとしてのブランディングに大きく舵を切っている。今回のブースでも大型ビジョンに映し出されるブランディング・ムービーをはじめ、展示パネルのタイトル文字の立体加工といった細部まで、日立ハイテクとしてというよりは日立グループ、あるいは親会社である日立製作所としてのコストの掛け方で、他のブースとは一線を画していた。この打ち出し方を突き進めていくと、「HITACHI」としての総合力は際立つが、一方で「日立ハイテク」という会社の個性が埋もれてしまう危惧もある。ただ、今回のブースに関して言えば、「HITACHI」のブランドパワーを、また「日立ハイテク」がその一翼を担う企業であることをあらためて思い知らされた。

創業150周年をしっかり訴求できていたブース島津製作所

8ブースの島津製作所は、昨年に引き続きクローズド型で、ブース内に入るには島津製作所独自の受付で入場証のQRコードを読み取らせる必要がある。来場者にとってはひと手間増えるが、出展者にとってはブース来場者の完全なリード化が可能。展示会の中にプライベートショーがあるかのようなこの形式は大規模な小間数と「来場者は誰しも島津製作所のブースは見たいだろう」という業界大手としての自信が無ければ成り立たないものだ。

今年のブースで特筆すべきは、創業150周年の特設コーナー。創業者の夢を伝える『150周年記念アニメーション 島津源蔵の軽気球への夢』をモニターで流していたほか、仏具製作が源流で京都の伝統工芸と深い関わりがあったということから「技(わざ)と業(わざ)」と題して、西陣織や京漆器で筐体に装飾を施した装置を展示するなど、老舗企業ならではの周年ブランディングがしっかりとできていた。

展示会は企業ブランディングの場

自社事業を“見取り図化”できていた日本電子、コストを掛けて「One HITACHI」を徹底的に打ち出していた日立ハイテク、創業150周年をしっかり訴求できていた島津製作所。ある程度の小間数が無ければ、ただ展示パネルと装置を並べるだけになってしまうが、大手3社は自社に与えられているスペースを有効に使い、それぞれのアプローチで企業としてのブランディングができていた。

展示会は自社ホームページ同様、企業自らがトータルに情報を発信することができる場である。見る側からすると「企業そのもの」に映る、言わば企業を映す鏡。最近は自社ホームページに事業や製品の紹介だけではなく、パーパスやビジョンといった企業ブランディングの要素やそれらを浸透させるためのコンテンツを用意する例も増えてきたが、展示会も企業ブランディング実行の場であることを意識してブース作りを行なうことが重要である。

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