周年を“到達点”ではなく“契機”に

未来から始まる「戸田建設140周年記念誌」

2022.07.06

周年事業

  • 日経BP社 プランニングセールス2部 斎藤 睦

「もっと未来を入れたいね」

戸田建設が創立140周年を迎えた2021年初夏、既に周年誌の編集作業も終盤を迎えていたころだった。編集メンバーのひとりが、今井雅則・戸田建設会長に周年誌の内容と進捗状況を説明した。校正段階の誌面をうなずきながら目を通した今井会長が、最後に発したのが冒頭の言葉だ。一般的には、創立○○周年など節目を迎えた企業がその歴史を振り返り、成り立ちや過去の出来事などをまとめたものが社史であり周年誌である。しかし今井会長が自社の周年誌にリクエストしたのは「もっと未来を」。その一言は、戸田建設が取り組んだ周年プロジェクトの本質そのものだった――。
文=斎藤 睦


2017年7月、戸田建設内に「140周年事業プロジェクト」が立ち上がる。グループ会社まで含め各部門からメンバーが集められた、組織横断型のチームだ。総勢8名。最初の議論は、140周年を迎えるにあたり何をするかを決めること。とはいえ、メンバー間には「140」という数字に多少の違和感はあったという。プロジェクトチームのメンバーである総合企画部の津雲健一氏は当時を振り返ってこう語る。「140は確かに10年ごとのメモリアルイヤーではあるけれども、キリの良さでいえば150周年でしょう。だとすれば、150周年を見据えた上で意味ある助走としての140周年ととらえました」。同じくメンバーの建築工事統轄部建築工務部の池端裕之氏は「当時社長だった今井から期待されていたのは、140周年といってもその年だけで終わってしまう単年の事業とはせず、継続的に取り組んでいくようなプロジェクトとすること。周年は“到達点”ではなく“契機”なのです」。

新ロゴマークにはこれまで紡ぎ出したものを込める

まずチームが取り組んだのは新しいロゴマークの制定。ロゴマークから始めたのには理由がある。「今後、周年事業を進める上でシンボルとなるロゴマークがほしい。そのロゴマークにはこれまで戸田建設が紡ぎ出してきたものをきちんと込めるべきだろうと考えたから」と津雲氏。池端氏も「ロゴマークの制定から始めたことは、自社の歴史やこれから進むべき方向、ビジョンなどについて議論する場が増えて、プロジェクトメンバーの方向性を一致させることにつながりました」と振り返る。

戸田建設グループの新しいロゴマーク

プロジェクトチームは発足後ほどなくして、社員限定の特設サイト「140(イチヨンマル)」を開設している。ここではチームからの情報発信だけでなく、全社員へのアンケートなども実施。「色に例えるなら戸田建設は何色」「私たちは○○な会社です、○○とは?」「10年後、どのような戸田で、どのように働きたい?」――など、様々なアンケートや意見交換を通して、戸田建設の今、そして将来のあるべき姿、なりたい姿を全社で共有していった。ロゴマークは社員からも作品を募り、有識者審査や社員投票を経て2019年に決定。今では社員がプレゼンテーション資料などに積極的に使っているそうだ。それだけ支持されるのも、140サイトで他社のロゴマークを研究し、意見を交わし、決定までのプロセスもあまねく伝えてきたからこそではないだろうか。

社員限定の特設サイト「140(イチヨンマル)」。全社員で戸田建設の未来を考える場となった

140周年を翌年に控えた2020年、周年事業の締めくくりのひとつとなる周年誌の制作に着手する。その編集・制作のサポート役として日経BPコンサルティングが加わることに。周年誌をつくる計画は当初からあったものの、具体的にどんなものにするかはあまり議論されていなかった。それでも「当社が120周年で作ったような、ケース付きの立派な社史は150周年でやればいいのではないか。140周年でつくるのなら、今までできなかったことを」(津雲氏)というように、メンバーの誰もが従来型の分厚い社史ではなく“これまでどこにもない周年誌”をイメージしていた。

格式ばらず、インパクトとデザインを追求したタブロイド判周年誌

漠然とメンバーの頭の中にあったのは手軽に読める雑誌スタイルの周年誌。そこで写真週刊誌やビジネス誌、他社の雑誌型周年誌などを編集会議に持ち寄るも、全員が「これだ」というものは出てこない。ある日、日経BPコンサルティングのスタッフが編集会議に持参したフリーペーパーに、メンバーの注目が集まった。それはタブロイド判と呼ばれる大型サイズ、大きく使った写真と自由な誌面レイアウトが特徴で、ザラっとした紙質と相まって独特の雰囲気があった。「これ、いいね」。メンバーから声があがる。池端氏はその時の印象を「全面で写真を載せたら映えるだろうなと。紙質も含めフリーペーパーな感じは受け取る方もプレッシャーを感じないと思いました」と語る。

プレッシャーとは?池端氏が続ける。「この大きさはビジネスバッグだとどうしても折ってしまう。折るという行為により、社史という格式ばったものから解放される。帰りの電車の中ででもパラパラと見て、読み終わったら隣席の人にも見てもらって、その後は捨てていただいても構わないんです」。格式ばらないが、もちろん中身には手を抜かない。戸田建設がこれまで手掛けてきたプロジェクトや取り組みを、写真を多く文章は少な目で掲載。加えて、施工中の現場写真を見開き全面でレイアウトした。タブロイド判の見開きは新聞の1面とほぼ同じサイズなので、かなり迫力のある誌面となった。

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人材派遣・転職支援サイト
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タブロイド判「戸田建設140周年記念誌」

周年が新しいことに挑戦するハードルを下げた

今までにない周年誌への手ごたえを感じながら、最終工程に向けて編集作業を進めていたメンバーのもとに届いたのが、冒頭の今井会長の言葉である。全員がハッとした。そうだった、140周年は過去からの到達点ではなく未来へ挑戦する契機としよう、とスタートしたはずだった。早速“未来コンテンツ”を追加、しかもそれは冒頭に配置することで、その点でもまた他に類を見ない“未来から始まる周年誌”が完成した。

140周年記念誌の表紙にもなった、2024年の完成を目指して建設中の新本社ビル。これも戸田建設の挑戦のひとつ

140周年記念誌は戸田建設の社員のほか、取引先やクライアントなどにも手渡されたが、いずれも反応は上々だったとのこと。大手設計事務所の役員は「これは面白い。建設の魅力が伝わる。こんな肩肘張らない周年誌は初めて。戸田建設さんはすごいね」と大絶賛だったという。それだけではない。ロゴマークを変え、作業服も変え、そのほか新しいことにどんどん挑戦する戸田建設に対し、同業他社からは「思い切りがいいね」「羨ましい」の声も聞かれるそう。「今回の周年をきっかけに、社員の新しいことに対するハードルは確実に下がったと思います」という津雲氏の言葉通り、戸田建設にとって140周年という節目は、社員一人ひとりが未来に挑戦する契機となったのは間違いない。周年記念誌の最終ページには社員の生の声が掲載された。そこから浮かび上がるメッセージは「みらいにつづく」。次の節目となる150周年には、戸田建設はどんな未来を見せてくれるのだろうか。