聞き手:清水 秀起(コンテンツコミュニケーション・ラボ)
ビジネスでのWebサイトの意義を見極め、
ペルソナ、カスタマージャーニーマップから着手
企業からWebサイト構築を請け負う上で、最も大切にしていることは何でしょうか。
福田 第一に、企業のビジネスにおけるWebサイトの位置づけ、役割を明らかにし、それに応じて、最適なあり方を突き詰めていくことです。次に、それを受けてユーザー視点を徹底して、WebサイトのUXを設計することですね。
そのためには、ペルソナを設定してカスタマージャーニーマップを作り、Webサイトとの接点を把握するところから始めていきます。ペルソナとは、企業のビジネスにおいて、もっとも重要で象徴的なターゲットの人物像のこと。カスタマージャーニーマップとは、ペルソナの行動や思考、課題、感情などの変化のプロセスとWebサイトとの接点を図に表したものです。
UX設計において、なぜペルソナを最初に設定するのでしょう。
福田 ペルソナを作らないと、どんなにWebサイト構築について頭を悩ませても的外れになり、全体の設計が狂うからです。年齢や性別、業種、職種、役職など、ペルソナの重要な要素は多々ありますが、実は「なぜペルソナを設定するのか?」が最も重要です。そして、ペルソナがビジネスパーソンなら、通勤は電車なのか、車なのか。情報収集源は、新聞やビジネス雑誌なのか、Webメディアなのか。各論を突き詰め、企業のWebサイトがターゲットユーザーとどのような効果的な接点を持てるかを探ります。
同じく、カスタマージャーニーマップも重要と思われます。
福田 ターゲットユーザーには、あるきっかけで動機付けされてから顧客になるまでのストーリーと、Webサイトの利用をはじめてから止めるまでのストーリーがあります。そのストーリーをカスタマージャーニーマップにすることは、どのタイミングでどのような情報をWebサイトで提供すべきなのかを考える上で、とても重要です。だから、カスタマージャーニーマップの作成で肝心なことは、ストーリーの時系列を明確化し具体的なアクションに分解することになります。
ユーザー視点を徹底しUXを設計する
福田 そしてペルソナとカスタマージャーニーマップを元に、徹底したユーザー視点で、WebサイトのUXを設計していくのです。私が考えるUX設計とは、ユーザーのニーズに応えるために必要なことは何かを第一に考え、Webサイト全体で表現することです。
具体的に話しましょう。ユーザーの最初のステータスは単なる来訪者です。この段階で見るものは何か、必要な情報は何か。どこに必要な情報があるのかを明示し、基本情報を押さえる等、ターゲットとなるユーザーの気持ちや知識レベルに沿って設計します。例えばBtoBサイトで、商品・サービスの発注検討段階にいるターゲットユーザーなら、単なる来訪者とは必要な情報は当然異なり、金額や事例、導入メリットなど投資対効果が伝わるように設計していきます。
ただし、ユーザーの流入は必ずしもトップページからとは限りませんから、下層ページから流入したユーザーにはWebサイトがどのように見えているかも同時に考えます。
「良いUXをユーザーに提供する以外、Webサイトがビジネスゴールを達成する道はない」と福田。
同じユーザーでも、ステータスに応じてUX設計を調節します。では、ユーザーの属性が変化したらUX設計はどう変わりますか。
福田 BtoBサイトでも、例えばターゲットユーザーがクリエイターであれば、彼ら彼女らが好む言葉やデザインを採用しますし、BtoCサイトで小さなお子様のいる20代の母親なら、好まれるフォント、アイコンの大きさを考慮します。写真の配置やボタンの配色など細部まで想定することで、ターゲットユーザーが快適に操作できるUI(ユーザーインターフェース)を制作し、そこから、ニーズに応じたページへの導線や、コンバージョンへの経路を展開していきます。このように、常にWebサイトに触れるユーザーの視点で、優先すべき情報、機能、デザイン、様々な誘導や導線を判断することが、優れたUXにつながるのです。
そこまでUX設計を重視する理由は何なのでしょうか。
福田 実は、WebサイトのUXとは、ユーザーが企業と直接接触する体験そのものと言えるからです。ユーザーは、快適で満足いくUXを提供してくれたWebサイトに対して信頼をよせ、そうでなければ離れていきます。つまるところ、良いUXをユーザーに提供する以外に、企業のWebサイトがビジネスゴールを達成する道はないのです。
なお、案件にもよりますが、設計したUXを検証し、高める手段として、A/Bテストやユーザーインタビューを実施する場合もありますね。
レスポンシブデザインによるスマートフォン対応とその意味
では、ターゲット視点のコミュニケーションを行い、望ましいブランドイメージを得るにはどうすべきでしょう。
福田 加えて、スマートフォンとPCでUX設計は大きく変えます。ユーザーがWebサイトに触れるシチュエーションが全く異なるためです。
典型的な例でいうと、電車の乗り継ぎ案内サイトは、スマートフォンでは乗り換えのスキマ時間に素早く情報を入手でき、かつ所要時間や乗り場などをわかりやすく表示させる必要がある。なので、ボタンを大きくする、必要最小限の情報に絞って表示する、というふうに設計します。一方、PCの場合は、自席に腰を落ち着かせてチェックする場合が多いと想定され、旅行や出張の計画を立て、次の予定を確認するなど、比較的時間に余裕がある状態です。ここで必要なのは複数の候補の比較検討であり、より安く、快適に移動できる候補の掲示になります。
