“未来を創る事業と組織の変革” 生成AI時代における事業戦略と組織のあり方➁
生活者データ×生成AI:生活者データで描く事業と人材・組織の進化
2024年12月5日開催 NBPCキックオフカンファレンス2025
「“未来を創る事業と組織の変革” 生成AI時代における事業戦略と組織のあり方」より
文=小林渡 構成=藤本淳也
非構造化データを生成AIで積極的に活用し、企業の競争力を高める
「原材料費、人件費などのコスト増や、人口減によって市場が縮小する一方で消費者のニーズが多様化していること、商品のコモディティー化によって低価格競争を余儀なくされていること、これら3つの要因が相まって、企業の低収益化という大きな問題が発生している。これを解消するには、今までのビジネスのやり方そのものを変える必要がある」と、高野氏は日本企業の置かれている現状を指摘した。そして、「多様化するニーズを捉え、価値ある商品を創出し、商品サービスの価値を高めること。業務の効率化によってコストを削減し、競争力を高めること。この2つを両軸で進めることが非常に重要になる」と語る。
高野氏はまず、商品やサービスの価値を高めるに当たり、その要因が何であるのかを明示した。サービスの価値を高める要素には、①価格的な価値、②機能的な価値、③情緒的な価値の3つの価値が考えられるという。しかし、価格(①)や機能(②)で大きな差別化を図ることが難しくなってきた現状では、情緒的な価値をいかに高めるかということが重要になってくる。「情緒的価値は他のデータと異なり、測定するためには非構造化データを解析する必要がある」と高野氏は語る。
一般的に、データには表や数値データのような規則性のある構造化データと、テキストや画像など規則性のない非構造化データの2つがあり、生成AIが登場するまで、分析のために機械が扱えるデータは圧倒的に前者だった。企業の持つデータのうち、実は構造化データは20%程度で、残りの約80%は非構造化データだといわれている。高野氏は「非構造化データの海の中には、企業にとって重要なインサイトが隠れており、それらを適切に活用することが競争力の向上に直結する。それを可能にするのが生成AI」と説明した。
膨大なデータを生成AIが読み解き、人はよりクリエイティブな業務へ
では、商品開発のプロセスにおいて、生成AIはどのような価値をもたらすのだろうか。高野氏は、「商品開発のプロセスは主に6つのステップで進む」と語る。
生成AIはいずれのフェーズにおいても価値を提供することが可能。リサーチのフェーズであれば、生成AIは人よりも広範なリサーチが可能となるため、そこから出てきた情報を基に人が深い洞察を行うことに注力でき、よりクリエイティブな業務が実現できる。また、戦略・意思決定のフェーズなら、生成AIによって人が意思決定する上で起こりがちなバイアスを排除し、意思決定を支援してもらうことが可能となる。実装とモニタリングのフェーズでも、それまで人がやっていた改善案の作成を生成AIに自律的に提示してもらうことで、迅速な対応が可能となる。
ここで、高野氏より、生成AIを利用した商品開発の例が示された。膨大なデータから消費者トレンドを発掘し、今、どのような商品が注目を集めているのか、さらにはその理由がどこにあるのかといった、情報収集から解釈までを一貫して生成AIに任せ、可視化することも可能だという。また、商品がヒットする背景のみならず、「そのトレンドが生まれている社会的な背景を推察するといった、マクロ環境の変化を読み解くこともAIの得意分野」と高野氏は語る。
また、異業界の動向も含めて横断しながらリサーチすることも生成AIは得意としている。例えば、食品メーカーが美容業界のトレンドをつかんで、先行市場で起こっていることを食品業界、美容業界それぞれで比較しながらインスピレーションを得ることも可能だという。さらに、その情報を基に新たな商品の企画案まで生成AIにつくらせることもできる。もちろん、そのまま採用できるレベルのものが出てくることは少ないかもしれないが、今、市場が求めているものはどういうものなのか、人のバイアスがかからずに生成されるというところに価値があると高野氏は説明した。
企業のトップが主体となって、組織全体で取り組む必要がある
では、企業の課題解決のためのもう1つの軸である、業務の効率化やプロセスの最適化を図る際の、生成AIの活用方法とは何か。高野氏は「生成AIは単なるツールの枠を超えて、市場や企業にとって、これまでの常識を覆すディスラプター(既存の業界の秩序やビジネスモデルを破壊するプレーヤー)として機能する」と、生成AIに対する社内の捉え方を語った。
PwCコンサルティングが2023年に行った生成AIに関する実態調査では、日本企業の多くが「他社より相対的に劣勢にさらされる脅威」を感じているという。さらに、彼らが脅威に感じている理由をひもとくと、競合他社に先を越される可能性や、新規競合の参入によって市場を奪われることが挙げられており、生成AIを「市場のディスラプター」として捉えている企業が多いことが分かる。
現状では、定常業務など、日々のデイリータスクの中で生成AIを使うというケースが多いが、高野氏は「この先は、生成AIによるビジネスプロセスの再構築や、新しいビジネスの創出へと進化していくことが一般化していくだろう」と予測。特に日本企業の場合、「今までは人が中心となって、組織ごとに最適化した業務を定め、それを人が支えていた。しかし2000年以降、ソフトウエアが発達し、人だけではカバーし切れなくなっているのが現状」と指摘する。「生成AIが進化した現在、AIがビジネスプロセスの中心もしくは下支えとなり、人は生成AIを活用し改善を重ねていくという、新しい構造変化が求められる」と、これからの見通しを語った。
日本企業が生成AIをビジネスの中核に据えるには、組織、プロセス、人材、システム、データという、企業のリソースを一体で検討する必要があり、組織文化の変革を伴う。「特に重要なのは、組織構造における経営、CxOの旗印」と、トップダウンの必要性を高野氏は説く。さらに、兼務ではなく、専門組織の立ち上げや、外部の視点を持った人材の登用によってプロセスの改善を進めることも重要とした。
また、その進め方もポイントとなる。高野氏は「まず、経営・CxO主導で大方針が策定されるという前提で、領域横断の専門組織を立ち上げ、各部門からの要員を入れること。それを基に現場調査をして方針を策定し、変革のモニタリングアクションをしていく。重要なのは、部門横断で定常的にこれらのプロセス改善を回していってブラッシュアップすること」だと解説した。というのも、ここを従来通りに個々の部門で実施すると、どうしても各部門内での最適化に向かってしまうからだ。高野氏は「部門横断で定常的に回していくというプロセスが非常に重要」と締めくくった。
連載:「“未来を創る事業と組織の変革” 生成AI時代における事業戦略と組織のあり方」
- ビジネスへの生成AI活用の現状と将来
- 生活者データ×生成AI:生活者データで描く事業と人材・組織の進化
マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
兼 ブランド本部 大学ブランド・デザインセンター コンサルタント
藤本 淳也
インターナルコミュニケーションや教育、HR、音楽などの様々な領域で、企画編集/マーケティング/プロダクトマネジメントに従事し、2022年に現職。コンサルティングから課題設定、ストーリーメイキング、各種制作と、コミュニケーション支援を幅広く担当している。
※肩書きは記事公開時点のものです。