ポストデジタル時代のマーケティング・コミュニケーション 第1回
サービスサイトが担う役割 “デジタル化だけでは競争力にならない”
ポストデジタル時代への移行期である今、単なる情報発信の場を超えた企業のサービスサイト(営業・販促・事業紹介を目的としたサイトの総称)が、その重要な役割を担っています。サービスサイトは、顧客が企業と接触する重要なタッチポイントであり、ブランド体験の提供やコンテンツマーケティングの中心的な役割を果たすだけでなく、顧客に対して具体的な便益をもたらす場でもあります。第1回では、マーケティング・コミュニケーションの潮流と、それに伴うサービスサイトの在り方について解説します。
ポストデジタル時代のマーケティング・コミュニケーション
デジタル技術が進化し、AIやIoTなどの先進技術が社会の基本的なインフラとして普及・定着した時代では、リアルタイムのデータ解析によるパーソナライズされたサービス提供や、オンラインとオフラインが統合されたユーザー体験が当たり前になります。
ポストデジタル時代では、高機能なデジタルツールの導入やDX(デジタルトランスフォーメーション)は浸透・定着し、デジタルを主語にした取り組みだけでは競争力を生むことはできません。マーケティング・コミュニケーション領域における競争力の源泉は、プリミティブ(根源的/原始的)なものに回帰し、企業理念に基づく熱量の高い取り組み、社会視点に基づく活動、お客さまの声に応えた課題解決能力、伝統と歴史に裏付けられた技術などがよりどころになると考えられます。来たるべき時代を見据え、サービスサイトがどのような役割を担っていくべきかについてお伝えします。
ターゲット個別に対応するには目的別サイトが必須
上場・非上場、企業規模、業種、BtoB、BtoCなどの違いでコンテンツの品ぞろえは異なるものの、コーポレートサイトは全てのステークホルダーに対応する受け皿でなければなりません。顧客、取引先、従業員、株主・投資家、地域社会、これから採用する人材などを対象とし、情報の公開・開示・発信を通じてコーポレート・コミュニケーションの中心的役割を果たす必要があります。
コーポレートサイトとは異なり、特定のターゲットに対して個別に対応するのが目的別サイトです。財務情報の開示を主にしたIRサイト、非財務情報の開示を主にしたサステナビリティサイトは、コーポレートサイトの配下に配置している場合が多く、非財務情報は、株主・投資家がメインターゲットですが、自社の存在価値や企業理念を実践したサステナビリティ/パーパスコンテンツを、顧客、取引先、これから採用する人材に対してブランディングの意味合いをもたせ、企業価値を高める取り組みも増えてきています。
マーケティング領域は、事業サイト、営業サイト、販促サイトなど様々な呼び名があり、オウンドメディアが、マーケティングの一つとして位置付けられている場合もあります。また、デジタル広告、デジタルマーケティング等の施策に対する受け皿として制作した、LP(ランディングページ)が集合体となり、それらを総称してとして新規顧客獲得サイトとしているケースも見受けられます。冒頭で述べたとおり、様々な呼び名が混在しているマーケティング・コミュニケーション領域のサイトを、“サービスサイト”とし、本来のあるべき姿についてご説明します。
マーケティング・コミュニケーションが果たすべき役割
企業の情報公開・開示・発信は、コーポレートサイトやSNSなどのデジタルチャネルが中心になったため、様々な活動の結果が可視化・定量化されるという利点があります。しかしその一方で、サービスサイトが担うべきマーケティング・コミュニケーションから、見込み客の獲得・育成(リードジェネレーション・ナーチャリング)が切り出され、獲得に特化したデジタルマーケティングの比重が高まった結果、本来のマーケティング・コミュニケーションが果たすべき役割が見失われていることがあります。マーケティング・コミュニケーションは、単なる顧客獲得にとどまらず、ブランド価値の向上や顧客関係の強化を通じて持続的な成長を支える重要な要素であるため、その重要性を再認識する必要があります。
こうした背景から、コーポレートサイトと目的別サイトの位置付けを整理し、改善するためのサイトリニューアルが、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック以降、増加しています。企業は、ポストデジタル時代への移行期である今、サービスサイトの役割と目的を明確にして、一貫性のあるマーケティング・コミュニケーションを実現しなければなりません。
サービスサイトに立ちはだかる課題
コーポレートサイト内における事業案内や商品・サービス紹介は、プロダクトアウトの視点で語られることが一般的です。これは、自社のケイパビリティ(能力)を結集したアウトプットとして、作り手側から情報を発信することに価値があるため、決して悪いことではありません。
マーケティング・コミュニケーションの中心となるサービスサイトにおいては、顧客視点の欠如やコンテンツの一貫性の欠如、運用体制の複雑化など、様々な要因が重なり、課題を多く抱えたまま、解決に対して具体的なアクションができていない状態を多く見受けます。これらの要因には、以下のような具体的な問題が含まれます。
顧客視点の欠如
利用者のニーズや関心を十分に反映していないコンテンツや構成。例えば、ターゲット層に響かない専門用語の多用や、ユーザーフレンドリーでないナビゲーション、コンテンツ構造。
コンテンツの一貫性の欠如
情報が断片的で、統一感がないためにメッセージが伝わりにくい。例えば、異なるページで矛盾する情報や、ブランドとしてのトーン&マナーが一貫していない記事が掲載されている。
運用体制の複雑化
複数の担当者やチームが関与することで、更新や管理が煩雑になりやすい。例えば、コンテンツ更新の際に承認プロセスが多段階で時間がかかる、担当者間のコミュニケーション不足で情報が正確に伝わらない。
データの活用不足
ユーザーの行動データや営業部門が吸い上げた生の声を十分に活用せず、改善に反映できていない。例えば、アクセス解析ツールを導入しているが、分析にとどまっており、具体的なアクションの改善ができていない。
ツール利用の不合理
サイトの技術的な問題や古いシステムが原因で、コンテンツ更新や新機能の導入が難しい。例えば、CMS(コンテンツ管理システム)の使い勝手が悪く、自社でほとんど更新できていない。MA(マーケティングオートメーション)を月に1回程度のメール配信用ツールとしてしか使っていない。
企業はこれらの課題を克服し、顧客にとって価値ある情報を一貫して提供し、効果的な情報発信と顧客との関係構築を目指すにあたり、具体的にどういった考えでサービスサイトの設計をすればいいのでしょうか。
第2回では、ターゲット設定の仕方を中心に、サービスサイトの全体設計について解説します。
連載:ポストデジタル時代のマーケティング・コミュニケーション
- サービスサイトが担う役割 “デジタル化だけでは競争力にならない”
- サービスサイトの全体設計 “未開拓層/興味関心層へのアプローチが重要”
- サービスサイトへのコンテンツ集約、評価指標の設定“リード獲得とブランド価値向上”
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ポストデジタル時代のマーケティング・コミュニケーション
“サービスサイトの整備・見直し”
ポストデジタル時代への移行期である今、競争力を高めるための考え方やポイントをまとめています。
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マーケティング本部 本部長
伊達 和幸
デジタルエージェンシー及びコンサルティング会社で、通信、エネルギー、航空業界のデジタル戦略立案、マーケティング、新規事業・サービス開発に従事。
2016年に日経BPコンサルティングに入社し、デジタル領域のコンサルティング及び施策の立案・実行を多数手掛ける。
※肩書きは記事公開時点のものです。