知られざる中国インバウンドの主役バーリンホウ(八〇後)のニューリッチ消費 第4回
会員数3億人、中国最大OTA「Ctrip」の戦略を読み解く
中国インバウンドの8割近くを送り込むCtripグループ
Ctrip International Travel Japan グループ代表 蘇 俊達氏。
袁 中国で1999年に設立されたCtrip(https://www.ctrip.com/)ですが、現在は中国どころかアジアでも最大のOTAに成長しました。
蘇 そうですね。株相場に関してはアジアでナンバーワン、世界でも2番目です。
袁 アジア最大ということを、日本の方はマーケティング担当であってもあまりご存じないですね。そもそも中国でのCtripユーザーの数はどれくらいなんですか?
蘇 会員は3億人以上です。中国全人口の4人に1人がCtripを利用している計算になります。 袁 昨年は中国から735万人が訪日しましたが、Ctripユーザーはどれくらいだったのでしょう。
蘇 その数字は公開していないのですが、今年の春節で訪日した約2000人に百度(バイドゥ)が調査したところ、5割強がCtrip、2割強がグループ会社を利用していたようです。合計で8割近くがCtripグループのサービスを使って訪日しているいうデータがあります。
袁 本当に高い人気ですね。日本法人「CTRIP JAPAN」では主にどのようなサービスを展開しているのですか。
蘇 日本の航空券やホテル予約はもちろんですが、それにとどまらず、旅行に関する様々な事業を手がけています。たとえば中国インバウンド向けのパッケージ商品や団体ツアー、クルーズ船、ビザ手配、日本円両替なども対応しています。そのほか、付加価値を提供するために、東京のレストラン情報発信やデパートの特別割引券配布なども行っています。例えばレストラン情報でいえば、現在契約している件数は4ケタですね。Ctrip版のミシュランのような評価も行っているので、お客様がレストランを選ぶ際のお手伝いをできていると思います。
日本人の海外旅行も獲得
袁 日本法人のグループ会社として、2017年1月に新会社を2社設立しました。この2社はどのような役割分担ですか?
蘇 メインのCTRIP JAPANはパッケージ商品や団体ツアーが柱ですが、新会社の1つは日本でのホテルの仕入れ、もう1つは航空券を手がけています。いずれも、将来的には日本のお客様は日本だけでなく、世界へ送り出すことを目指しています。
袁 現在は中国からのインバウンドが中心だけれど、ゆくゆくは日本からのアウトバウンド、つまり中国側から見たインバウンドにも力を入れていくということでしょうか。
蘇 日本からのアウトバウンドの目的地は、中国だけとは限りません。Ctripは中国の企業ですし、名前からもチャイナトリップというイメージが強いのですが、実際は中国だけでなく世界全体をターゲットと考えています。ですので、2016年にフライト検索で知られる英国の「Skyscanner」を買収したのに続き、2017年には米国の老舗旅行サイト「Trip.com」を買収しました。旅行ブランドとして中国国内ではCtripを使い、それ以外の国・地域ではTrip.comで展開しています。日本でCtripにアクセスすると、Trip.comにジャンプするようになっています。
袁 つまり、日本から中国への旅行だけでなく、中国以外に旅行するときも、Ctrip、Trip.comのサービスを活用してもらうことを目指しているわけですね。
蘇 はい。日本だけでなく韓国や台湾でも同様の事業を展開していまして、いま大きく伸びています。日本のお客様にも浸透するように努力していきます。
メインユーザーの「八〇後」「九〇後」の利用動向は?
