セミナーレポート「周年事業セミナー」

日本経済新聞社・日経BPコンサルティング共催「NIKKEI周年事業オンラインセミナー」

2021.06.01

周年事業

  • コンテンツ本部 ソリューション3部 兼 マーケティング本部ビジネスアーキテクト部 兼 ブランド本部周年事業・デザインセンター コンサルタント 脇山 誠司

ニューノーマル時代になり企業間コミュニケーションに起こった大きな変化の一つとして、セミナーなどのイベントのオンライン化があります。2020年から日経BPコンサルティングでも、自社主催のセミナーをオンライン開催に切り替えています。
中でも大規模なセミナーとなったのは、2020年8月5日(水)に日本経済新聞社と日経BPコンサルティングの共同主催によるオンラインセミナー「周年を機に企業は進化する-ステークホルダーに届ける周年コミュニケーション-」です。
当日は500人以上が視聴し、戦略的な周年事業の展開に成功したアクティオとヨックモックの事例や、これから自社で周年を迎える担当者に向けたアドバイスや進め方のノウハウが紹介されました。最後のセッションでは視聴者がチャットに質問を投稿して講演者が回答。オンラインならではのインタラクティブなセミナーとなりました。
文=脇山 誠司


コロナ禍でさらに高まる周年事業の重要性

冒頭、日本経済新聞社・クロスメディアユニットマーケティング推進部の小倉部長は挨拶で、「新型コロナウイルスによって多くの企業が就業環境に不安を抱えるいま、従業員に経営ビジョンや事業の方向性を示し、全社一丸となって難局を乗り切る一体感が大変重要。周年事業はその絶好の機会で、コロナ禍だからこそ周年事業が持つ重要性はこれまで以上に高まっている」と口火を切りました。

さらに今回のセミナーを参考に、具体的な業務内容をイメージしていただき、改めて周年事業が持つ自社ならではの意味を考えていただきたいと語りました。

「チーム形成して周囲を巻き込む」 株式会社アクティオ事例紹介

株式会社アクティオ(1967年設立)
東京都中央区日本橋3-12-2
建設・産業機械のレンタル・リース業
https://www.aktio.co.jp/

最初の講演は、株式会社アクティオ広報課 課長の成澤幸子氏が「創業者の理念・ビジョンの体系化」と題し、2017年に迎えた50周年事業の概要を紹介しました。アクティオでは大規模かつ幅広く周年事業を展開、シンボルマーク・スローガン、50周年史、周年ロゴを使用したアイテム(ピンバッジ、ステッカー)、お客様・社員用の記念品(フラッシュライト、タンブラー、モバイルチャージャー)といった制作事業に加えて、設立記念日の5月15日に全国からお客様を招待し工場見学会を行い、ホテルニューオータニにて社長交代の記者発表会と700人規模の感謝会、社員旅行も実施しました。日本経済新聞朝刊には全15段の周年広告を掲載しました。

成澤氏は「メインの担当者が2人のみで、他業務と兼務しながら進めるのはかなり大変だった。一方で大人数にすると意思決定が難しくプロジェクトが停滞しやすくなりがち。スローガン・ロゴ制作、周年史制作、記念品制作、イベント運営など、案件ごとにチームを形成し、適度に他部署やパートナー会社の協力を仰いだ」と体制づくりのコツを語りました。周年事業は前任者がいるケースはまれで、ほとんどの担当者が初体験。一人で抱え込まずに、適度に周囲を巻き込むことが大切です。

「前回の周年史制作の際のメンバー情報や資料を管理しておらず、資料収集にもとても苦労した。次の周年担当者のために可能な限り、今回の資料を保存しておいたほうがよい」と周年後についても視聴者にアドバイスを送りました。

「“やらない周年事業”も決める」 株式会社ヨックモック事例紹介

株式会社ヨックモック(1969年設立)
東京都千代田区九段北1-8-10
菓子製造販売
https://www.yokumoku.co.jp/company/

続く講演では、株式会社ヨックモック ブランド・マーケティング部 部長の島倉夕紀子氏から、「ヨックモックのブランドストーリーの紡ぎ方」と題して、2019年に迎えた自社の50周年事業について振り返っていただきました。

周年事業は企業やブランドをステークホルダーに伝える大きなチャンスですが、アイデアベースで何をやるかを積み上げてしまうと、結局何を伝えたいのかが曖昧になってしまうケースがあります。

