“未来を創る事業と組織の変革” 生成AI時代における事業戦略と組織のあり方①
ビジネスへの生成AI活用の現状と将来
2024年12月5日開催 NBPCキックオフカンファレンス2025
「“未来を創る事業と組織の変革” 生成AI時代における事業戦略と組織のあり方」より
文=小林渡 構成=藤本淳也
Googleの論文が切り開いた生成AIの驚異的な進化
ChatGPTの登場以降、わずか2年の間に、MicrosoftはBing、GoogleはGemini、MetaはLlamaを公開し、世界的なテック企業がAI開発にしのぎをけずっている。こうしたAIの進化に大きな影響を与えたのが、2017年にGoogleが発表したトランスフォーマーと呼ばれる深層学習モデル並びに「Attention Is All You Need」という論文だ。
Googleは当初、翻訳のためにトランスフォーマーを開発し、論文として発表した。しかし、この学習モデルは自然言語処理全般にも使われるようになり、「それまでのリカレントニューラルネットワーク(RNN)というシンプルなモデルから、アテンションメカニズム、いわゆる文章の構造を理解し、どの単語に注目すべきかについて演算できる仕組みが導入され、性能が画期的に上がった」と伊藤氏は語る。これらのパラメータやデータ学習はある一定の規模を超えると、一気にAIの性能が上がることが分かっており、それがChatGPTの驚異的な性能によって広く一般的に知られるところとなった。
生成AIの活用によって社会問題化が予想される3つの問題点
伊藤氏によれば、「企業における生成AIの利活用は、おおむね4つのグループに分類される」という。それらは①情報収集・分析、②文書作成・コミュニケーション、③クリエイティブ・創造性、④業務効率化からなり、すでに活用が進んでいるものも多い。その一方で、生成AIが利用される中で、いくつかの問題点も浮かび上がっており、伊藤氏はそれらの問題点とリスクは大きく3つあると指摘した。
生成AIの問題点
- 機能・品質面の問題点
誤った、あるいは質の低いアウトプットが生成される - 倫理・社会面の問題
著作権やプライバシーの侵害の可能性など - 負の利用の問題点
フェイク画像や動画、サイバー攻撃、詐欺
「機能・品質面の問題点」に関しては、あたかも事実のように書かれた“実在しない話”や、存在しない画像を出力する生成AIにあぜんとした経験のある人も少なくないはずだ。これは「確率的に次に続く文章を生成するという生成AIの仕組み上、確率的に間違う可能性があることや、偏ったデータで学習していることによって起こってしまう」と伊藤氏は語る。そのため、生成された結果が正しいかどうか、使う前にきちんと確認することが必要で、RAG(検索拡張生成)と呼ばれるデータベースやWebなどから得られた情報をプロンプトに加え、精度を向上させる技術の利用も考えられる。特にAIの学習に用いられるデータは圧倒的に英語のものが多く、現時点では、少ないデータ量で日本語の文章の精度の高い生成を行うことは難しい。
2つ目の「倫理・社会面の問題」では、まず、日本の著作権法を理解しておく必要がある。現状では、AIの開発学習において著作物をデータとして利用することは、著作権法上可能となっている。しかし、AIが生成したものに対しては、通常の著作権法と同じ基準が適用される。つまり「生成された画像などが、既存の著作物と類似していることが認められれば、著作権侵害とみなされる可能性がある」と伊藤氏は語る。また、大規模なデータの収集分析によって、SNSなどで発信されるデータから個人の活動などが特定され、プライバシーが侵害される可能性もあるという。それ以外にも、学習時に利用したデータが漏洩したり、不正利用されたりすれば大きな問題となり得る。一方、学習のために使ったデータに偏りがある場合は、差別や偏見を助長するような結果が生成される恐れもある。これらを防ぐために、伊藤氏は「出力されたものに対して、類似のコンテンツがないかどうか、個人情報に抵触しないかどうかチェックすることや、SNSなどの自分のデータをAIの学習にどこまでなら利用されても問題ないのか、契約事項やオプションを確認し、適切なものを選択する」ことをその対策としてあげた。
