前回はコンシューマー市場(BtoC)編における4つの因子の特徴を紹介し、最後に「ガリガリ君」と「ハーゲンダッツ」という2つの製品ブランドを例として取り上げました。「アイス」という同じ食品が偶然にも、ほぼ同じ「ブランド総合力」を持っていたこの2ブランドでは、イメージパターンが明確に異なっていて、それぞれ別の魅力を持つことが確認いただけたと思います。
このような製品・サービスブランドのほかに、「ブランド・ジャパン」では企業ブランドのノミネートも沢山あります。一般消費者視点からの調査であるコンシューマー市場(BtoC)編にも多くの企業ブランドが含まれていますが、今回は、経済活動を行う企業体そのものや、企業間取引に対する興味がより強くなるビジネスパーソンの視点から、500の企業ブランドを調べるビジネス市場(BtoB)編の調査フレームを紹介します。
企業活動を「5つの因子」で読み解く
ビジネス市場(BtoB)編では、最終指標とする「ブランド総合力」を算出するに当たり、「先見力」「人材力」「信用力」「親和力」「活力」という5つの因子を使っています(図1)。「ブランド総合力」や各因子のスコアは、調査した500ブランド全体の平均を50とする偏差値です。
図2~6には、「ブランド・ジャパン2014」ビジネス市場(BtoB)編における各因子のランキングトップ10と、その中から当該因子の特徴が際立つ(ほかの因子と比べて当該因子の評価が特に高い)ブランドのイメージパターンをレーダーチャートで示しました。
トップ10には、コンシューマー市場(BtoC)編のトップ10でも見かけたブランドが並ぶ一方、ビジネス市場(BtoB)編だからこそ高く評価されるブランドもあります。各因子が表しているイメージの性質を理解しながら、他社とは異なるアイデンティティを持つことに成功している企業の活動を振り返っていただければ、ブランドづくりのヒントが見えてくるかもしれません。
「先見力」
時代を先取りして、世の中に新しい価値を提供しようという姿勢が評価される因子です。イメージ項目には「経営者に魅力がある」といったビジネス市場(BtoB)編ならではのものも含まれており、各業界を牽引するような「ビジョナリー・カンパニー」(ビジョンに基づいた未来志向の経営を実現している企業)や、先進的な技術を大衆に向けていち早く展開する企業、また、海外の企業が名を連ねるのも特徴です。
「活力」とともに、先行指標的意味合いを強く持ってもいます。「ブランド・ジャパン2014」では、「アップル」と「ソフトバンク」がそろって100ptを超え、「活力」でも同じくそろって100ptを超えてトップ2を飾っています。
「人材力」
企業が持つ人材面が評価されるビジネス市場(BtoB)編特有の因子です。「リクルート」「デンソー」「三井物産」など、ビジネスパーソンの視点だからこそ評価される有力企業も並びます。「ブランド・ジャパン2014」では、東京ディズニーリゾートを運営する「オリエンタルランド」が、140.2ptという1ブランドだけ突出したスコア(偏差値)を獲得して、5年連続の首位。スタッフのホスピタリティがテーマパークを支えるという理念の徹底ぶりが評価されていると言えそうです。
「信用力」
経営の安定性や企業活動の堅実性などについて、提供する製品やサービスの品質までも含めて総合的に評価される因子です。イメージ項目には、「環境に配慮している」といった現代社会ならではの観点も含まれます。ランキング上位は国内の製造業大手が常連で、「ブランド・ジャパン2014」で首位の「トヨタ自動車」は、現在の調査フレームで評価し始めた2002以来、13年間その座を不動のものにしています。
「親和力」
顧客と向き合う姿勢が評価される因子です。コンシューマー市場(BtoC)編における「フレンドリー」と通底する部分もあり、日常生活のインフラとなるサービスを提供する企業や食品メーカーなど、国内大手を中心として顧客接点の多い企業が名を連ねます。
しかし、「ブランド・ジャパン2014」では、それらの企業を抑えて「トヨタ自動車」が今回初の首位。過去には2003で第3位を獲得したのが最高でした。“自動車離れ”が進んでいると言われる昨今、顧客との結びつきの強化を図ろうとする姿勢が反映された結果と言えそうです。
「活力」
新商品・新規事業の開発力やその展開力が評価される因子です。「先見力」と同様に、先行指標的意味合いを持っています。コンシューマー市場(BtoC)編における「イノベーティブ」と通底する部分もありますが、コンシューマー市場(BtoC)編のランキングではそれほど上位層には見られない、「楽天カード」「ジャパネットたかた」「東急ハンズ」「フジテレビ」など、ビジネスパーソンの視点でより高く評価される有力企業も並びます。
企業のビジョンや姿勢がブランド・イメージを創る
上記の通り、5つの因子が、企業活動によって形成される多様なイメージを的確に識別することを確認いただけたと思います。「トヨタ自動車」と「サントリー」は「活力」以外の4因子でいずれもトップ10に入るなど、全方位的に非常に高い評価を得る大企業がある一方、各因子のどれかひとつでキラリと光る魅力を持つ企業も見られました。
「人材力」の例として取り上げた「タニタ」は、2010年1月に発行された書籍「体脂肪計タニタの社員食堂」をきっかけとして大きな注目を集めた後、「ブランド・ジャパン」でもこれを機に大幅に評価を高め、その後も高評価を維持しています。
丸の内での食堂オープンに始まり、取り組み例を挙げれば枚挙に暇がありませんが、見失ってはいけないのは、この一連のムーブメントは2009年に始動した「タニタ健康プロジェクト」という、社員の健康づくりを目指した取り組みに端を発する点でしょう。ヘルスケア製品を製造する企業としての意気込みが根っこにある活動に、多くの人が素直に共感を覚えたからこそ、一時のブームで終わらない高評価が続いているのではないでしょうか。
連載:ブランド・ジャパンの使い方
- 第1回 消費者の頭の中をひも解くことからブランド作りは始まる
- 第2回 ビジネスパーソンの視点から、企業ブランドの姿を見る
- 第3回 第5の経営資源―ブランドを活かすための“自己モニタリング”
- 第4回 コラボレーションでブランドはどう変わるのか?