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サバイバル分析続く企業の“ブランディング” (3)

ブランドを取り巻く誤解

  • 文=吉田健一/構成=松崎祥悟
  • 2017年09月19日
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ブランドを取り巻く誤解

続く企業が実践する“ブランディング”について紹介するこの連載。
第2回では、ブランドという言葉の意味から、日本においてブランドがどのように企業の考えに定着してきたかについて整理しました。
第3回では、ブランドを取り巻く困難と、企業やブランド担当者が取るべき対応策について紹介します。

ブランドづくりも時代の変化に合わせたチューニングを

広くマーケティング活動において、企業は「誰に対する」というターゲットを明確にすることが必要ですが、そのターゲットを取り巻く環境がどんどん変わっています。この十数年打ってきた施策では、現在の消費者を満足させられない可能性があります。実際、マーケティングの現場でよく目にするのは「車が若者に売れなくなった」「ソーシャルマーケティングに対応しなくてはならない」などの市場環境の変化に対する動きです。消費意欲が減退した若者に対する販促策や、新しいメディア対応など、企業はマーケティングについては十分に気を使っているはずです。

であるならば、ブランドづくりも同じで、その時代時代で手を変え品を変え、攻め方を変える必要があります。ブランドづくりは「消費者からどう見られたいか」の戦略でなくてはなりません。そして、この「どう見られたいか」に基づく施策は、企業が一方的に決めるものではなく、消費者に合わせるべきものです。

あなたの会社ではここ数年、ブランドづくりが変化のないままになっていませんか。ブランドづくりは、時代の変化に合わせて、その有り様を適宜変えてよいのです。

社内ネゴが面倒で諦めてしまう

また、「ブランド」というカタカナ言葉に、苦手意識や、嫌悪感を抱く人がいまだに多い、という事実があります。私自身の肌感覚でいうと、上層部の方や、年配の方にこうした感覚の方が多い傾向があります。彼らにとって、ブランドは「これまでとはまったく異なった概念」であり、取り入れるのが「面倒なもの」でしかないようです。

また、これまで築き上げてきたものが、ドラスティックに変えられてしまうのではないか、という不安感から、忌み嫌われることも少なくなさそうです。まさに「黒船襲来」のようなイメージなのでしょう。

そうした方を相手にブランドについて説明するとき、私はよく「ちょっと意識を変えてみてください」とか、「チューニング(調整)しましょう」という言葉を使います。決してすべてをドラスティックに変えるのではなく、部分的に変えるのですよ、ということを伝えるためです。人間誰しも、大きな変化は望まないものです。だからこそ、部分的、少しの変化である、ということを伝えたほうが、理解を得やすく、実現の可能性が高まるのです。ですが、この少しのチューニングや部分的な変化が、積み重なると大きな意識変革に結び付いていくのは言うまでもありません。

ところで、社内の各部門を奔走するブランド担当者のモチベーションを一気に失わせる言葉があります。「そんなことをやって売り上げが上がるのか? 昨年に比べて何%増えるんだ?」というものです。「では、あなたはブランドを見捨てるおつもりですか?」と言い返したい気持ちをグッとこらえて、耐え忍んでいる方も多いのではないでしょうか。

こうした質問が出てくる会社は、往々にしてブランドづくりに対してトップの理解が得られていません。残念ながら、まだブランドそのものについての理解も進んでいないと考えられます。

長期的に売り上げが上がるように地ならしすることがブランド戦略です。

であれば、長期的な視点で自社に利益が還元されていることを確認する必要があります。

欧米に比べて、日本でブランドが育ちにくい一つの要因が「他部署との連携」にあるように思います。つまり会社内の組織が縦割りであるため、本当はやったほうがよいと思っている活動も「それは自分の担当する仕事ではない」と見て見ぬふりをして、せっかくの良いアイデアも口に出さずに終わってしまうことがあるのです。

これは非常にもったいないことです。ブランド会議の場では、「ちょっとはみ出る勇気」が必要だと思います。顧客に喜んでもらうために、一人ひとりが何をすればいいのだろうと考えるとき、誰もが知らずしらずのうちに「自分の仕事領域」にとらわれています。ただ、人を喜ばせるとなると、ちょっとだけその領域をはみ出ないと、そして、そのはみ出た部分を接着剤にして、他の部署と連携するという心持ちで企業活動を行っていかないと変化は生まれないと思います。

「これは自分の部署の管轄ではないが、こうしたほうがお客様は喜んでくれるだろうから、あの部署に提案してみよう」という意識です。私がこれまでに訪問した企業を見てみると、そうしたはみ出る文化のある会社のほうが、うまくいっています。

逆に、「ブランドなんて関係ない」と言っている人は、「別に自社がどう思われても構わない。評判が悪くても、良い人材が集まらなくても、消費者から見向きもされなくても、それでよい」と言っていることと同じことなんだ、という意識が欠如しています。それでも、ブランドなど不要だという人がいれば、今度一緒に飲みに行ってみてください。きっと「俺は、○○のビールしか飲まない」などと言い出すはずです。自分がそのビールブランドのロイヤルカスタマーであることも気づかずに……。

では、これらのような壁はどうすれば乗り越えることができるのか? 次回は、ブランディングに成功した企業の担当者が保有する共通認識についてまとめます。

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  • 2017年09月19日
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