成果を生む導入事例の戦略的な作り方

2025.02.05

コンテンツマーケティング

  • コンテンツ本部 ソリューション1部 太田 美保

導入事例は、他社の成功体験を通じて課題解決のベストプラクティスを理解していただくための重要なツールです。具体的な導入プロセスをイメージしやすく、潜在顧客にとって貴重な情報源となります。しかし、効果的な導入事例を制作するには戦略的なアプローチが必要です。本記事では、営業成果に直結する導入事例の作り方をご紹介します。

多くの企業が導入事例の制作に苦心しています。例えば、以下のような声をよく耳にします。

「制作した導入事例が実際の成果に結びついている実感がない」
「効果測定の適切な方法が分からない」

よくいただくご相談の例

  1. 導入事例の成果を測定するための具体的な目標設定方法が分からない
  2. 戦略的な計画なく制作を進めてきたため、業種や製品・サービスのバランスが偏っている
  3. 理想的な事例となる顧客企業からの協力が得られない

これらの課題を解決するためには、明確な目標設定と綿密な計画立案、そして効率的な制作体制の構築が重要となります。

成功のカギは適切な目標設定から

では、導入事例制作の目標設定は、どのように進めればよいのでしょうか。目標は、自社のマーケティングや営業活動における課題から導き出します。まずは「営業活動において導入事例にどのような役割を持たせるか」を明確に定義することから始めましょう。

導入事例には、主に以下の機能があります。現状の営業課題と照らし合わせながら、導入事例に担わせたい役割を検討しましょう。

導入事例の8つの機能

【営業支援の機能】

1. 提案力の強化
見込み顧客と類似した課題を抱える企業の成功事例を示すことで、商談時の説得力を高めます。
2. リード創出
さまざまな媒体での事例発信を通じて顧客接点を増やし、新規リードの獲得につなげます。
3. 信頼性の構築
社会的に信頼性の高い企業での導入実績を紹介し、自社製品・サービスへの信頼を醸成します。
4. 競争優位性の確立
実際の比較検討時のストーリーから、他社製品・サービスとの違いや独自の強みを示します。
5. 顧客関係の深化
制作過程を通じて事例に登場する顧客との関係を強化し、顧客満足度やロイヤルティー向上を図ります。

【組織強化の機能】

6. インサイトの獲得
顧客インタビューを通じて得られる生の声を、製品改善や新サービス開発に活用します。
7. 社内理解の促進
成功事例の共有により、従業員の製品・サービス理解と提案力を向上させます。
8. パートナーシップの強化
協業先との成功事例を示すことで、パートナー企業との関係を強化します。

役割が定まったら、具体的な成果目標を設定し、その達成度を測るためのKPI(重要業績評価指標)を決定します。これらのKPIを定期的にモニタリングすることで、導入事例の効果を測定し、必要に応じて改善を図れます。以下は主なKPIの例です。

導入事例制作のKPI設定例

【営業活動の指標】

  • 営業担当による活用頻度(月間使用回数)
  • 商談での活用効果(成約率の変化)
  • 新規リード獲得数

【オンライン効果の指標】

  • 事例ページの検索順位
  • ページビュー数と滞在時間
  • 資料ダウンロード数
  • 問い合わせ転換率(コンバージョン率)

【組織への波及効果】

  • 顧客満足度、顧客推奨度(NPS®)
  • 社内での活用度(従業員の閲覧状況)
  • パートナー企業からの評価

導入事例は計画的かつコンスタントに作る

導入事例を内製する場合、まずは関係の深い顧客企業への協力依頼から始めるケースが一般的です。しかし、この方法では一定数の事例制作後、継続的な制作が難しくなりがちです。

より効果的なアプローチは、年間計画に基づく戦略的な制作です。計画的なアプローチには以下のメリットがあります。

  1. 制作体制の効率的な構築が可能
  2. 組織規模・業種・製品カテゴリーなど、バランスの取れた事例ポートフォリオの構築
  3. 最新の成功事例を常に提供できる体制の確立

