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企業研究長生き企業の“ねばり理論”(1)

長寿企業大国日本から見る100年企業の実態

  • 中小企業経営研究所 伊藤暢人所長
    聞き手=松崎祥悟/文=河村裕介
  • 2017年07月28日
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長寿企業大国日本から見る100年企業の実態

近年、創業100周年を迎える日本企業が増えている。これは第一次世界大戦を契機に志を持った人々が企業を立ち上げたことによるが、多くの場合100周年を迎えられる企業は3%に満たないという。では、どのような企業が長生きしてきたのか、これからも生き延びていくためには何が必要なのか、日経BP総研 中小企業経営研究所の伊藤暢人所長に聞いた。連載第1回では、企業を長く存続させる難しさと、にもかかわらず日本に長寿企業が多い理由について解説する。

そもそも株式会社は長生きできない宿命?

―株式会社は、どのようにして始まったのでしょうか。

伊藤:世界初の株式会社は、1602年に設立された「オランダ東インド会社」です。それまでは航海の度に資金を集め、船が無事帰還できれば富を得られるが、帰還できない場合はまったく収益が残らないというハイリスク・ハイリターンの仕組みでした。そこで、リスクヘッジのために考案されたのが株式会社です。多くの投資家から資金を集め、複数の船を運用することで、リスクとリターンを平準化したのです。しかし、多くの人に権利が分散されたため、組織として長生きするのは難しくなりました。これは、現在も同様で、株式会社は長生きできない宿命を背負っているといえます。

中小企業経営研究所 伊藤暢人所長
中小企業経営研究所 伊藤暢人所長

―かつて日経ビジネスが、「会社の寿命は30年」と発表しました。

伊藤:その記事は、明治29年(1896年)から昭和57年(1982年)における総資産額などを基準に上位100社の企業をリストアップしたところ、連続してランクインしたのが王子製紙1社のみだったという調査が基になっています。企業がなかなか長生きできない理由の1つは、マーケットの変化に対応できないためです。また、震災や天候などのクライシス、汚職や公害などのレピュテーションリスクも克服していく必要があります。

日本企業の経営者は100年企業を目指す

―100年以上続いている企業の3割が日本企業であるといわれています。

伊藤:理由は、2つあります。まず1つ目は、海外に比べて日本はM&Aの市場が成熟していないことです。海外では、長く続いた企業間でM&Aが行われ、長生きする企業の数が少なくなっています。例えば、ポルシェ、ブガッティ、アウディなどの企業は、ドイツのフォルクスワーゲン・グループに買収され、今もブランドとしては残っているものの、会社としては存続していません。2つ目に、日本の企業は約380万社のうち99.7%が中小企業であり、またオーナー企業も多いことがあげられます。戦後に創業した企業の二代目、三代目経営者には、100年企業になりたいと憧れを抱いている方も数多くいらっしゃいます。

経営を継続する仕組みが100年企業には不可欠

―日本の100年企業に共通点はありますか。

伊藤:共通点は、経営を継続していく仕組みがあることです。スイスのUBS銀行の調査によると、同族企業は一般企業に比べてパフォーマンスが相対的に高く、これは長期的な視点で経営を行っているためだと分析しています。しかし、同族企業には、だいたい30年に一度「代替わり」というクライシスが起きます。優秀な後継者がいない、権限移譲が上手くいかないなどによって、一貫性のある経営が危ぶまれるのです。同族企業の中でも、100年企業として生き残っているのは3%に過ぎません。一般企業が100年企業として生き残る1%よりも大きい数字ですが、そもそも企業が100年生きるケースは少ないと見ることもできます。

創業家は企業の精神的支柱

―ほかにも、同族企業の特徴はありますか。

伊藤: 創業家の求心力があげられます。例えば、オーダースーツ販売の「SADA」を展開する佐田は、ファンドが救済に入りました。その間、創業家が経営から離れたのですが、結局、立ち直りを成功させたのは舞い戻ってきた創業家出身で、現社長の佐田展隆さんでした。また、トヨタ自動車は、急激な成長を目指したことで、リコール問題が米国で起きるなど、会社の信頼を失ったことがあります。トヨタは同族系のように思われていますが、豊田家の持株比率は2%に過ぎず、株式の論理では創業家の人間は会社を継ぐ立場にはありません。しかし、年間売上20兆円を超える会社が、いいクルマづくりへと舵を切り直せたのは、現在のCEOの豊田章男さんによるところが大きいのです。創業家は、企業の精神的な支柱であるといえます。

第2回に続く)
第2回では、経営環境が激変する市場に対し、長生き企業の“ねばり強さ”について聞きます。

プロフィール

伊藤暢人

広島県出身。1990年に東京外国語大学を卒業し日経BP社に入社。新媒体開発、日経ビジネス、ロンドン支局などを経て、日経トップリーダー編集長に。2017年、中小企業経営研究所の設立に携わり所長に就任した。幅広い業界の中小企業経営に詳しく、経済産業省やトーマツ ベンチャーサポートなどが主催する賞の審査員を歴任。

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  • 2017年07月28日
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