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サバイバル分析変化するチカラ

一次産業がサステナブルな未来へ事業を承継していく

  • 文=内野侑美
  • 2022年02月15日
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一次産業がサステナブルな未来へ事業を承継していく

人々の暮らしを支える一次産業。経済成長においては、二次産業、三次産業が日を浴び、その影に隠れていたかに見える。サステナブルな暮らしが見直される昨今、一次産業が注目を集めている。長く続いてきた畜産・狩猟がどのような未来を模索し、歴史を紡いでいこうとしているのか。変化するからこそ長続きする――。一次産業の変化を追う。

CASE1.養鶏――拡大よりも継続を選ぶ

農業や畜産・狩猟は、古くから人々と切っては切れない仕事として続いてきた。しかし、高齢化による担い手不足は深刻だ。農業でいうと経営体は全国で103万7000経営体。5年前に比べると30万3000経営体減少しているが、法人経営体は3万1000経営体と5年前に比べて4000増加している(農林水産省「2020年農林業センサス」調べ)。承継のタイミングで法人化に踏み切る農家も少なくない。法人化したうえで生産性の向上、持続可能な事業に向き合い、技術を承継している農家が山梨県にあると聞き、訪れた。

標高1100mの高台に到着した。甲府盆地を見下ろす斜面に、18棟の鶏小屋が立ち並ぶ。ここ黒富士農場は、70年以上養鶏を営み、全国に先駆けて「アニマルウェルフェア」を実践している。そのきっかけは30年以上前、先代が小学生の体験授業を受け入れた時のこと。「鶏がギュウギュウに詰められてかわいそうだよ」と、小学生に言われた言葉が忘れられず、1989年から平飼い放牧をスタートした。

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4月~10月中旬ごろまで、鶏たちは元気に鶏舎の周りを走り回っている

世界的にも工場的な飼育環境には疑問符がつく。動物衛生の向上は至上命題だ。さらに畜産には、臭いや糞尿の廃棄問題、飼料の価格高騰などの課題が山積みだ。2012年、欧米ではケージ飼いが禁止され、今では卵を使う側の企業もケージフリー宣言を出している。

驚くことに、黒富士農場では鶏の臭いがほとんどしない。“BMW技術”を用いて土着の微生物を活性化させた堆肥を鶏舎に敷きこみ、ハエなどの発生を防いでいる。糞尿も堆肥化させて農場内に還元し、その肥料で一部飼料も作る。「ここで発生したものはこの地で循環する。そんな環境をつくっていけたらと考えています」と専務の向山一輝さんは語る。

農場内循環を表す図。B(バクテリア)M(ミネラル)W(ウォーター)プラントで発酵飼料をつくっている
発酵飼料の説明をする向山一輝専務

先代が始めた養鶏は日本の経済成長とともに一気にケージ飼いで成長した。それから2代目が時代の先を読み、土台が完成している。「現在7万羽飼育していますが、ここから数年で5万羽に減らす方向です。会社としては経営縮小と捉えられるかもしれないですが、ケージ飼いをやめて健康な卵を消費者に届けたいと考えています」(向山さん)

黒富士農場の卵は、有名レストランや外資系ホテル、生協にも使われている。時代に先んじて変わる。付加価値をつける。これからは、大量生産・消費の時代とは異なる価値観のビジネスが成り立つのかもしれない。

CASE2.狩猟――“背中”で伝える経験と勘を研修で

「ぜひ味わってみてください」と目の前に盛り付けられたのは、鹿肉のロースト、肋骨肉のコンフィ、鹿ソーセージ。どれも、頬張ると木の実のような甘みが口の中に広がった。

写真上から時計回りに鹿ソーセージ、鹿骨肉のコンフィ、鹿肉ロースト

ジビエはここ数年、注目が集まっている。このジビエが捕れたのは、東京都の水源地としても知られる山梨県・丹波山村。四方を山に囲まれた場所で、鹿や猪が重要なタンパク質源として狩猟文化が根付いている地だ。何百年も前から続く猟師の仕事は狩猟免許という資格こそあるものの、試験は筆記と猟銃の扱い方や罠のかけ方の実技試験のみ。試験で実際に“仕留める”ところまでは行われない。

免許が取れたら「師匠」につき、その経験と勘を“背中”から教わりながら、猟師としての技術を磨く。この形が一般的だったが、猟師にも研修の仕組みをと乗り出したのがTABA GIBIERの保坂幸徳さんだ。研修では、山に入る前に鹿や猪の足跡や糞を見て覚えたうえで、実際に獣道を通り、野生動物がどんな動きをしているのかを知る。猟師の世界では当たり前でも、初心者には分からない。研修をイベントという形で行い、ハードルを下げた。「猟師は高齢化が進み、若い人の力が必要です。そして、今のうちに現役の猟師さんたちから話を聞き、形になっていないものつなげたいと考えています」と保坂さんは語る。

全国で捕獲された有害鳥獣の約9割が埋設処理され、廃棄処分となる。保坂さんは、会社を法人化し社員3名とともに狩猟を行う傍ら、食肉処理にも力を入れている。山梨県独自の安全・安心なジビエの証である「やまなしジビエ」認証や、「国産ジビエ認証制度」を得て、ジビエ加工食品のOEMも行い、キッチンカーで鹿ラーメンを販売する。

材料を調達するには、猟師の存在は必要不可欠だ。ベテランのノウハウが承継できる仕組みづくりが、企業ひいては地域の産業を存続する糧になるのは間違いないだろう。

保坂さんの経営するアットホームサポーターズでは、加工食品のOEMも行い地元民の雇用も生んでいる
ワイン畑でジビエをふるまってくれた保坂さん

過去に周年事業ラボで調査したデータでも、組織の生命力を維持するために大事なのは変化対応力(50.1%)が1位となっている。需要の変化や社会課題に応じるチカラが常に試されているといえるかもしれない。

日が傾き始めたブドウ畑で、「4パーミル・イニシアチブワイン」を片手においしいジビエを頬張った。このあと、1300年も続くワイン文化に300年続く醸造のチカラを改めて知ることになる。そのお話は後編で。


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