連載:変革するデータ活用 第4回

いま再びの「プロシューマー」。消費者と企業は、真の共創関係に

  • 伊達和幸

    マーケティング本部 本部長 伊達 和幸

いま再びの「プロシューマー」。消費者と企業は、真の共創関係に
1980年にアルビン・トフラーが「プロシューマー(生産消費者)」を提唱して40年。情報銀行時代を迎えたいま、消費者と企業の関係性を再定義するものとしてクローズアップしていきます。情報銀行の誕生によって、いったい何が変わるのか。その変化について、考えてみます※。 構成:デジタル本部コンサルティング部 石井健介

※:本稿は、2019年3月13日に開催した「パーソナルデータ活用 <第1回 勉強会>」の講演をもとに構成しています。


効率化と精緻化。では、それ以外は?

伊達和幸伊達和幸(デジタル本部デジタルコミュニケーション部長)

「それって結局、CRMの話?」

パーソナルデータ活用や情報銀行についてお客様と議論を重ねるたびにたどり着くのが、こちらの見解です。これまでも私たちは「顧客体験の向上」を目的にDMP、CDP、PDS、AI、RPAなどのDXによって、効率化、精緻化を目指してきました。情報銀行もその文脈で捉えると、非常に精緻なターゲティングが可能、となるのは、わかりやすいマーケティングのアップデートと言えるでしょう。

効率化、精緻化は確実に進展する。とはいえ、まだ具体的なサービスの話は見えてきません。そのため、率直にいうと「何が変わるのかよくわからない」のが大勢なのかもしれません。すでにローンチしている情報銀行サービスを見渡してみても、広告配信と、その見返りとしてのポイント付与だったり、金銭の還元がなされたり、といったサービスが先行しています。

パーソナルデータ活用 勉強会について

潜在欲求にアプローチ。企業のマーケティング活動が変わる

では、情報銀行を一言で表すと、どうなるか。そのときに私がご紹介するのが「企業のマーケティング活動を劇的に変える」というもの。ただしそれは、顧客の「潜在的な欲求」に応える必要があると考えています。

これまでは顕在化したデータに対して、様々なツール、施策を駆使してコンテンツやサービスを配信してきたのに対して、これからのパーソナルデータ時代、あるいは情報銀行が誕生・普及してくると、顧客は自らの意思で自分のデータを預託するようになります。その結果、これまで見えてこなかった潜在的な欲求が顕在化したり、データとデータをつなげてより深度の深い欲求をプロファイリングすることも可能になるでしょう。企業は、こうした欲求に応えていかなければなりません。

情報銀行とは何か?

個人と社会。2つの便益

もう1つ。情報銀行を議論するときに欠かせない視点が、社会的な便益です。もちろん、個人へのポイント還元など直接的な対価(私的便益)は必要です。しかしそれだけでは、情報銀行は誕生しても、普及には至らないと思います。やはり、企業活動のおおよそがSDGs・ESGのフィルターを通して議論される昨今にあっては、個人活動をさらに広げた社会的便益が必要になると考えています。

プロシューマー(生産消費者)の時代

最後に視点を変えて、すこし歴史を紐解いてみます。未来学者であるアルビン・トフラーは、1980年に発表した著書『第三の波』の中で、「生産消費者(プロシューマー)」という概念を提示しました。これは、生産者 (producer) と消費者 (consumer) を組み合わせた造語で、「生産活動を行う消費者」を意味します。

これを踏まえると、情報銀行というプラットフォームでは、企業だけではなく、企業も消費者(ユーザー)も生産者としてお互いに作用し、一緒にモノを作ったりサービスを開発したりする、お互いに不足する部分を補って作っていくプラットフォームになるのではないかと考えています。「共創」があらゆる場所、時間、立場を超越して起こりやすくなる。

この概念を使って、具体的な「中身」を考えてみます。

たとえば、「シェアリングエコノミー×情報銀行」。コト重視の暮らしをしていると、自動車を保有しない世帯は多いですが、これを個人的便益だけではなく、社会的便益に拡大することができないか。

こんなケースを考えてみます。私を含めて、近隣同士の住民が同じ方向、場所(駅や病院、ショッピングモールなど)を訪れようと思っても、個々人のニーズが同じなのか、あるいは異なるのかを把握しているサービスはまだありません。そこでこのニーズを把握して個人から社会に拡大して共有していくと、シェアリングエコノミーが持つ意味も当然、変わってきます。たとえば、「スーパーで買い物に行きたい」という個人の欲求と、「病院に行きたい」という個人の欲求が結びつくことで、その移動は「社会的便益」(CO2削減、社会保障費削減、場の共有など)に拡大します。

  • シェアリングエコノミー×情報銀行
    経済性・効率性を考え、モノの保有に縛られず、コト重視の暮らしを志向する
  • マッチングビジネス×情報銀行
    ニーズ起点で、個人と個人、個人と企業を紐づけて、機会を設定する
  • スタートアップ×情報銀行
    新しい市場開拓を行いながら、事業化を推進していく
  • クラウドファンディング×情報銀行
    企業・製品に対して、積極的に関与(金銭を提供)し、応援する。まさに、消費者と企業がプロシューマーとなって相互に作用します。

※:肩書は取材当時

伊達 和幸

マーケティング本部 本部長
伊達 和幸

デジタルエージェンシー及びコンサルティング会社で、通信、エネルギー、航空業界のデジタル戦略立案、マーケティング、新規事業・サービス開発に従事。
2016年に日経BPコンサルティングに入社し、デジタル領域のコンサルティング及び施策の立案・実行を多数手掛ける。

※肩書きは記事公開時点のものです。

マーケティング本部 コンサルティング部
石井 健介(いしい・けんすけ)

シニア通販誌で編集・商品開発を担当後、金融、住宅建築、化粧品など複数業界で編集、マーケティング支援に従事。リアルとデジタルを分断することなくコミュニケーショプランを企画・実行。2016年8月、日経BPコンサルティング入社