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周年事業周年小ネタ書評(3)

書籍『江副浩正』で不祥事の伝え方が分かった

  • 文=菅野和利
  • 2018年06月18日
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書籍『江副浩正』で不祥事の伝え方が分かった

『江副浩正』(日経BP社)はタイトルの通り、リクルートの創業者、故・江副浩正氏の伝記である。リクルート関係者による著作にもかかわらず、事実に即した記述を貫こうとする執筆姿勢がうかがえる意欲作だ。江副氏といえば、竹下内閣が総辞職したリクルート事件を思い起こす人が大半だろう。

本書を周年書評に取り上げた理由、それはリクルート事件発生から2018年6月で30年になるからだ。1988年に新卒で入社した人は50代、当時40代だった人は70代、人も変われば企業も変わる。

リクルートの創業期に江副氏が作った経営原則は、「商業的合理性の追求」「社会への貢献」「個人の尊重」の3つだ。江副氏は3原則の下、「社員が可能なかぎり自由に働ける制度と風土づくり」を目指したという。1960年、友人2人と興した大学新聞広告社から始まったリクルートは、80年代に1000億円企業となった。個の力を最大限に引き出す経営原則がリクルートを成長させたのは間違いない。

88年、リクルート事件が発生した。政界を巻き込んだ未公開株譲渡事件は、リクルートを存亡の機に立たせた。事件によって人生を大きく狂わされた人もいた。江副氏を心底憎んだ人もいただろう。ただ、本書を読むと、江副氏と仕事をした人の多くは、江副氏を憎めない人と感じていたのではないかと思う。事件の渦中にあった多くの社員も、個の力を最大限に引き出す江副イズムを大切にしていたのではないか。そうでなければ、存亡の機に立たされたリクルートを自分事としてよみがえらせようとはしなかっただろう。リクルート事件から30年後の2018年3月期、リクルートグループの連結売上高は2兆円を超えた。

周年誌で不祥事を掲載すべきか否か

リクルートのWebサイトには、事件から30年たった今でも「リクルート事件から経営理念の制定まで」というページがある。不祥事を隠すのではなく、経営の3原則を変えたプロセスを掲載している。江副氏が掲げた「商業的合理性の追求」が不祥事につながったとして、これを廃し、「新しい価値の創造」「個の尊重」「社会への貢献」を3原則に制定した。以前の3原則のうち、2つは残した。それだけ江副イズムのよい面も社内に浸透していたのだろう。

周年事業においては、過去の不祥事をどう記載すべきか悩むケースが多い。今は情報が隠せない時代だ。まったく記載しないよりは、きちんと公開するほうが社外から好印象を得られる場合も多い。隠そうとしていると思われた途端に、企業イメージは失墜する。誠実さが企業のブランドイメージを高める鍵になる。周年誌などで不祥事を記載するときは、自社がそこから何を変えたのか、プロセスをしっかり伝えるべきだ。過ちを改めたからこそ、自社が今も存続している点を強調するのだ。

新大阪駅に停車中の新幹線。本書を読めば分かるが、新幹線はリクルートビルの立地に大きく関係した
新大阪駅に停車中の新幹線。本書を読めば分かるが、新幹線はリクルートビルの立地に大きく関係した

不祥事から相当の年数がたっているなら、当時の人々の憎めない、人間味ある姿を物語として伝えるのも一手だろう。不祥事とはいえ、関わった経営陣や社員が意図して悪者となっているケースばかりではない。事実に即して書き、決して噓は書かないことだ。

江副氏が創業期につくったフレーズは「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」。周年も1つの機会である。しかも自社のイメージを変える絶好の機会である。

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  • 2018年06月18日
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