サバイバル分析続く企業の“ブランディング”(1)
大事だと分かっていても、育たないブランド
- 文=吉田健一/構成=松崎祥悟
- 2017年07月28日
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会社が長く生き続けるために必要なことはなんでしょうか?
マーケット環境の変化への対応力、イノベーションを起こす組織力、働きやすい環境、あるいは安定した財務体質など、色々と挙げることができるでしょう。
どれも重要な要素です、ただ、決して欠かすことができないものの一つに、企業が持つ「ブランド力」があります。
あらゆるものが早いスピードでコモディティ化していく中で、消費者に長らく愛され、選ばれるための要因の一つ、それがブランド力です。
この連載では、続いている企業が実践している“ブランディング”について紹介していきます。
連載の第1回では、ブランドづくりが進まない現状についてお話しします。
ブランドはどうしたら強くなるのか
仕事柄、企業のブランド担当者と会う機会が多い私は、しばしば「強いブランドをつくるためにはどうしたらよいのか」との質問を受けることがあります。そのたびに「日本ではまだまだブランドの理解は進んでいないのだな」と思うのです。投げかけられた言葉というよりは、そうおっしゃる時の顔つきでしょうか。先の質問を投げかける担当者の顔つきはどうも浮かない顔をしていて、そもそもブランドという概念が漠然としているようです。具体的な方法論などイメージできていないことが明らかなのです。
そもそも、経営戦略としてのブランドの考え方は、ブランド論の第一人者であるデービッド・A・アーカー氏が、1991年に発表した著書『ブランド・エクイティ戦略』の中で確立し、欧米を中心に脚光を浴びました(日本版はダイヤモンド社より1994年に発行)。その後日本でも、丸の内ブランドフォーラム代表で元東京大学経済学部教授の片平秀貴氏によって、1998年に『パワー・ブランドの本質』(ダイヤモンド社)が出版されたのを境に、ブランドは一つの学問体系として捉えられるようになり、企業経営やマーケティングの中で活用されるようになりました。
これらの書籍が話題になるのと前後して、1990年代の中ごろから後半にかけて、日本ではある種の「ブランドブーム」のような状態が起こり、企業経営とブランドが関連付けて語られるようになりました。社内でブランドに関する議論が、盛んになり始めたのもこの頃でしょう。
すなわち、この時点でブランドが今後の企業経営において極めて重要なキーワードになると気が付いた企業にとっては、強いブランドをつくるために与えられた時間が10年以上もあったということです。それだけの年月があって、社内で十分に議論を尽くすことができていれば、少なくとも先のような質問は出ないはずなのです。
もちろん、まだ歴史の浅い新興企業であれば、今まさにブランドづくりの真っただ中でしょうから、その試行錯誤からいまだ正解にたどり着いていない場合もあるでしょう。
ところが実際には、伝統があり規模も大きな企業のブランド担当者から、先のような質問を受けることが多いのです。
ブランドづくりにまつわる誤解
一様に「いやはや参った」というような、落胆にも似た、困った表情を浮かべながら、おそらく企業の内部では、ブランドづくりに対するある種の誤解があるように思います。すなわち、ブランドづくりには唯一無二の方法論があり、一切の変更を許さない固定的なものである、というような思い込みです。その誤解があるために、ブランドづくりを遠回りしてしまっているのではないかと思うのです。
確かに、「ブランド」という単語の意味合いは多岐にわたるので、社内でブランドづくりというと、「雲をつかむような話なのではないか」と考えられたり、あるいはいわゆる「高級ブランド」としての認知のほうがはるかに進んでいるために、言葉の取り扱いに苦労せざるを得ない面があります。
先の『パワー・ブランドの本質』が出版されて約20年が経った今日でも、日本では「ブランド」というカタカナ言葉が使われ続けていることがその証拠でしょう。いまだにピッタリはまる訳語が見つかっていないわけですから。
とはいえ、ブランドに対する議論が社内で進んでいれば、本質的な困難さはあっても今、まだスタートラインということはないはずです。先にあげた企業では、そうした議論が進んでいないのです。
この連載では、「ブランド」を軸に長年生き続けてきた企業について探っていきます。次回は、ブランドの議論が進まない理由を探るにあたり、まずはブランドのもつ意味について整理します。
- 2017年07月28日
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