確かに、UXを重視するならスマートフォンの対応は現時点では必須に思えます。年々スマートフォン対応の重要性が高まっていますが、どのように考えていますか。
福田 基本的にはお客様にはスマートフォン対応を提案します。事実、要望もかなり多い。現時点では、同一ソースでマルチデバイスに対応するレスポンシブデザインを勧めています。しかし、本質的にはPCとスマートフォンでは操作面からUXが異なるので、リソースをかけられるなら、スマートフォンならではのUXを設計すべきと考えています。注意したいのは「スマートフォン時代だから」という理由だけで対応するのではないということ。極論を言えば、企業の利益がすべてPCサイトからのものなら、必要ない場合もあり得ると考えています。
Webサイトリニューアルの際のポイント
リニューアルの要望も多いが、制作にあたってのポイントは。
福田 旧Webサイトやシステム等の資産を、流用するかしないかで大きくフローが変わるのがリニューアルです。そのため、現行資産の把握・理解からはじめ、新Webサイトにどのように引き継ぐか、集中と選択、最適な方法を検討することです。一方、新規立ち上げの際はターゲットを設定し、市場データやインタビューなどを元にペルソナの設定から始めますね。
しかし、大切なことはWebサイトには果たすべき目的、役割があるという点で、リニューアルも新規立ち上げも、そこを目指す意味では同じと考えています。
実際、UX設計したリニューアル案件で、どのような成果が上がっているか教えてください。
福田 例えば、ANAビジネスソリューション様には「リニューアルによって、統一したブランドイメージをWebサイトで訴求できるようになり、運用の業務改善も実現できた。また、問い合わせも増えた」と、喜んで頂けました。UX設計がコンバージョンに結びつき、手ごたえを感じた瞬間ですね。そうして成果を出すことで信頼関係が生まれ、Webサイト構築だけではなく、デジタルに関わる悩みがあると相談をいただくこともあります。
企業の課題解決、ひいては担当者の喜びは、福田の喜びでもあるということですね。
福田 とても嬉しいことです。実は、Webサイト構築を通じて、ユーザーによりよいUXを提供することと、企業の課題を解決することは、私にとってある意味で似ているのです。それは「誰かを笑顔にする」ということ。つまるところ、私は人の笑顔が好きでこの仕事をしているのだと思います。
事例
「ANAビジネスソリューション Webサイト」のリニューアル
コーポレートサイト
人材派遣・転職支援サイト
エアラインスクールサイト
3サイトをUX設計し統合・全面刷新し、統一したブランドイメージを訴求
人材サービスや教育・研修事業などを幅広く手掛ける同社のコーポレートサイトと各事業サイトを、UX設計を行い、3サイトに統合リニューアルした。各サイトともANAグループと親和性のあるデザインを採用し、マルチデバイスに対応して、ターゲットに統一したブランドイメージを訴求している。また同社の業務を深く分析し、1年半にわたるプロジェクトを通じて密にコミュニケーションを重ね、CMSを中心とする業務システムの改修を行い、サイト運用の業務改善を実現した。
徹底的に話を聞くことで、問題の本質を掘り起こす
最後に、Webプロデューサーとしてのこだわりをお聞かせください。
福田 私の案件への取り組み全般に言えることですが、とにかく「話を聞くこと」に尽きます。クライアントから聞き出した目的や悩み、ユーザーの心理を適切な文脈に翻訳し、制作チームに伝えます。その逆もまた然りで、私が3者の中心に立ってこれをやっていかないと成果物に大きなズレが生じるので、しつこいくらい丁寧に話を掘り下げ、認識のズレを極力減らします。
また、企業の担当者から聞かされる悩みは、大抵の場合、何か問題があることや、達成すべきゴールはわかっているけれど、そこに至るまでの具体的な道筋が、モヤモヤとはっきりわからない場合が多いです。ただ、その霧を晴らすのが私の役割でもあるので、まずはご相談いただき、モヤモヤを聞かせて欲しい。キャッチボールをするうちに頭の中が整理される場合も多くあります。
その点で、日経BPコンサルティングはWebサイトに限らず、課題や要望に応じて、広報誌、会員誌、書籍といった企業出版や、ブランディング、市場調査といった幅広い中から最適なソリューションを選択できるのも強みですから。
最初は「とにかくWebサイトをリニューアルしたい」で結構です。私がその理由や目的など詳しくヒアリングさせていただくことで、そこに潜む本当のゴールや、問題の本質を掘り起こさせていただきます。
ブランド本部ブランドコミュニケーション部 チーフプロデューサー
福田 孝太(ふくだ こうた)
Webプロデューサー、ディレクターを17年経験する、UX領域のスペシャリスト。大手IT企業の全社横断プロジェクトにて、UI/UX設計を中心にビジネス設計、コミュニケーション設計、デザイン設計を担当するほか、新規サービスの立ち上げや、数万ページの大規模サイトリニューアルなどを推進。2018年10月より日経BPコンサルティングに転籍し現職に至る。