計画的かつ継続的な制作により、刻々と変化する市場のニーズに即した事例を提供できます。見込み顧客に対して「この製品・サービスで自社の課題が解決できる」という具体的なイメージを持っていただけます。

さらに、定期的な事例公開には、SEO(検索エンジン最適化)面でも大きなメリットがあります。新規コンテンツの継続的な追加により、検索エンジンのクロール(巡回)頻度が向上し、オーガニックトラフィック(検索広告を使わない自然な検索流入)の増加が期待できます。

年間計画で検討すべき項目を「一覧表」で整理

導入事例の年間計画は、以下の主要項目を体系的に整理することから始めます。

計画策定の主要項目

  1. 重点製品・サービス
    ・受注強化を目指す製品・サービスの特定
  2. ターゲット市場
    ・注力する業種・業界の選定
    ・対象となる組織規模の定義
  3. メディア戦略
    ・コーポレートサイト
    ・サービス専用サイト(LP)
    ・ビジネスメディア
    ・営業資料・実績集
  4. 制作計画
    ・メディア別の必要記事数
    ・最適な公開タイミング(顧客の検討・予算確保時期を考慮)

例えば、今後注力したい製品・サービスや、重点的に展開したい業界がある場合、既存の導入事例を、以下のような一覧表で整理します。

「製品・サービス」と「業界」を軸にした一覧表の例

縦軸に自社の製品・サービス、横軸に業種を配置し、それぞれのセルに既存の事例の顧客名を入れていきます。

この一覧により、事例が不足している領域や集中している分野が視覚的に把握できます。

さらに、今後事例化を検討している顧客を色分けして追記することで、次に制作すべき事例の優先順位を明確にできます。

[一覧表のテンプレートはここからダウンロードできます]

ここで重要なのは、全てのセルを均等に埋めることではありません。あくまで営業戦略に基づき、重点領域に注力した効率的な事例制作を心がけましょう。

導入事例の協力依頼は「納品時」がベストタイミング

導入事例の制作で避けて通れないのが、顧客企業への協力依頼です。多くの企業が「ご担当者さまへの負担」や「依頼を断られるリスク」に不安を感じています。

スムーズな協力を得るためには、以下の2点が重要となります。

  1. 導入事例掲載による顧客側のメリットを具体的に説明
  2. 制作プロセスの負担が最小限であることを明確に伝達

特に効果的なのが、納品や導入完了のタイミングでの事前打診です。取引完了直後は顧客との関係が最も良好な時期であり、協力を得やすい機会となります。

これらのポイントを意識することで、協力依頼のハードルを大きく下げられます。

質の高い導入事例を生む制作体制の構築

計画策定後は、制作チームの編成が重要です。安定した体制を整えることで、一貫性のある質の高い事例制作が可能になり、制作プロセスの効率も向上します。

社内リソースが不足する場合は、以下の能力を持つ外部スタッフの起用を検討しましょう。

  • 製品・サービスへの深い理解
  • 顧客業界に関する専門知識
  • 本質を引き出す取材力
  • 説得力のある文章力・デザイン力
  • 顧客対応力

特に顧客対応力は重要です。適切なコミュニケーションは、協力企業や営業担当からの信頼獲得にもつながります。

良質な導入事例は、営業活動を支援する重要なマーケティングツールです。明確な目標設定、計画的な制作、そして適切な体制づくりを通じて、成果につながる導入事例を作り上げていきましょう。

導入事例制作コンサルティングのご案内

戦略的な導入事例制作をトータルサポート

日経BPグループのスペシャリストが、成果につながる導入事例の制作をサポートいたします。

コンサルティング本部 ソリューション1部
太田(おおた) 美保(みほ)

これまで広告会社等で、主にBtoB企業のブランディングやインターナル・コミュニケーション、マーケティング支援のためのコミュニケーションプランの策定と制作ディレクションを担当。