ブランドづくり、5つのヒント
新製品開発のカスタマー・エンパワーメントがもたらすブランド価値向上
西川 英彦氏
こうして生まれた商品は、「創造性効果」をもたらすといわれる。製品自体に新規性を与え、高い販売成果をもたらすというのだ。「体にフィットするソファ」という大ヒット商品をカスタマー・エンパワーメントによって生み出した無印良品では、顧客創造製品が、企業創造製品と比べて高い新規性をもつだけでなく、高い売上高を上げている(Nishikawa et al. 2013)。無印良品の家具における、発売初年度売上高を比較したグラフを見ると上位に顧客創造製品が集中しているのがわかるだろう(図1)。両者の平均値を比べると、発売初年度では顧客創造製品は、企業創造製品の3.6倍高い売上高で、3年間経つと5.5倍高い売上高へと差がさらに広がる。
図1:無印良品家具の顧客創造製品と企業創造製品の比較(初年度売上高)
※顧客:顧客創造製品、ラベル無し:企業創造製品
※出所:Nishikawa et al.(2013)をもとに、著者作成。
話しは、これだけでは終わらない。新製品開発のカスタマー・エンパワーメントは、製品に新規性をもたらす創造性効果だけでなく、そのことを知った顧客からの企業評価を上げるという「ブランディング効果」も併せてもつからである。実は、こうしたカスタマー・エンパワーメントは、上でみた顧客に製品アイデアやコンセプトを創出してもらうという「創造」の局面だけでなく、複数の製品アイデアやコンセプトの中からベストなものを評価(投票)して決定してもらうという「選択」の局面をもつ(Fuchs and Schreier 2011)。
図2:新製品開発におけるカスタマー・エンパワーメント戦略
※出所:Fuchs and Schreier(2011)をもとに著者作成。
すなわち、企業は新製品開発において、4つのカスタマー・エンパワーメントの戦略をとることができるのだ(図2)。まず、顧客がアイデアの創造からアイデア選択まで行うのが、「フルエンパワーメント」戦略である。一方、従来型の新製品開発戦略といえる、企業内部がアイデアの創造からアイデア選択まで行うのが「ゼロエンパワーメント」戦略である。顧客が創造だけをするのが「創造エンパワーメント」戦略、顧客が選択だけをするのが「選択エンパワーメント」戦略である。
では、どの戦略が顧客からの企業評価を向上させるというのであろうか。技術や購入リスクの低い「Tシャツ」、中程度の「家具」、高い「自転車」という製品対象ごとに被験者が用意され、4つの企業戦略のシナリオが示された上で、企業態度が測定されるという実験が行われた(Fuchs and Schreier 2011)。その結果、Tシャツメーカーへの企業態度は、フルエンパワーメント=選択エンパワーメント=創造エンパワーメント>ゼロエンパワーメントという戦略の順であった。同じく、家具メーカーへの企業態度は、フルエンパワーメント>選択エンパワーメント=創造エンパワーメント>ゼロエンパワーメントという戦略の順であった。自転車メーカーへの企業態度は、フルエンパワーメント>選択エンパワーメント>創造エンパワーメント>ゼロエンパワーメントという戦略の順であった。他にも詳細は省くが、調査では、購買、ロイヤルティ、クチコミ意向、コミットメント、絆に関しても、戦略を比較している。いずれにしても全ての製品において、フルエンパワーメント戦略への企業態度は、ゼロエンパワーメント戦略への企業態度を上回っていた。技術やリスクが高いほど、戦略間の差が明確になり、とりわけ選択エンパワーメントの意義が見出される。
このように、カスタマー・エンパワーメントは、ヒット商品による業績向上だけでなく、顧客からの企業態度の向上、すなわちブランド価値を高めていくといえよう。新製品開発の重要な戦略の1つとして、本格的に検討してはどうだろうか。
参考文献
Fuchs, Christoph and Martin Schreier(2011) “Customer Empowerment in New Product Development,” Journal of Product Innovation Management 28(1), 17-32.
Nishikawa, Hidehiko, Martin Schreier and Susumu Ogawa(2013)"User-Generated Versus Designer-Generated Products: A Performance Assessment at Muji," International Journal of Research in Marketing 30(2), 160-167.
連載:ブランドづくり、5つのヒント
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西川 英彦 氏
ブランド・ジャパン企画委員 法政大学 経営学部 教授
日本マーケティング学会副会長を務める。ユーザー・イノベーションや、インターネット・マーケティングをテーマに研究。最近の著書に『1からの消費者行動』(編著、碩学舎、2016年)、『ソロモン 消費者行動論』(共訳、丸善出版、2015年)などがある。