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企業研究長生き企業の“ねばり理論”(2)

長寿企業大国日本で今、起きている社会と企業の変化

  • 中小企業経営研究所 伊藤暢人所長
    聞き手=内野侑美/文=河村裕介
  • 2017年09月05日
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長寿企業大国日本で今、起きている社会と企業の変化

企業のクライシスの一つはマーケットの変化であり、それに対応できない企業は生き延びることができない。これは、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である」というダーウィンの進化論に通じるものがある。連載第2回では、社会に起きている変化や、変化に対応するための経営者の覚悟について、日経BP総研 中小企業経営研究所の伊藤暢人所長に聞いた。

第1回「長寿企業大国日本からみる100年企業の実態」はこちら。

生き延びる秘訣は、聞く耳を持ち変化すること

―マーケットの変化に対応できた企業の例について教えてください。

伊藤:よく知られている例として、富士フイルムがあげられます。かつてはカメラのフィルムメーカーとして、国内で9割以上のマーケットシェアを持っていましたが、今では医薬品や化粧品のメーカーになりました。これは、デジタルカメラが主流になり、フィルムを使う人が激減するというマーケットの変化が起きたためです。じつは世界で初めてデジタルカメラを作ったのは、ライバルのコダックでしたが、当時は社内ではフィルム事業が王道だったためデジタルカメラにシフトできず、結果的に企業として存続できなくなりました。マーケットやお客様の嗜好は常に変化していますし、もちろんライバル会社も変化します。

―業態を変えて生き残った例はありますか。

伊藤:例えば、「とらや」は羊羹を売り続けて260年になる企業ですが、味はお客様の嗜好に合わせて変え続けています。さらにはTORAYA CAFEを展開することで、業態までも変えようとしています。生き延びる企業のポイントの一つは、お客様のニーズの変化を聞く耳を持っているということです。そして経営者が見る目を持っている、つまり、とらやがカフェをやったら話題になるだろうというのが見えているということです。しかし、実際には簡単ではありません。物販から飲食業に変化するわけですから、社員の教育もしなくてはならない。とらやの心を考えた上で飲食業を展開するのですから、そのためのコンセプトもまとめなくてはならない。業態を変えなくてはならないのは、その業態がなくなる、あるいはなくなりそうだからです。長生き企業は、一つの業態にこだわっているように見えても、実際は大きく変化しているのです。

中小企業経営研究所 伊藤暢人所長
中小企業経営研究所 伊藤暢人所長

人口減少の中で企業に何が求められるか

―今、日本では人口減少という変化が起きています。

伊藤:平成に入って、1月1日から営業する店ができたり、コンビニエンスストアが普及し24時間365日、店が開いているようになったりが当たり前になってきました。ところが最近では、人手不足になり、1月2日に年賀状が配達されなかったり、24時間営業を打ち切る判断をするファミレスが出てきたりしています。働く人が集められなくなってきているのです。サービスというものを、もう一度、働く人の気持ちになって作っていかなくてはならない。2017年6月の有効求人倍率は1.51で、これはバブル期の1.43を超えています。それくらい人がいない状況の中で、どうやって楽しく快適に、働いてもらえるかを考えないと、企業はビジネスを続けられなくなっています。社員がいなければ、会社はただの箱にすぎず、ただの箱では競争には勝てません。

社長の使命は意思決定とやり抜く覚悟

―企業が変化するために、経営者に求められることはなんでしょうか。

伊藤:日本交通の会長の川鍋一朗さんは、おじいさんが開催する園遊会で「うちの三代目だから皆さんよろしく」と言われ続けたことで、会社を継ごうという意思をDNAに刷り込まれたそうです。そういうDNAを持っていると、マーケットが変化しても、商品やサービスを変えていけます。というのも、社長の役割はロングスパンでものを見ること、そして成功する確率が51%で失敗が49%というような、どちらになるか分からないものを決断することだからです。90対10ならば意思決定は社員がすればいい、80対20なら係長、70対30なら課長でしょう。社長は、成功するか失敗するか分からないことに対して意思決定を行い、やると決めた以上は自分も徹底してやるし、社員にも徹底してやらせ、会社を変化させることが仕事なのです。

第3回に続く)
第3回では、これからの100年企業の条件や、サステナブルな経営について聞きます。

プロフィール

伊藤暢人

広島県出身。1990年に東京外国語大学を卒業し日経BP社に入社。新媒体開発、日経ビジネス、ロンドン支局などを経て、日経トップリーダー編集長に。2017年、中小企業経営研究所の設立に携わり所長に就任した。幅広い業界の中小企業経営に詳しく、経済産業省やトーマツ ベンチャーサポートなどが主催する賞の審査員を歴任。

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  • 2017年09月05日
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