「人・事・場」の連動で描く、知の共創の未来

― 国際教養大学が挑む、次の10年のリベラルアーツ ―

国際教養大学

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教育理念「国際教養教育」を掲げ、2004年に公立大学法人第一号として開学した国際教養大学(AIU)。世界とコミュニケーションが取れるように英語で学ぶ環境を整え、グローバルリーダーに必要な「統合知」と「人間力」を磨くリベラルアーツを推進するなど、20年以上に渡って日本の高等教育の国際化を牽引してきました。モンテ・カセム学長に、現在取り組む「人づくり、事づくり、場づくり」などについてお話しいただきます。

当社主催の大学広報メディアアワード2025の動画コンテンツ部門で、金賞を受賞された動画「Twenty Years of AIU / 国際教養大学20年の歩み」には、貴学の歴史が詰まっていましたね。改めて、この20年間を振り返っていただけますか。

カセム本学は2004年に「国際教養教育」という教育理念のもとに開学しました。初代学長である中嶋嶺雄先生は、世界の一員となるには世界と直接コミュニケーションが取れるように、とのお考えから、「英語を」学ぶのではなく、「英語で」学べる環境を整備されました。様々な専門科目を英語で学ぶのですから、学生だけでなく、教員の負担も大きかったことでしょう。その甲斐あって、開学時から優秀で志のある学生が集まり、偏差値も上がりました。就職先の企業からの評判も良く、徐々に皆さんに広く知っていただける大学となりました。

中嶋先生の夢は「わが国の高等教育から失われた豊かな教養教育の確立と、実践的な外国語コミュニケーション能力の養成を目指す大学」、つまり、日本の高等教育を変える大学です。それを実現するために、2014年から2023年までスーパーグローバル大学創成支援事業「日本発ワールドクラスリベラルアーツカレッジへの進化」として、第2代学長の鈴木典比古先生のもと、様々なことに取り組んできました。

リベラルアーツ教育を全面に打ち出されたのはこのタイミングでしたね。

カセムグローバルリーダーにとって知力はもちろん大切ですが、頭でっかちではダメで、人と触れ合いながら、もっと謙虚にいろいろなことを身に着けなければなりません。そこで取り組んだのが、リベラルアーツに学びながら未来に向けて挑戦する「人づくり」です。リーダーには知力と人間力、思想と行動、そして実際に行動する中で生まれてくる知恵のようなものも大切ですから、この10年間は外部の方々と連携するための環境整備を推進してきました。大切なのは共創的な文化を築くこと、それも国内だけではなく国際的な共創です。全国に先んじて高齢化が進む秋田県は課題の宝庫。この県の未来を、私たちだけで作れるわけではありませんが、様々な共創を生み出す原動力になりたいと思っています。

最初の10年間はグローバル化を、次の10年間はリベラルアーツや共創の仕組みづくりを推進してこられました。これからの10年間はどのようなことに挑戦されるのでしょうか。

カセム「人づくり・事づくり・場づくり」の3つを連動させたいと考えています。このうち「人づくり」は大学において最も重要な使命ですから、大学の学問体系を発展させながら進めていきます。

「事づくり」では、課題解決のための研究力向上を図ります。教育に強い大学から研究力も高い大学への進化という使命感もあり、多様な経験や専門性を持った人材が、課題を中心に集まってくる大学にしたい。課題解決には学内、県内、日本国内、グローバルという4つのレイヤーがあり、順番に進める方法もありますが、大学としては何かに縛られることなく、気まぐれにモノやアイデアが生み出されるような環境が大切です。「1つの課題を解決しないと次に進むことができない」ではしんどいですし、向き不向きもありますから、「いろいろな事に取り組める」「ほかのこともできる」ような並列型が良いと思っています。

「場づくり」は次の柱で、以前から地域交流活動などを実施してきた秋田県五城目町に拠点を設けたいと考えています。場づくりを始めて驚いたのは、他県の方から「似たような課題があるので、一緒に何かできないか」といったお話が続々と寄せられるようになったこと。何か宣言を出し、小さなステップでも積み重ねていけば応援団ができたり、いろいろとお声がけをいただいたりするので、これが周囲とのつながりを保つ、大学キャンパスが孤立しない仕組みになると思っています。

事づくりのレイヤーのうち、グローバルは貴学が得意とする領域ではないでしょうか。

カセム現状の留学先や受入国は欧米が多いですが、課題解決の研究が役立つのは東南アジア、中東・西アジア、アフリカなどのグローバルサウスの国々だと考えています。高等教育分野で日本と関係の深いベトナムやスリランカなどでは具体的な取り組みを進めやすく、学生の成長機会にもなるでしょう。グローバルサウスと秋田県の課題解決を中心にした研究に魅力を感じ、一緒に取り組みたいと言ってくださる方々をどう巻き込んでいくか、それが次の中期計画の課題です。

周囲を巻き込むことを、大切にされているのですね。20周年の動画でも、他者がいることを喜ばしいと思う、という主旨のご発言がありました。

カセム他者がいることで自分も豊かになるという考え方は、リベラルアーツ教育の根幹です。自分だけが豊かになろうとしても、どこかで限界がきます。他者を受け入れることが好循環のサイクルの原動力になるのです。