蘇代表(左)と筆者(右)。CTRIP日本のオフィスにて。
袁 話は戻りますが、ホテルと航空券の新会社を設立したのは、やはり中国のインバウンドが団体からFITにシフトしているトレンドに合わせたものでしょうか。
蘇 実は新会社設立後にFITに力を入れたわけではなく、2014年の日本法人設立時点から対応を始めていました。新会社は、ホテルと航空券に付加価値をプラスするため、先ほど申し上げたレストラン情報やショッピング割引、周辺観光地案内などと連携し、そこからビッグデータを取得することで、お客様の動きの分析につなげたいという思いがあります。
袁 その中でもFITはやはり「八〇後」や「九〇後」の世代が多いと思います。
蘇 「八〇後」「九〇後」がCtripのメインのお客様で、全体の半分を占めていますね。もちろんほとんどがFITです。現在の傾向として顕著なのは「九〇後」がとくに増えていることで、2割ほどになっています。
袁 日本人の中国人に対するイメージはまだまだ昔のままという方が多いのですが、「八〇後」「九〇後」の消費行動の特徴はどういうものですか?
蘇 たとえば行き先ですが、最近の傾向は東京や大阪、北海道、沖縄といった従来主流の場所ではなく、地方に分散している印象ですね。飛騨高山や九州の人気が高まっています。旅行の時期も、以前は大型連休に集中していたのが、今は、たとえば飛騨高山であれば1月2月にライトアップをしているので、それに合わせて訪れる方が増えています。「八〇後」「九〇後」はスマートフォンに慣れているので、Ctripのアプリから一日ツアーやアミューズメントスポットの入場券を購入しています。スマホ1つあれば何でもできる、それを実践しているのが「八〇後」「九〇後」の特徴だと思います。
袁 ショッピングについてはどうですか? 上の世代が中心になっていた爆買いはもう終わったといわれていますが、「八〇後」「九〇後」はどのような買い物をするのでしょう。
蘇 上の世代の方に比べると冷静で、必要なものを買っている印象です。彼らは、日本は買い物だけでなくグルメも大きな魅力と感じています。東京はミシュラン認定のレストランが世界一多い街ですから、せっかく東京にきたら中国で食べられない和牛や新鮮な刺身を食べたいというお客様がたくさんいますね。「孤独のグルメ」などに登場する独特な雰囲気のある食堂を目指して行かれる方も多くいます。
袁 一方、Trip.comを日本で展開し、日本人のお客様を新規獲得していくために、どのような活動を行っていますか? Trip.comというブランドは聞いたことがないという日本人が多いと思います。
蘇 最も力を入れているのは、日本でも有名な検索サービスサイトと連携することですね。当社が買収したSkyscannerも日本の若い方によく使われているので、こうしたサービスと連携しながらTrip.comを通じた航空券やホテルの予約を順調に増やしています。
袁 日本でのターゲットもやはり若い世代ですか?
蘇 そうですね。韓国も同様ですが、まずは若い世代に力を入れていきます。その先に、日本は年齢の高い世代が旅行に大きなお金を払うといわれているので、その世代をキャッチするマーケティングも展開していきたいと考えています。
連載:知られざる中国インバウンドの主役
バーリンホウ(八〇後)のニューリッチ消費
株式会社行楽ジャパン代表取締役社長。『行楽』発行人。
袁 静(えん・せい)
北京第二外国語大学、早稲田大学大学院修了後、日経BP社に勤務し、日本で10年を過ごす。中国に帰国後、北海道の魅力を多くの中国人に知ってもらおうと、2009年に『道中人』を創刊。2011年、北海道観光への貢献が認められ「VISIT北海道観光大使 」に任命。2011年、九州をテーマに『南国風』を創刊。2013年『道中人』と『南国風』を合併し、中国初の和風モダンをキーワードにするトラベルライフスタイル誌『行楽』を創刊。2013年11月に鹿児島県観光への貢献が認められ、「薩摩大使」に任命。北海道知事、鹿児島県知事、佐賀県知事など各都道府県知事をインタービューするなど、中国での日本の観光PRにて活躍し、日本との関係は深い。近書に『日本人は知らない中国セレブ消費』(日本経済新聞出版社刊)。
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