千葉商科大学の統合報告書は今、大学の取り組みを語るツールから、経営の意思を統合し、内外の理解と行動をそろえるコミュニケーション基盤へと役割を拡張させています。事業報告書との統合も果たした2025年度版について、統合報告書プロジェクトを率いた経営企画部長の柏木暢子氏、統合報告書プロジェクトの藤村祐子氏、衛藤和樹氏ほか、プロジェクトメンバーにお話を伺いました。
第3期経営計画が、統合報告書の“戦略面のマス”を埋める
これまでの統合報告書からの変更点として、2025年度版における一つの要が、重点課題(マテリアリティ)の提示でした。
藤村そもそも、統合報告書のセオリーとして、価値創造プロセスにおいてポイントとなる「重点課題(マテリアリティ)抽出とその抽出プロセス」は、外せないページという認識がありました。これまで明確に打ち出せていなかったのですが、2024年度より始まった第3期中期経営計画の策定過程で、この先10年の課題の整理と抽出を行っていたこともあり、それをタイミングよく紙面に落とし込むことができたのです。
柏木社会情勢の中で、大学が何を自らの強みと定め、持っているさまざまな資本をもとに、どのような重要課題へ取り組むのか。そしてその結果何を生み出し、成果とするのか。2025年度版では、それが価値創造プロセスのピースとして一枚の絵に収めることができました。
「重点課題(マテリアリティ)抽出とその抽出プロセス」は、第3期中期経営計画に基づいて、丁寧に社会課題の整理と抽出が行われた上で、重要課題を絞り込み、それらが最終的に理事会の諮問機関である評議員会を経て、理事会で承認されるという一連のプロセスを明確に示しています。
「千葉商科大学の価値創造プロセス」
画面を拡大してご覧下さい。
「重点課題(マテリアリティ)抽出とその抽出プロセス」
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https://www.cuc.ac.jp/about_cuc/activity/integratedreport/index.html
事業報告書との一本化がもたらしたメリット
2025年版のプロジェクトチームには、統合報告書に事業報告書を統合させるという大きなミッションが与えられていた、と伺っています。
藤村事業報告書は私立学校法第103条に基づいて作成が義務づけられているもので、2021年度より統合報告書の制作が始まって以降、将来的な統合の可能性が模索されていました。さらに、ガバナンスや情報公開の強化といった時代の流れの中で、説明責任を果たす媒体を1つに絞ることによって、ステークホルダーへのコミュニケーションをよりスムーズするという狙いも込められていました。
サブリーダー
藤村 祐子 氏 (経営企画室)
プロジェクトメンバー(以下、PJ)今回とにかく難しかったのは、実績を丁寧に報告する「事業報告書」と、大学の未来像や価値創造の流れを描く「統合報告書」という、性格の異なる2つの内容を、1つの冊子として矛盾なく成立させることでした。しかも、今年のメンバーはほとんどが制作未経験からのスタートで、統合報告書というものを初めて扱う職員ばかり。まずは「統合報告書とは何か」「大学として何を語るべきか」を理解するところから始まりました。方向性の違いによって文章のニュアンスや情報量も変わるため、単純に章を並べるだけでは“ひとつの物語として読み通せる冊子”にならない。そこで、どの章をどの順番に置き、どの概念を橋渡しに使うのか、日経BPコンサルティングのコンサルタントとともに何度も議論を重ね、共通認識を作っていきました。
さらに、限られた文字数の中で伝えたい内容をどこまで取り込むかも悩ましいポイントでしたね。取材で得た情報はどれも魅力的ですが、未経験だからこそ“どこを残し、どこを削るか”の判断基準が最初は定まらず、全員で文章を出し戻ししながら試行錯誤する時間が多かったです。一方で、その積み重ねのおかげで、情報の整理力や読者視点での判断がメンバーそれぞれで急速に研ぎ澄まされていったのも事実です。未経験メンバーが多いからこそ、想像以上に緻密で、学びの多いプロセスになったと思います。
柏木事業報告書との統合によるメリットは、過去の実績と未来構想を同一フレームで提示できる点です。実際、学内職員に向けて行われたアンケートからも「統合報告書と事業報告書の統合によって、過去の実績を踏まえた上での未来に向けた説得力のある内容になった」「重複する作業を整理できたおかげで業務負荷が軽減された」といった評価が出ていました。
