「JASIS 2024最先端科学・分析システム&ソリューション展」レポート
BtoB企業における展示会ブランディングの意義とは?
今回は、コロナ禍を経て、企業側がビジネスパーソンとどのように接点を持つのか再考する企業もある中、JASIS2024をケーススタディに、BtoB企業における展示会の意義について考えてみたい。
展示会ブースは企業を映す鏡
展示会ブースはホームページに似ている。いずれもメディアを介さずに、企業自らがトータルに情報を発信することができる場だ。そして、展示会ブースもホームページも、見る側からすると「企業そのもの」に映るという点も共通している。
またどちらも、取りまとめを行なう部署と経営部門・事業部門が連携しながら、より良いコミュニケーションを目指す。そうした点でも展示会ブースやホームページは企業を映す鏡と言えるだろう。
運営の際には、パーパスやサスティナビリティに対する方針、企業の強み、らしさがしっかりと示されているか?といった「コーポレートブランディングの観点」、そして、全体のテーマ、ソリューション、製品がトータルに表現できているか?また、その一方で注目の技術、製品がしっかり訴求できているか?といった「商品ブランディング、マーケティングの観点」の双方から、どのように実行・制作プランを立案するか、頭を悩ませるご担当者の方も多いと思われる。
リアル展示会は業界の縮図
来場者にとっての展示会の魅力はその一覧性にある。展示会はある特定の分野、業種が一堂に会するものであり、「JAPAN MOBILITY SHOW(旧東京モーターショー)」のようにコンシューマまで視野に入れたものもあるが、ビジネスパーソン向けの展示会も数多い。その分野・業種の、大手・中小・新興企業のブースが軒を連ねる会場を一日見て回れば、その業界の技術、製品に関する最先端の知識を得ることが出来る。
また、知識だけではなく、出展企業の顔ぶれ、小間の大きさ、人の集まっているブースなどで、その業界でどこが大手で、どこに勢いがあるのかを体感できる。ある種、業界を可視化したものが展示会であり、展示会は業界の縮図といえる。
デジタルにないリアルの魅力とは?
また、展示会とフェスは似ている。ともにリアル開催が基本だが、新型コロナウイルス感染が拡大した2020年からの3年間は中止、延期、あるいはやむなくオンラインに切り替えて実施された。JASISはリアルだけではなく、オンラインでのWebExpoを開催している。感染状況が落ち着いたことで、今後、本格的なリアル開催に舵を切る催しが続々と出てくるだろう。
DXが進むほど、デジタルに乗らないものの価値は逆に高まってきている。実機を自分の目で確かめ、場合によっては手で触れ、その場で説明員に話を聞けるのがリアルならではの展示会の魅力。特にBtoB展示会の場合は、購入金額もBtoCとは比べ物にならないほど、高額である。デジタルの情報のみで購買決定につながるケースは稀であり、実機をその目で比較検討できる展示会は売り手側、買い手側の双方にとって重要な機会と言えるだろう。
未知の技術や製品に出会える可能性
もう1点、フェスと共通する展示会の魅力がある。それは予期せぬ情報に触れる可能性があるという点だ。フェスの会場では複数のステージで様々なアーティストがライブ演奏を繰り広げている。お目当てだけではなく、日頃聴きなれないアーティストに接して関心を抱くこともあるだろう。同じように、展示会もたまたま通りがかったブースで、興味の持てる技術や製品に出会える可能性がある。
自ら情報を取りに行けるのがWebやSNSなどのデジタルメディアの魅力だが、視野が狭くなってしまうというデメリットもある。これまで関心がなく知り得なかった分野、技術、製品に触れることができるのも展示会の魅力だ。
完全クローズド型ブースの功罪
このように、展示会出展の意義は様々あるが、筆者は、BtoB展示会として盛り上がりを見せた「JASIS2024」に参加して、先の2つの視点から、ブランディングとしての意義を考えてみた。今回最大の小間数を誇ったのは、島津製作所であった。黒塀で三方を囲み、開口部に独自受付を設ける完全クローズド型のブースだ。まるで展示会のスペース内でプライベートショーを開催している趣き。この形式はある程度の小間数が無ければ成り立たず、「誰もが島津製作所のブースは見たいだろう」という業界大手としての余裕が感じられる。独自受付は来場客のリード化、囲い込みには有効だし、クローズド型ブースは手続きを行なった一部の来場者しか見ることができないため、島津ブランドの稀少価値、ステータス感も演出する。ただ、「気軽さ」はあまりなかった。
展示会を周年ブランディングの機会に
二番目に大きなブースは日本電子(JEOL)。今回、幕張メッセ 国際展示場の5~8ホールで展示が行われたが、5,6ホールと7,8ホールは「いこいのモール」で二分されており、5ホールに日本電子、8ホールに島津製作所と、両端に大手のブースを配置することで、展示会場全体に人が回遊する導線になっていた。
日本電子のブースは、ある意味チャレンジングな島津製作所のクローズド型ブースに比べると開放感のある造り。カラーリングも島津製作所の黒に対し、日本電子は白と対照的。小間の大きいブースならではの、高さを有効に使った造作で、柱に縦書きされた「サスティナビリティ」「医薬品・創薬」といったソリューション名は遠くからでも視認性があった。あらゆる方向からブース内に入りやすい開放感、抜け感もあり、この点でも島津製作所の対極にあった。
日本電子は、今年、設立75周年を迎える。そのため、周年ロゴが数カ所掲示されていたが、周年展示がブース裏の社史パネルと創業時の動画くらいで、あまり目立っていなかった。創業時の想いや会社の歴史を伝えることは、あらためて企業の存在意義や社会的な役割を伝えることにもつながる。
“立体”を意識した空間デザインが重要
堀場製作所のブースは、島津製作所、日本電子に比べると規模は小さいが、かなり大きめの電飾付き社名ロゴをブース上部に設置し、5ホールの入り口側という好立地もあり、目立っていた。また、屋根の部分に社名ロゴが記されたテント生地を貼ることにより、2階の入場口から会場を俯瞰したときに「HORIBA」の文字が目に飛び込んでくる工夫がしてあった。
日本電子が高さを有効活用していたこともそうだが、展示会の場合、“立体”を意識した空間デザインが重要になる。また、自社ブースのことだけではなく、会場導線や来場者視点、周辺ブースとの関係性もポイントとなってくる。
展示会は最も力を入れるべき施策
今回、久しぶりにリアル展示会に足を運んだ。BtoB企業にとってはブランディングにおいても、また、マーケティングや具体的な商談の場としても、展示会出展は、これから今一度力を入れてよい施策なのではないだろうか。今後の各企業の展示会への取り組みに期待したい。
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
新井 徹