企業研究100年企業の源流(7)1919年創業
経営・社員一同「One Olympus」で難局を乗り越えた100年企業のオリンパス
- 文=里見渉
- 2018年07月09日
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「組織の健康診断です。健康診断というのは、経過観察をしていくことに意義があるんです」——。オリンパスの人事本部 教育統括部 キャリア開発グループリーダーの森 賢哉氏はそう言って経営に詰め寄った。
大正8年(1919年)に創業し、来年100周年を迎えるオリンパス。一般にはカメラやICレコーダーのメーカーとして知られているが、グループの売上比率は、医療が73.0%、科学が13.6%、映像が11.0%で、医療系が大半を占める。連結売上高7481億円(2017年3月期)、連結従業員数3万4687人(2017年3月現在)。日本を代表する光学機器・電子機器メーカーだ。
社名の由来は、ギリシャ神話のオリンポス山。神々が集う山だ。2011年、そんな神々が集う山に暗雲が立ち込める。過去数年の損失隠しが発覚し、それが広く報じられてしまう。株価は急落し、周囲から厳しい視線が集まる。社員の士気は下がり、経営に対する不信感は募る。同社の森氏によると、オリンパスの社員をひとことで言うと「誠実」という。経営の不祥事は、そんな誠実な社員の自信と誇りをも失墜させた。
現状を正しく把握するために「組織診断」を実施
この状況を改善して社員の士気を高めようと、同社の森氏が率いる人事部のスタッフが動き出す。2012年に新体制で再スタートした同社の経営に対し、森氏は冒頭の提案を行った。現状を把握するために行う社員の意識調査「組織診断」の実施だ。
実は同社は、事件前の2008年にも「PDCAを回す仕組みがない」という問題意識から同様の診断を行っている。冒頭の森氏の「経過観察をしていくことに意義がある」は2008年の調査結果と比べて現状はどうかを正しく把握するために行う必要があることを説明したものだ。経営側としては、事件直後の社員の意識調査には抵抗があるだろう。しかし、新体制となった同社の経営はこれを受け入れた。これには「信頼を回復するために、社員の自信と誇りを取り戻すために」という強い決意がうかがえる。
2012年、同社は組織診断を実施。その結果について森氏は、「やはり経営への信頼感と、社員の活力が低下していました。分析すると、前回の2008年で悪かったところがさらに悪くなっていたのです。これは組織風土の問題だという仮説を立てました」と語る。森氏らは、負のスパイラルを打ち切るために課題を整理し、取り組みテーマを決め、風土改善に向けた施策を打ち出していった。
組織診断で浮かび上がった課題を3つの取り組みで改善
組織診断の結果、(1)経営トップ・コミュニケーション不足、(2)上位方針の展開とPDCAが不徹底、(3)人と組織を束ねるマネジメントの弱体化、(4)現場活力の減退、(5)個別最適の加速という5つの課題が浮かび上がってきた。
これらの課題を改善するために森氏らは、(1)経営トップ・コミュニケーション強化、(2)マネジメント支援・強化、(3)職場活性化という3つの取り組みテーマを設定し、全てのレイヤーごとに具体的な施策を実行していった。例えば、経営トップ・コミュニケーション強化では、経営トップによるタウンミーティング(対話集会)を3年間で200回実施。これには約2000人が参加し、現在もそれを継続している。また、マネジメント支援では、本部長・部長を対象とした360度評価や、風通しの良い職場づくりに向けた各種マネジメント研修などを取り入れた。
さらに職場活性化では、部門を超えたface to faceコミュニケーションの活性化と主体性を持って最後までやり抜く「考動力」の強化をテーマに取り上げ、仕事のやりがいを再確認するための「職場のワークショップ」や、同社初の全社イベント「OLYMPUS FUN FESTIVAL(OFF)」を開催した。
事件後、同社は経営陣の入れ替え、一連の問題の検証、第三者委員会の設置と報告、その報告を受けての対応、再発防止に向けた対策、監査機能の強化、内部通報制度の拡充、コンプライアンス教育の充実など、ありとあらゆる対策を行った。しかし、それとともに社員の士気は下がる。その状況を改善しようと組織診断を願い出た社員と、それを受け入れた経営。ともに誠実で真摯な姿勢は、オリンパスという100年企業の文化でもある。
経営・社員一同「One Olympus」で信頼回復に努めてきたオリンパス。一時は上場廃止の瀬戸際にも立たされたが、その後は様々な取り組みにより業績はV字回復した。大きな苦難を乗り越え、新たなステージへと歩み始めた同社にエールを贈りたい。
- 2018年07月09日
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