生成AI時代。激変するBtoBマーケティング

成果を生む生成AI×BtoBコンテンツ戦略──競争に勝ち抜くための実践的アプローチ

2025.07.23

コンテンツマーケティング

  • コンテンツ本部 ソリューション1部 太田 美保

生成AI(ジェネレーティブAI)の普及により、マーケティングコンテンツの制作環境は大きく変化しています。誰もが容易にコンテンツを作成できるようになった一方で、似通った内容の記事が氾濫するという新たな課題も生まれています。

特にBtoB領域では、AIのみに依存したコンテンツ発信は逆効果になる可能性があります。生成AI時代に読み手の共感と信頼を獲得するためにはどのように情報発信すればよいのか──。生成AI活用を前提とした考え方と具体的な方法を紹介します。

BtoBビジネスで購買を検討している担当者は、具体的な課題解決策を求めています。業界特有の問題や顧客固有の悩みに対して、実体験に基づく解決策を期待しています。またBtoB企業での購買意思決定の際、稟議(りんぎ)には異なる立場のステークホルダーが数多く関わるため、この点を考慮する必要もあります。

例えば経営層はROI(投資利益率)や戦略的価値を、現場担当者は運用方法や技術詳細を、IT部門はシステム連携を、財務部門はコスト構造を、法務部門はリスク管理を重視するなど、関係者の一人ひとりが異なる関心事を持っています。そのため、同じ情報でも受け手に合わせた切り口と深さで伝えていく必要があります。

BtoBビジネス特有のポイントを踏まえて、どのような観点でコンテンツ設計をすべきでしょうか。

BtoB購買プロセスの各段階で求められるコンテンツの種類

BtoB購買プロセスは検討段階ごとに関わるステークホルダーが変わるため、必要なコンテンツも変わります。

認知段階では業界トレンドや課題を示す概念的なコンテンツが求められます。この時点では、潜在的な課題の気づきを促す情報が効果的です。企業が自社の課題を明確に認識できるような、問題提起型のコンテンツが価値を持ちます。

探索段階では、認識した課題に対する解決策を探すための情報が重要になります。この段階では、具体的な解決アプローチの種類や方向性、ベストプラクティスなどの情報が求められます。様々な解決策の概要や基本的な比較情報、成功事例のハイライトなどが効果的です。

検討段階に進むと、具体的な製品・サービスの比較検討、選択肢を絞るための詳細情報が重要になります。実際の活用シーンやメリット・デメリット、導入プロセスの詳細、製品スペックなどを理解できる内容が求められます。この段階では、より具体的で実践的な情報が意思決定を左右します。

決定段階では仕様やサポート体制などの詳細情報が必要となります。稟議の材料となる具体的な数値や導入計画、ROI試算、契約条件、実装スケジュールなどに関する情報が重視されます。購買決定を確定させるための確かな根拠の提供が重要です。

導入後は活用ノウハウやアップデート情報、トラブルシューティング情報が価値を持ちます。継続的な関係構築のための情報提供やユーザーコミュニティーの構築支援が効果を発揮します。顧客の成功を促進する情報が長期的な関係構築に役立ちます。

各段階に合わせた適切なコンテンツ提供が成功の鍵となるのです。

各プロセスで必要なコンテンツを検討する

RAG(検索拡張生成)の活用でコンテンツの精度と独自性を高める

コンテンツ制作において活用すべき生成AI技術として注目されているのがRAG(検索拡張生成:Retrieval-Augmented Generation)です。RAGとは、AIが回答を生成する際に、既存の文書データベースから関連情報を検索・参照し、より文脈に沿った回答を生成する技術です。この技術は従来のAIの限界を克服し、自社の独自価値を発信する重要な手段となります。

RAG活用の主なメリットは、自社固有のナレッジベースを参照し独自性のあるコンテンツを作成できる点、専門的な自社文書を参照して正確性と専門性を担保できる点、常に最新の自社データベースを活用できる点です。

例えば、BtoB購買プロセスの検討段階用としてコンテンツを制作する際にRAGを活用すれば、自社製品・サービスの詳細情報や強み、提案先からの想定質問などを基に、的確な構成案や表現を見いだせます。コンテンツのトーンに一貫性も持たせられます。

RAGを導入すれば効率化を図りながらも価値ある独自コンテンツを生み出せるため、専門性が求められるBtoBマーケティングにおいて大きな差異化要因となります。

生成AIで記事が量産される時代、高まる「導入事例」の価値

生成AIの台頭により一般的な情報は容易に入手できるようになりました。コンテンツがコモディティー化する時代において、顧客の実体験に基づく確かな説得力を持つコンテンツがあります。「導入事例」です。