島倉氏は「まず、自分たちが伝えたいのは何なのかを徹底的に考え抜き、手段から検討せず、周年事業の意義・目的を定めました。そして、効果的に全社内で意識統一する工夫として、ロゴ・スローガンの発表と同時に、意義・目的に沿っていない“やらない周年事業”も共有した」と語りました。

今回の意義・目的は、全ステークホルダーへの感謝と従業員に51年目以降の未来を浸透させることです。まだヨックモックを知らない潜在顧客へリーチするための施策や、記念品や特別休暇などの直接的なモチベーションアップにつながる施策は優先度を下げたと言います。

「この意義・目的に沿って、感謝を伝えるにはどうすればいいのか。お客様向けには復刻商品の販売、ノベルティーの制作や新聞広告を打ち出し、社員へのねぎらいには周年記念パーティーで対応した。さらに、未来への活力になるよう、全社員の未来への決意表明と個人写真を掲載した記念アルバムを配布。感謝を伝えながら会社の未来を自分事化して捉えられる事業となるよう注力した」

“やらない周年事業”も打ち出すことで意義・目的がより明確になり、ぶれない周年事業を展開できたことがうかがえます。

パネルディスカッション ~視聴者からの質問に講演者が回答~

事例講演の後、日本経済新聞社クロスメディアユニットマーケティング推進部の那須謙介から周年記念の新聞広告がもたらす効果について、日経BPコンサルティング周年事業ラボ所長の雨宮健人から周年事業のトレンドや進め方のポイントが解説されました。

最後のセッションでは雨宮健人がモデレーターとなり、講演中に視聴者から投稿された質問について各講演者に回答いただきました。

周年事業ラボ(雨宮):周年事業で苦労したことは何でしょうか。

アクティオ(成澤氏):社員や周年チームの思いとトップの思いが食い違っている時期があり、何度も話し合いを重ねました。

ヨックモック(島倉氏):プロジェクト体制をつくらず全員が兼務だったので、関わるメンバーが非常に多くなってしまい、全体の意義や目的がずれないように統一感を持たせることに苦労しました。

周年事業ラボ:プロジェクトを進めるにあたって意思決定が大切と思いますが、どなたが行っていたのでしょうか。

ヨックモック:大きな方向性や目的、予算は役員会で承認を得ますが、そこからの具体的な施策は担当者に権限が委譲されて進められました。

アクティオ:基本はすべて会長が決定。実行委員は4人で、少ない人数で方向性や施策を考え、早い段階で会長に確認していました。

周年事業ラボ:今振り返ってやっておけばよかったことは何でしょうか。

アクティオ:周年に向けたグッズやシンボルマークは作りましたが、周年が終わった後の5年後、10年後に向けたシンボルマークやキャラクターを作っておけばよかったと思いました。

ヨックモック:周年の具体的な施策に関われるのは限られた社員になってしまうので、パーティー以外にも、全社員参加型の仕掛けがあってもよかったと思いました。

周年事業ラボ:周年事業を行ったことの反響や効果は何かありましたか。

アクティオ:感謝会に参加したお客様に渡したセレクトカタログからとても高い率でお申し込みが入りました。新聞広告の反響も大きく、ご覧いただいたお客様からお祝いのお手紙やメールをいただきました。

ヨックモック:復刻商品がメディアに取り上げられました。店頭でお客様から話しかけてもらう機会もとても増えました。また、新聞広告はかなり多くの人にリーチでき、取引先や社員、そして社員のご家族のエンゲージメント向上の効果を実感しました。

日本経済新聞(那須):日経新聞のアンケート調査からも、今後のビジョンについて語る広告を見ると、読者からは“好感がもてる”、“応援したくなる”といった好意的にとらえる傾向が見てとれます。

周年事業のあり方は企業によって様々ですが、ニューノーマル時代のいま、なかなかリアルイベントが開催しにくい状況下において、幅広いステークホルダーへの訴求方法の一つとして新聞広告は有効といえます。周年を取っ掛かりに日頃の感謝やブランディング施策実施の絶好の機会になるのではないでしょうか。

視聴後のアンケートでは、「多面的に周年事業の目的やその手法が解りやすく理解できよかった」「具体的な例とデータでの説明だったのでわかりやすく、どんな周年事業にしたいか考えるうえで大変参考になった」といった声が寄せられ、周年をより有意義なものとする新しい視点や気づきを得られるイベントとなりました。