3つ目の「負の利用の問題点」では、すでに有名人を使ったフェイク動画やフェイク画像、フェイクニュースなどが出回り、問題化している。伊藤氏によれば「GAN(敵対的生成ネットワーク)と呼ばれる生成と識別、2つのAIを敵対させながらより本物に近い画像を生成する技術の登場により、見分けることが非常に困難になってきている」とのこと。情報を受け取る側として、その情報がどこから来たものなのか、データソースと信頼性を確認する必要があるだろう。さらに、悪用という点では、ウイルスやマルウェアなどのプログラムを効率的に生成させることも可能だ。また、詐欺サイトの構築や、フィッシングメールの文面の作成といったことに利用されるだけでなく、AIかけ子や、有名人のなりすまし動画など、人をだますために生成AIの高い能力が使われる可能性がある。
進化し続ける生成AIの未来と、ビジネスに与えるインパクト
この先、生成AIはどんな進化を遂げていくのだろうか。「すでに行われている会議の議事録作成だけでなく、話者の画像やPowerPointなどの会議資料を参照し、より詳細な記録を作成したり、会議での未決定事項や懸念事項をAIが指摘し、会議運営を支援したりすることも考えられる」と伊藤氏は語る。「製造業ではカメラ画像を参照して作業内容を指示。医療・ヘルスケアの分野では、医師の診断や手術を支援する形で使われる可能性もある。また、これまでクリエイティブな分野は機械に処理させるのが難しいとされてきたが、シナリオの作成のみならず、絵コンテやポスターのデザイン案まで作成できてしまうなど、コンテンツ作成全体も容易になるだろう」と伊藤氏は予測する。
現在は幅広い問題に対応できる汎用的な生成AIが普及しているが、これらの基盤モデルは英語を中心とした言語空間でつくられている。そのため「日本語の言語データを学習し、日本向けの生成AIに特化したものや、法律や知財、財務管理、経理監査など、特定のデータを学習し、特定の用途に特化した基盤モデルによる生成AIに移っていくのではないか」と伊藤氏は続けた。
一方、倫理・社会面の問題に対しては「どんなデータを学習に用いたのか開示することや、コンテンツを生成したのがAIであることを明示することが求められる」と指摘。同様に、画像や動画に改変が加えられた場合でも元のコンテンツをたどることができるようなトレーサビリティ技術の実装や、クリエーターの権利を保護するルール形成が必要だとした。「そういった個人や企業に向けたフェイクや攻撃などのリスクに対して、保護サポートするAIも登場するかもしれない」と伊藤氏は語った。
AIの進化によるポジティブとネガティブ、それぞれの影響を考慮しながら、どんなことが課題となるのかを抽出し、社会実装に向けて提言していくのも今後の伊藤氏、ひいてはNEDOの業務だという。ルーチン的な仕事がAIに代替される中で、人に求められる仕事の内容も変わっていく。伊藤氏は「AIを用いた業務へのシフトによって、ツールの研修やリテラシー教育、人材の育成がビジネスの基礎になるのでは」と締めくくった。
連載:「“未来を創る事業と組織の変革” 生成AI時代における事業戦略と組織のあり方」
- ビジネスへの生成AI活用の現状と将来
- 生活者データ×生成AI:生活者データで描く事業と人材・組織の進化
マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
兼 ブランド本部 大学ブランド・デザインセンター コンサルタント
藤本 淳也
インターナルコミュニケーションや教育、HR、音楽などの様々な領域で、企画編集/マーケティング/プロダクトマネジメントに従事し、2022年に現職。コンサルティングから課題設定、ストーリーメイキング、各種制作と、コミュニケーション支援を幅広く担当している。
※肩書きは記事公開時点のものです。