健康経営の救世主“フェムテック”

フェムテックが「働きやすい企業」をつくる(前編)

  • コンテンツ本部医療&健康コンテンツチーム

フェムテック(Femtech)とは女性特有の健康課題を解決するテクノロジーやそれを使った製品・サービスのこと。2020年頃から日本でもフェムテックを扱う企業が増え、今や国や大手企業も注目する成長分野の1つです。このフェムテックを従業員のウェルビーイング向上に活用する企業が増えているのをご存じでしょうか。フェムテック産業に着目し、実態調査のほか、補助金による実証事業を担当する経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 室長の川村美穂さんに、日本企業に広がるフェムテックの現状や活用例を聞きました。経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 室長
川村 美穂氏

聞き手・文=菊池由希子
写真=遠藤麻美

日本国内の経済効果は年間約2兆円

そもそもフェムテックとはどんなものなのでしょうか?

フェムテック(Femtech)は、FemaleとTechnologyをかけ合わせた造語で、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスなどを指します。
女性特有の健康課題や悩みは、月経から妊娠、出産、更年期、婦人科系疾患、セクシャルウェルネス(セクシュアリティに対して身体的、感情的、精神的、社会的にも健康な状態であること )まで多岐に渡ります。それぞれ個人差が大きく、誰かに相談することではないとの思い込みから我慢する女性も多いのが現状です。これらの悩みに対し、健康で充実した日々を送るための解決策を提供するツールがフェムテックです。
経済産業省では、2025年時点のフェムテックによる日本国内の経済効果は年間約2兆円と推計しています。この金額は、月経、不妊治療、更年期に伴う症状から、パフォーマンスの低下、離職や昇進辞退、勤務形態の変更を余儀なくされていた女性が、フェムテック製品やサービスの利用から仕事との両立を果たすことで得られる給与相当額を推計したものです(※)。

※令和2年度産業経済研究委託事業 「働き方、暮らし方のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査(フェムテック産業実態調査)報告書」より

川村 美穂氏

経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室
室長
川村 美穂氏

経済産業省が着目したきっかけを教えてください。

女性職員の個人的な想いから始まったんです。女性職員の周りには、不妊治療や更年期といった女性特有の健康課題から望まない離職や転職を余儀なくされる女性がいました。彼女たちは働きたいのにライフとキャリアを天秤にかけている。こういった女性を減らしたいという想いです。
その女性職員が省内の予算コンテストに応募し、選定されたことをきっかけに、フェムテックを活用したライフイベントとキャリアの両立に向けた事業の推進が始まりました。2021年度から「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を開始し、20件の実証事業を行いました。2022年度は19件の事業を選定し、現在取り組んでいるところです。

「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」

2021年度から経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室が立ち上げた事業。フェムテック等の製品・サービスを活用し、フェムテックを提供する企業、導入する企業、医療機関、自治体などが連携して実施する、妊娠・出産等のライフイベントと仕事の両立やヘルスリテラシーの向上、個人のウェルビーイング実現に向けた事業について、その経費の一部を補助している。補助は各事業に対し事業費の3分の2以内(上限500万円)。働く女性の妊娠・出産・更年期などのライフイベントに起因する望まない離職などを防ぎ、企業の人材多様性を高め、企業の価値創造につなげることを目指している。

詳細:フェムテックを活用した働く女性の就業継続支援

健康課題を理由に離職や転職をする女性は、どの程度いるのでしょうか?

不妊治療と仕事の両⽴ができずに仕事を辞めた、または雇⽤形態を変えた割合は24%、⼥性のみでは32.9%というアンケート結果があります。また、働く女性のうち45-59歳の更年期世代の割合は増加傾向にありますが、この世代は管理職以上のポストに就く年齢と重なります。更年期症状から昇進を辞退した経験のある人は約50%、約4割の人が退職又は退職しようと悩んだことがあると回答しています。
ちなみに更年期症状があると自覚している40歳以上の女性のうち46%が仕事のパフォーマンスが半分以下になるとも回答、月経に関連した症状によって45%の人が仕事のパフォーマンスが半数以下になると回答しています。

