周年事業周年小ネタ書評(4)
ベストセラー『夫の後始末』というタイトルの付け方
- 文=菅野和利
- 2018年08月20日
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引きのあるタイトルだ。夫を後始末するとは……。このタイトルを見た多くの人が興味や疑問を抱くだろう。今、『夫の後始末』(講談社)が売れている。2017年10月に刊行されてから順調に部数を伸ばし、18年5月には19万部を超えた。
曽野綾子氏といえば、歯に衣着せぬ物言いで賛否両論を巻き起こす作家だ。この『夫の後始末』も、どこか軽妙洒脱(しゃだつ)で社会の本質を突く内容に違いない。期待して読み始める。ところが、思いのほか本書は歯切れが悪い。それもそのはず、夫の三浦朱門氏を介護して看取った日々をつづった内容だからだ。夫が、「まだ四時台に、玄関の外で倒れて動けなくなっていた時、適切に助けられなかった」という経験も書かれている。
それでも曽野氏ならではのウイットが散りばめられているはず、と読み進めると、「介護人は怠け者の方がいい」などユニークな箇所はあるものの、後半にいけばいくほど内容に重苦しさが漂う。第二部の見出しは「看取りと見送りの日々」。軽くなりようがない。
斬新なタイトルか、内容に即したタイトルか
この違和感は何かと考えると、タイトルと内容の乖離(かいり)が原因だと気付いた。「後始末」という切れのよい言葉と、63年余りを連れ添った夫との別れという割り切れなさが、どうにも結び付かない。『夫の後始末(をすっきりしようと思ったけれど、人一人が亡くなることはそう単純ではありませんでした)』という逆説のタイトルなら分かる。
本書は、「週刊現代」に連載されたコラムを加筆修正し単行本化した。週刊現代での連載タイトルは「自宅で、夫を介護する」。2月に夫が亡くなってからは「家族を見送るということ」にタイトルは変更された。連載時のタイトルなら、内容としっくりくる。違和感はない。
単行本化に当たり、恐らく編集部が売れる見込みがつくタイトルとして『夫の後始末』と付けたのではないか。結果、本書は売れた。売れなければ誰にも読まれない出版界にあって、売れるタイトルは最優先事項といってもいい。本書のタイトルが『家族を見送るということ』であれば、ベストセラーにはならなかったかもしれない。
タイトル付けは本当に難しい。例えば、周年史で記事を制作するとき、読み物のタイトルを付けなければならないとしたら、次のどちらを選ぶだろうか。斬新で読者の目を引くタイトルにするか、内容に即した正確なタイトルにするか――。
周年史のコンテンツはさまざまな部署が関わるので、取りあえず間違っていなければいいという保守的なタイトルになりがちだ。コンテンツは読まれて初めて成立する。読もうと思わせる斬新なタイトルが絶対に必要となる。ただ、斬新であっても内容をミスリードするタイトルは、読者に違和感を持たせる可能性がある。
斬新か、正確か。この2点を意識して、両方を満たすタイトルを付ける。コツは先に、内容に即した正確なタイトルを付けてみることだ。そこから言葉を引いてみたり、文中に出てくる言葉を足してみたり、表現を言い換えてみたりする。ヒントになるのが売れ筋の書籍だ。書籍のタイトルは言葉の使い方の宝庫である。ぜひ書店で、タイトルを意識して書籍を眺めてみてほしい。
- 2018年08月20日
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