統括
柏木 暢子 氏 (経営企画部)
プロジェクトチームによる制作が、インターナルコミュニケーションの拡充装置に
千葉商科大学が統合報告書を初めて発行したのは2021年。制作は当初より、学内の若手・中堅職員を中心としたプロジェクト型で進められてきました。
柏木2020年当時、事務局長から東京大学の動きを聞いて、うちも統合報告書をやってみようということになり、OJTによる人材育成の効果も考え、学内の若手・中堅職員によるチームで制作を進めることにしました。
藤村それから4年、2025年度版のプロジェクトメンバーも同様に学内の幅広い部署から集められ、総務、人事、学生支援、キャリア支援、教務、広報など、日々全く異なる実務に就いている職員が、まさにゼロベースからこの一冊のために奮闘してきました。
リーダー
衛藤 和樹 氏 (キャリア支援課)
PJプロジェクトメンバーとして活動することで、自部署に留まらず、他部署を含めた大学全体の動きを改めて把握することができました。結果として、自身の仕事が大学全体にどのように寄与しているかを再認識するきっかけになりましたね。
藤村経営計画のプロセスに内在する判断や論点をプロジェクトメンバーによって再編集し、より外部に伝わりやすい形へとリデザインする。この統合報告書の制作そのものが、日経BPコンサルティングの支援もあって、組織をつなぐインターナルコミュニケーションを拡充させる装置として機能し始めてきたのかもしれません。
“全方位ステークホルダー”に向けた、良質なコミュニケーションツールとして
2025年版の1ページ目には「主なステークホルダー」として、学生、保護者、卒業生、教職員、地域、企業、連携機関・大学の7つが明記されました。
柏木まさに、大学に関係する全方位にステークホルダーを設定し、統合報告書はそのすべてに届くためのツールとして位置付けています。その効果は、すでに各ステークホルダーから寄せられており、プロジェクトメンバーたちも実際にそれを体感しつつあります。
衛藤冊子自体を企業や教育機関に渡す機会が増え、大学が統合報告書をつくっていることや、経営戦略を練っていることに、よい意味で驚かれます。同僚からも「企業向けの営業ツールになり得る」と喜ばれました。実際、発行後のアンケートでも同様の評価をする回答がありました。
理事長、学長、校長による鼎談企画も、もう一つのハイライトだったと思います。
藤村従来はそれぞれが個別にメッセージ語る形式でしたが、鼎談の形式にすることで、ステークホルダーから「本人が単独で語っているのとは、異なる内容の話が出てきておもしろい」「トップそれぞれの連携する様子が見える」といったポジティブな反応がありました。
柏木鼎談は、特に卒業生からの反響が非常に良かった印象です。この企画を進めた意図としては、経営の新体制やそれぞれの考え方をしっかり見せたい、というものがありました。その意図をプロジェクトメンバーが汲み取ってくれたうえで、形になったものが評価されたのはうれしいことです。
発行後には、プロジェクトメンバーによる職員向けのオンライン報告会も行われたそうですね。
藤村それによって内部の理解が格段にあがったこともわかりました。その証拠として、報告会後のアンケートでも「大学全体の方向性が見える」「自分の仕事がどこに寄与しているかわかる」「財務情報が数字だけでなく説明付きで勉強になる」「1冊で千葉商科大学の全体像がつかめる」といった、ここでもポジティブな反応が並び、統合報告書が共通認識の形成に寄与していることが明らかになりました。
柏木大学での授業で、複数大学の統合報告書を読み込み「その大学がどこに力を入れているか」を分析する課題があったと聞きました。当然、千葉商科大学の統合報告書もその中に入っていたようで、学生たちがどう捉えているのかは、ぜひ聞いてみたいですね。
「千葉商科大学 統合報告書2025」プロジェクトメンバー
リーダー:衛藤 和樹(キャリア支援課) サブリーダー:片岡 弘和(教務課) サブリーダー:藤村 祐子(経営企画室) 染谷 広子(総務課) 髙田 憲佳(学生課) 原田 真依子(総務課) 統括:柏木 暢子(経営企画部)
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