テクニックだけでは本音を聞き出せない
「本音を聞き出す」技術や方法を紹介する書籍が数多く発行されていることからも、本音がビジネスの様々なシチュエーションで役立つことや、聞き出すのがとても難しいと感じている人が多いことが分かる。
日本経済新聞の記事でも“相手の本音を聞くコツ”について、「相づち『はい』『そう』混ぜて 本音を聞き出す技術」という記事で紹介されている。簡単にまとめると、以下の4点が本音を聞き出すコツだという。
(1) 相手の話をさえぎらない
(2) 聞き手の側で聞きたい話題と聞きたくない話題をえり好みしない
(3) 話し手が求めていないアドバイスや情報を与えない
(4) 少々やりすぎと思えるくらい相づちを打つ
マナー、コミュニケーション能力はもちろん、人の話をじっくり聞く傾聴力や相手の専門に関する知識を持っていないと、本音を聞き出すのは容易ではない。相づちを打つタイミングや間の取り方で会話がぎこちなくなり、話が続かない雰囲気になってしまうこともある。
しかし、高い会話スキル、抜群の傾聴力、文句なしの専門知識など、テクニックを極めれば誰でも「本音」を聞き出せるのだろうか。私はそうは思わない。たとえテクニックを駆使したとしても、どこかオブラートに包まれたような話ししか出てこないと感じる場合もあるからだ。もちろん本音を聞き出すテクニックは必要だが、重要な「何か」があるはずだ。
思っていることを話しやすい人物像
ここで、本音を言いやすいシーンを想像してみよう。
・「同級生のAさんなら、自分の業界に精通しているので、会社では言いにくい愚痴を聞いてもらえる」
・「男友達のBくんなら、私の事情をよく知っているから、彼氏のことを相談しやすい」
このように見ると、本音を語れるかどうかを判断するに当たり話し手は「自分と聞き手がどのような関係にあるか」を重視している。
本音を言いやすいプライベートな状況をもう少し考察してみたい。
・女性の恋愛相談の場合、親身になって相談に乗ってくれる人物として「好きな人と仲の良い男性」や「恋人のいる女性」を選び、本音を明かすケースが多い
・既婚男性の場合、妻とのけんかの調停を「娘」や「息子」に委ね、間接的に自分の言い分を伝えてもらうことがある
これらの例から分かるように、本音は状況を熟知しているものの直接の利害関係にない「第三者」に伝えるケースが多く、話の内容に直接かかわる本人には言いにくい。理由は、相手を傷つけたり、関係をぎくしゃくさせたくないからだ。
また、直接面と向かって本音を明かす場合と「第三者」を介して本音を伝える場合では、本音を受け止める人の心理的な負担も変わってくる。利害関係が強いほど、本人から言われた時の負担は大きい。話の内容によっては、訴訟や社会問題に発展する可能性もあるだろう。
そうした問題が起こらないように「第三者」をうまく介入させて本音を伝える。良くも悪くも、日本人は人間関係の齟齬を「和(なごみ)」の結果を得られる方向へ持っていきたがる。日常の中でも第三者を利用し、利害が絡む問題に対処しているのだ。
ビジネスシーンでも当てはまる「言いやすい状況」
では、ビジネスシーンでも同じようなことはあるのか。結論から言うと「ある」だろう。
弊社では、企業から依頼を受けて、その企業の顧客に対して満足度調査を行っている。アンケートによる定量的な調査だけでなく、インタビューを行うことも多い。その狙いは、インタビューによって、定量的な調査では表に出にくい「不満」や「厳しい意見」といった「本音」を明らかにすることだ。
顧客へのインタビューを通じて、なるほどと思える不満の声を聞くことは多い。興味深いのは、不満や厳しい意見と一緒に「〇〇さんに、面と向かって本音は言いにくいのですよ……」という声を聞くことだ。発注し、お金を払っている側なのに、なぜ本音を直接言わないのだろう?
私が「なぜ担当者に伝えないのですか?」と尋ねると「担当者本人には、厳しい意見が言いづらい」「当人に直接不満を言って、関係性を悪化させたくない」といった答えが多い。いくらお金を払っているとはいえ、ビジネスを継続中の相手に面と向かって本音を口にするのは避けたいようだ。
このようにお互いの関係性などを考慮して、面と向かって本音を語らないことは、日本のビジネスシーンではよくあるケースだ。だからこそ、顧客からの本音を聞き出すために、弊社のような「第三者」ポジションからの顧客満足度調査が有意義なケースが少なくない。
「話を聞くテクニック」と「第三者」がカギ
本音を聞き出すためのポイントは、「話を聞くテクニック」と「第三者というポジショニング」の2つである。これはプライベートシーンでもビジネスシーンでも変わらない。ビジネスシーンを例に、「聞き手のテクニック」と「話し手・聞き手のポジショニング」の関係における、本音の言いやすさは下図のようになる。
まとめると、以下のようになる。
(A) 利害関係が弱く、話を聞くテクニックが高い場合は「話し手が本音を言いやすい」
(B) 利害関係が弱く、話を聞くテクニックが低い場合は「話し手が本音を言いやすいが、聞き手は表面的な話や建前しか聞き出せない」
(C) 利害関係が強く、話を聞くテクニックが高い場合は「話し手は利害関係を意識して本音を言わない」
(D) 利害関係が強く、話を聞くテクニックが低い場合は「話し手は本音を言わないし、聞き手も聞き出せない」
BtoBの場合、ビジネスシーンで顧客の本音を聞き出せるかどうかは特に重要となる。担当者の本音に気づかず、何もアクションを取らないままだと、いつか顧客の不満が「限界」を超え、発注打ち切りなど取り返しのつかない事態を招きかねない。そうなる前に、顧客の不満や厳しい意見を聞き出し、しかるべき対応と対策を取らなければならない。
顧客の「本音」が分からないと不安な方は、ぜひ「第三者」によるインタビューを行っていただきたい。ショックな意見、耳をふさぎたくなる声が出てくるかもしれないが、既存のビジネスに対する反省や改善点の発見、また新しいビジネスのヒントにつながる「宝」もたくさん得られるはずだ。