ブランドづくり、5つのヒント

強いコーポレートブランドの構築に向けて

阿久津 聡氏

ヒト、モノ、カネ、情報に次ぐ第五の経営資源として「ブランド」に注目が集まるようになった今日、改めてその重要性を考えなければならないのはコーポレートブランドについてである。コーポレートブランドは、その名を冠する組織全体の存在意義と価値観、そしてビジョンを象徴する役割があり、強いコーポレートブランドの構築は、経営者自身が全社的な取り組みとしてまず考えるべき重要なテーマだ。経営者が組織のトップとして真剣にコーポレートブランドが象徴するものを考え、社員と共有し、顧客からの共感を得られるかで組織全体の命運が左右されると言っても過言ではない。それにもかかわらず、結果がすぐには現れなかったり、個々の活動の効果が見えにくかったりすることもあり、構築の取り組みが実践できていない組織も少なくない。ここでは、コーポレートブランド構築の取り組みの意義について考えてみたい。

まず、コーポレートブランドを社員と共有すること自体にメリットがある。トップが掲げる志に基づいたコーポレートブランドを構築し、それを社員へきちんと理解・共感してもらうことによって、社員個々人が組織の価値観を自分の価値観のように見なすようになる。これは極めて重要である。なぜなら、仕事に対する社員一人ひとりの更なるコミットメントを引き出すだけでなく、組織内の様々な業務間の効果的な統合をも可能にするからだ。組織が大きくなるほど研究開発、製造、営業など分化された役割間の交流が困難になり、各部門が組織全体の利益よりも己の利益を優先させてしまうことによるコンフリクトが生じやすくなるが、企業の価値観が社員の中にしっかりと内在化されていれば、組織として目指すべきところと組織内での各部門の役割が理解しやすくなるため、そういった問題は最小限に抑えられる。

こうしてコーポレートブランドの意味するところが組織内で共有され、全ての企業活動に一貫性をもって反映されれば、顧客のブランドに対する理解は格段に深まる。なぜなら、商品開発にしろ、プロモーション活動にしろ、そして日々の接客にしろ、これらを実践しているのは個々の社員だからである。彼らがコーポレートブランドを自分のものとすることによってはじめて、そのメッセージが顧客や社会へと正しく伝わる。その意義に共鳴した顧客はそこに価値を見出し、それが企業利益に繋がっていく。

コーポレートブランドの理念に共鳴してくれた顧客は、コーポレートブランド傘下にあるブランドの価値を更に高めるような活動に積極的に参加してくれる。彼らは単なる消費にとどまらず、クラウドソーシングなどの仕組みを利用して商品開発に参加したり、口コミでブランド価値を広めたりしてくれる。いわゆる顧客との価値共創の実現である。

以上に見てきたように、トップの思いがこもったコーポレートブランドの意味を組織内で共有し、社員を通して顧客からの共感を得ることの意義は大きい。多くの経営者がこの重要性に気づき、中長期的な視点からコーポレートブランド構築の取り組みにコミットされることを期待したい。

連載:ブランドづくり、5つのヒント
〜ブランド・ジャパン企画委員会からの提言〜

阿久津 聡 氏

阿久津 聡(あくつ・さとし) 氏

カリフォルニア大学バークレー校Ph.D.(経営学博士)。専門はマーケティング、消費者行動論、ブランド論。
著作に『ブランド戦略シナリオ - コンテクスト・ブランディング』(ダイヤモンド社:共著)、『ソーシャルエコノミー』(翔泳社・共著)、『ブランド論』、『ストーリーの力で伝えるブランド』(ダイヤモンド社:訳書)、『カテゴリー・ イノベーション』(日本経済新聞出版社:監訳書)、『弱くても稼げます』(光文社:共著)、『サクッとわかるビジネス教養 マーケティング』(新星出版社:監修)などがある。

※肩書きは記事公開時点のものです。