日経BPコンサルティングが2025年4月に実施した調査※によると、製品・サービスの検討時に「導入事例」を参考にする企業の担当者は、約80%に達している実態が明らかになりました。

導入事例を参考にする企業の担当者は約80%

導入事例を参考にする企業担当者の割合を示す円グラフ(有効回答数:1,427件)。『非常に参考にする』が10.1%、『ある程度参考にする』が66.5%で、両者を合わせた『参考にする』割合は76.6%。その他、『どちらともいえない』17.1%、『あまり参考にしない』4.1%、『まったく参考にしない』0.8%、『分からない』1.4%。

さらに導入事例は情報収集から運用時まで、すべてのプロセスで読まれていることも明らかになりました。

情報収集~運用時まで、すべてのプロセスで読まれている

「導入事例はどのプロセスで読まれているか」の調査結果を示す円グラフ(有効回答数:1,427件)。回答の内訳は、『情報収集・製品探素段階』46.1%、『候補の比較・絞り込み段階』34.7%、『社内稟議(りんぎ)・意思決定段階』4.5%、『導入後の運用・活用段階』9.8%、『その他』0.1%、『分からない』4.8%。

導入事例で最も参考になるのは「具体的な導入効果の数値」であり、「自社と同業・同規模で同じ課題を持つ企業の事例」「導入後の運用・活用方法/導入プロセス」も重視されています。言い換えれば「ファクト」「専門性」「解決志向」です。また、「誰が語っているか」が説得力に直結し、「人」による語りを通じてコンテンツの信頼性とリアリティーが向上します。導入事例における「人」の重要性は、生成AI時代において特に価値を持ちます。

これらの要素は生成AIだけでは作り出せません。実際に人が経験した情報をコンテンツ化すれば、確かな説得力を持ち、BtoB購買のすべてのプロセスで重視されます。

「導入事例」の中で一番参考になると思われている情報

※注:「企業の『導入事例』活用についての最新動向調査レポート2025年版」。日経BPコンサルティングのアンケートシステムにて、同社モニター2687人を対象に2025年4月に調査

コンテンツの質を上げる3つのスキルとは

導入事例の実態調査から、「ファクトベース」「専門性」「解決志向」を「人」が語るコンテンツが、これからのBtoBマーケティングで注目すべきコンテンツだと分かりました。

ではそれらをどのように制作すれば、読まれるコンテンツとなるでしょうか。そのために必要なスキルが、「取材力」「編集力」「文章力」です。これらは人の力が主に発揮される部分になります。

「取材力」とは、表面的な回答にとどまらず、背景や本質を引き出す能力を指します。これには相手の立場を理解し、適切な質問を投げかける能力や、重要な情報を引き出すスキルが含まれます。また、数値の背後にある意思決定プロセスや感情を捉える感性も重要な要素です。

「編集力」は、情報を選別し、最適な形に整理・構成する能力を意味します。読者のニーズに合わせた情報の優先順位付けや、複雑な情報を分かりやすく整理する能力が求められます。さらに、視覚的要素と文章のバランスを取る技術も編集力の一部として欠かせません。

「文章力」は、読者の理解と共感を促す表現技術を意味します。専門用語を適切にかみ砕いて伝える能力や、読者の興味を引く文章構成力が重要です。また、要点を明確に伝え、具体例で補強する表現力も文章力の本質的な核です。

生成AIが普及した今だからこそ、AIでは作れない情報発信の価値が高まっています。企業独自の視点や事実に基づく情報を効率的にコンテンツ化して発信する取り組みが、BtoBマーケティング成功の鍵となるでしょう。生成AIの力を借りながらも、最終的には人の洞察力と構成力、創造性が、価値あるコンテンツの源泉となるのです。

※本記事は2025年5月に実施したウェビナーのセッション3の内容を再編集したものです。

事例でわかる・マーケティングコンテンツの作り方
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コンテンツ本部 ソリューション1部
太田(おおた) 美保(みほ)

編集者、広報・情報学修士。これまで広告会社やマーケティング・コンサルティング会社にて、主にBtoB企業のマーケティングやブランディング、インターナル・コミュニケーション支援のためのプランニングや編集・制作ディレクションを担当。

※肩書きは記事公開時点のものです。