この結果から女性だけの課題ではなく、組織や社会の課題として取り組む局面が来ていると考えています。女性が生き生きと能力を発揮できる状態になれば、職場のパフォーマンス向上やマネジメントの改善から企業の持続的な価値創造につながりますし、当然企業や組織の成長にも関わってきます。

【出所】 厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業調査結果報告書」(2018年)

【出所】総務省統計局「労働力調査」(2015年~2019年) を基に作成

【出所】ホルモンケア推進プロジェクト「女性の体調と仕事に関する調査」(2015年)

【出所】ホルモンケア推進プロジェクト「女性の体調と仕事に関する調査」(2015年)

【出所】日本医療政策機構「働く女性の健康増進に関する調査2018」を基に作成

【出所】日本医療政策機構「働く女性の健康増進に関する調査2018」を基に作成

企業におけるフェムテックの活用は、どういったものがありますか?

福利厚生の1つとして、フェムテック製品・サービスを取り入れるという方法が主流ですね。産婦人科に特化したオンライン医療相談「産婦人科オンライン」、妊娠を望む夫婦・カップルのためのLINEを活用した妊活コンシェルジュサービス「ファミワン」、更年期コミュニケーションアプリ「よりそる」など、さまざまな製品・サービスが活用されています。

ただ、2020年からフェムテック産業に注目してきて実感しているのは、日本ではまだまだフェムテックの認知度が低いことに加えて、男性だけでなく女性自身も自分の健康状態について知らない人が多いということです。例えば自分の生理痛について周囲に詳しく話す機会は少ないですよね。生理の時にじっとしていられないほどの腹痛や吐き気が続いても、ひたすら我慢していて、その結果、不妊治療に進むまで自分が子宮内膜症だったことに気づかないなどのケースがあります。また、生理休暇制度があっても自分だけ取るのは申し訳ない、または取りづらいといった理由から、制度を使わないことも多くあります。
人と話すことをタブーとされてきた女性の健康やライフイベントに関わる悩みをひとりで抱え込まず、みんなで共有して助け合う土壌をつくるための啓発活動の重要性を感じています。

女性特有の健康課題について学ぶ研修ですね。

はい、そうです。女性の健康課題に関する福利厚生を使うのは女性ですが、周囲の上司・同僚の理解がないと使いにくいものです。男性にも制度の内容と共に、女性には生理から始まって、妊娠や更年期といった特有の健康課題があることを知ってもらえれば、女性が今までなかなか言えなかった心身の不調を理解するきっかけになります。また、男性側も状況が分からず声をかけづらかった、との思いを抱いている場合も少なくありません。世代別、男女混合、まずはマネジメント職のみで行うなど、研修方法はさまざま。女性の健康課題は課題によって悩みが異なるので、例えば40代以上の女性従業員が多い企業は、更年期にテーマを絞って行うなどターゲットを明確にした方法も有益です。

※後編では日本企業で始まっている取り組みについて紹介します。

コンテンツ本部 医療&健康コンテンツチーム

医療&健康コンテンツをつくる・つたえる・しらべるチームです。
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※お問い合わせ内容に「医療&健康コンテンツに関して」と記載していただくとスムーズです。

川村 美穂(かわむら・みほ) 氏

経済産業省 経済産業政策局
経済社会政策室 室長
川村 美穂(かわむら・みほ) 氏

経済産業省入省後、資源エネルギー庁・ガス事業部ガス市場整備課、大臣官房情報システム厚生課、貿易経済協力局技術・人材協力課を経て、2020年11月より現職。日本経済の成長戦略としての「ダイバーシティ経営企業100選」、「なでしこ銘柄」、女性リーダー育成研修の実施等に取り組む。プライベートでは二児の母。

※肩書きは記事公開時点のものです。

コンテンツ本部 編集2部
菊池 由希子(きくち・ゆきこ)

テレビ情報誌、結婚情報誌、働く女性向け情報紙などの編集者を経て、日経BPコンサルティングに入社。現在はBtoC企業の広報誌やWebサイト、周年史を中心に担当。企業メディアの戦略立案から媒体設計、制作まで支援。