企業マンガの傑作を探せ

難しいことこそやさしく伝える

2014.04.13

コンテンツマーケティング

  • 企画出版本部 副本部長 中須 譲二

難しいことこそやさしく伝える
企業の広報誌やPR誌、あるいはWebサイトに載っているコンテンツの中には、マンガを使ったものがあります。本稿では、企業マンガの中から傑作を掘り起こしていきます。アズビル株式会社(旧:山武)が発行する『Azbil』のマンガを活用した記事は、難しい話をやさしく伝えるのに成功した好例です。難しい話とマンガとの相性の良さを紹介しましょう。

技術用語で読者の知的好奇心をひきつける

「計測」と「計量」――。普段からよく使うこの2つの言葉が、産業界ではそれぞれ違う意味で使われていることをご存知ですか。

  • 「計測」 = 長さ、重さ、温度、電流など特定の項目を数値化すること
  • 「計量」 = 様々な計測データを組み合わせて数値を算出すること

分かりやすい例の1つに、都市ガスの熱量計算があります。都市ガスは、メタン、エタン、プロパン、ブタンなど複数の成分で構成されています。ですから都市ガスの熱量を算出するには、まず各成分の熱量を計測し、それらを組み合わせてから都市ガスの熱量を計量することになるのです。

  • メタン、エタン、プロパン、ブタンなど各成分の熱量の算出 → 計測
  • 各成分の熱量を組み合わせて都市ガスの熱量を算出すること → 計量

実はこれazbilグループのPR誌『azbil』に載っている「知って、なるほど! Key word AtoZ」というコーナーからの知識です。一般生活者には難しい用語をマンガで分かりやすく解説しており、多くの読者から支持されている人気連載となっています。

アズビル株式会社(旧:山武)は、ビル向け、工場向け、住宅向けなど多分野で、制御・計測技術を軸にオートメーション事業を展開している企業です。グループには、M&Aで新たに入る異業種企業も多く、それぞれの技術用語は社員も知らないようなものが多くあります。そうした用語解説を自社の宣伝ではなく、読者の知的好奇心を満たすコンテンツに仕立てたところに、この連載の人気の理由があるのかもしれません。PR誌の主な読者である取引先企業の方々からは、次のような感想が届いているそうです。

「計測と計量は同一のものと勘違いしていました。読んでなるほどと納得しました」
「毎回、選ばれている話題に感心させられます」
「とても分かりやすく、若い者に教えるのに役に立ちます」

これまでに取り上げた用語は「アグリゲータ:電力の需要、供給に関するあらゆる情報を集め、電力需要の安定化に努める事業者の総称」(2012年8月発行号に掲載)に始まり「キャビテーション:液体の流れの中で圧力降下によって発生した蒸気泡が、圧力回復によりつぶれて、再び液体に戻る一連の現象」(2014年2月発行号に掲載)まで10語。確かに用語だけ読むと敬遠したくなる内容に感じてしまいます。それを人気コンテンツに仕立てるのですから、マンガの力はあなどれません。

読者を楽しませる手段としてエッセンスを盛り込む

誌面構成は、左ページにマンガを配置し、右ページには文字解説を置いています。登場人物も、疑問を投げかける少年(ズーム坊や)とそれに答えるおじいさん(アンサー博士)の2人だけとシンプル。活字が並ぶ隣のページでは詳しい解説がされていますが、そこを読まずともマンガだけキーワードの大枠をとらえられる作りは秀逸です。

「計測と計量」を取り上げた第8話では、アンサー博士の実験室に初めて入ったズーム坊やが「計測と計量って意味が違うんですか」と問いかけます。そこで、博士が計測と計量の違いを2コマで解説。このようにQ&A形式で話が進むのが、同連載の1つのパターンです。さらにその後、地球を見下ろす機上のアンサー博士が「計測と計量についてのルールは世界規模で標準化をすすめとる貿易などの取引では重要じゃからの」と一言。ことの重要性を簡潔に、6コマ目までに伝え切っています。

もっともこの企画、最初からマンガを使うことが決まっていたわけではありません。最初は内容を分かりやすく伝えるために、解説文に挿絵を付けることが検討されていました。そこから、疑問を投げかけるキャラクターと回答するキャラクターを固定化する案へと発展し、最終的に現在のマンガの形に落ち着きました。

右ページにある解説記事下の余白には、いかにもマンガ的なオチが入っており、最後まで誌面を楽しませる工夫をしています。この記事のバックナンバーは、アズビルのWebサイトから閲覧できます。興味のある方は是非ご覧になってください。

中須 譲二

企画出版本部 副本部長

雑誌『日経ECO21』『日経トレンディ』『日経おとなのOFF』『日経EW』、Webサイト『日経トレンディネット』で副編集長を務めた後、日経BPコンサルティング企画出版本部で企業向けの各種出版物の編集業務に従事。

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