貴学では2021年から「応用国際教養教育(AILA)Applied International Liberal Arts」を実践しておられます。昨今は多くの大学がリベラルアーツを取り入れていますが、文系と理系で考える日本特有の問題に起因するのか、その本質が十分に理解されていないのではと感じています。

モンテ・カセム氏の写真

公立大学法人 国際教養大学
理事長・学長

モンテ・カセム 氏

カセム文系・理系という括りではなく、もっと学際的に捉えるべきですが、学際的というと「専門性が薄らぐ」との懸念があるようです。私は大学時代に微生物学から建築に専門を変え、建築士になりました。微生物学はどちらかというと専門イコール学問ですが、建築は専門イコール学際であり、「学際的な専門性」を目指さなければならないと思っています。

その専門性をもって建築士は建物をつくり、クライアントを満足させるわけですが、これはほかの分野でも同じで、課題を解決することで誰かを喜ばせることができますよね。「事づくり」で課題を中心に据えた理由がまさにこれなのです。学際的な専門性がバラバラにならないよう統一する軸が「課題」であり、課題解決には高い志が必要。志は古典や歴史といったリベラルアーツに学べます。

リベラルアーツは西洋の信仰に紐づいて語られることがありますが、古来、リベラルアーツを土台に神学や医学、法学、社会学など多様な専門分野の人材が育ってきました。つまり、高い志を持って正当な決断をするための土台であり、普遍的なものだと言えます。

本学はTimes Higher Educationの「THE日本大学ランキング2025」で総合10位に選ばれました。このことは喜ばしいことですが、上位の国立大学と比較して本学に足りないところとして、リソース面、特に財政面の課題が併せて指摘されたと考えています。

地域の小規模な公立大学ですから、大きな総合大学とは予算規模が全く異なります。しかし、将来へ向けて本学としても稼げるような芽を育てておく必要はあります。高い志を落とさず、単純な効率主義に陥らず、限られたリソースの中で本学が目指す学際的な専門性をいかに伸ばすか。これも次の中期計画における大きな課題です。

そのような大学になるために、何が必要でしょうか。

カセムこうしたリソースの制約や教育面での課題に限らず、課題の解決には想像力を刺激するものが必要です。本学では本格的にデザインシンキングを実践するために「AIUデザインLAB」という産学連携課題解決プログラムを立ち上げました。学生たちはデザイン思考をワークショップで学びながら課題解決を考えていきますが、自分で考えたことを具体的なモノに展開する力を身に付けてほしいと考え、ファブリケーションスペースも設けました。

また、高齢化が進む秋田県ではモビリティが大きな問題になっています。タクシーもバスも運転の担い手不足で、お金があっても乗ることができないのです。我々は、モビリティを単なる交通手段として考えるのではなく、そもそもの概念から再定義するとしたら、ほかにどんなことが考えられるか検討したところ、ロボットスーツというアイデアが出てきました。つまり身体のモビリティです。そのロボットスーツを今後、高齢者や身体が不自由な方々に使ってもらったらどのような反応が起きるのか、という研究を計画しております。こういった面白いことを生み出すための環境の整備が、いずれ事業のシーズを生み出すことに繋がっていくと考えています。

一方、研究に伴い発生するデータは今後も増え続けるでしょうから、情報分析や研究の高度化に活用するためにサーバーシステムに先行投資をしました。このようなあらゆるアイデアを否定しない文化と、そのアイデアを発展、実現させることができる土壌を作っていくことが大切だと思っています。

独自の教育システムを持つ大学には、背景や目的などを説明する必然性があると思っています。貴学は動画に然り、情報発信に力を入れておられると感じましたが、その点を意識していますか。

カセムおっしゃられる通り、本学では授業の中でも、課外活動でも様々なことが行われていますが、なぜAIUはこれをやっているのか、何を目指してそれをやっているのか、読者や視聴者にもっと腹落ちするような発信が必要だと思っています。

一方、情報発信について本学には、大学院(専門職大学院)のグローバル・コミュニケーション実践研究科があります。この研究科は英語教育実践領域、日本語教育実践領域、発信力実践領域の3領域からなり、日本社会のコミュニケーションが不十分なところを強化する役割を果たしたいと考えています。

中嶋学長、鈴木学長からのバトンを受け継いで6年目、日本の高等教育の在り方を変える大学という目標はどのくらい達成できていますか。

カセム「国際教養」を掲げ、英語や留学に力を入れる大学が日本中に増えました。しかし、目指すゴールに対してまだ入口にいると感じています。本学であっても、初期に掲げた英語やリベラルアーツは形式基準として達成したのか、実質的な世界水準として達成したのか、謙虚な姿勢で検証と努力を重ねて行かねばならないと思っています。

開学20年を過ぎ、開学30年に向かっている中で、世界情勢や日常生活も大きく変化していくでしょう。秋田から日本や世界の未来を担う人材を育成するため、これから何をすべきか、教職員、学生とともに、いろいろな方々を巻き込んで共に考えて行きたいと思っています。まだまだやるべきことはたくさんあります。

吉田 健一(日経BPコンサルティング)


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