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企業研究持続可能な社会に対する企業の姿勢(1)

トップが先頭に。社会課題に取り組む花王

  • 文=内野侑美
  • 2019年06月06日
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トップが先頭に。社会課題に取り組む花王

地球温暖化や格差社会の進行は留まるところを知らない。政府は民間企業を巻き込み、これらの問題に対応する政策を進めている。感度の高い消費者は、企業が社会問題に取り組む姿勢を見抜くものだ。こうした社会課題への取り組みは、企業の“長生き”の秘訣でもある。『日経ESG』編集長を務める田中太郎氏に聞いた。

日経ESG 編集長 田中太郎氏
日経ESG 編集長 田中太郎氏

SDGsは持続可能な社会を目指すための共通言語

―近年、よく耳にするESGやSDGsといったキーワードについて教えてください。

田中:ESGは環境(Environmental)のEと社会(Social)のS、ガバナンス(Governance)のGの頭文字で、もともとは投資の世界の言葉です。投資家が投資先を選ぶ際に、企業の業績だけでなく、環境や社会の問題にどのような姿勢で取り組んでいるかといった非財務情報を考慮する考え方です。2006年にコフィ・アナン国連事務総長(当時)が「責任投資原則(PRI)」提唱し、まず欧州を中心に広がり、ここ数年は日本でも急速に普及しています。一方、SDGs(持続可能な開発目標)は15年に国連で採択された持続可能な社会を実現するための目標です。2030年までに達成すべき目標として17の大項目と169の小項目が挙げられています。例えば目標14は「海の豊かさを守ろう」。各目標は非常に分かりやすく、社会課題の解決に取り組む際の指針として多くの企業で取り入れられ、投資家をはじめとするステークホルダーに、自社の取り組みを説明するための「共通言語」として活用されています。

―企業に向けて国連が旗振りをはじめたのはなぜでしょう。

田中:アップルやグーグルをはじめとするグローバル企業は、国家予算を越える規模で活動しています。政府機関だけの力では、温暖化や格差問題など地球規模の課題は解決できないと考えた国連は、民間企業の力で社会を良くしようと考えました。企業に行動を変えるよう促す旗印が「PRI」であり、「SDGs」です。

―日本の投資家、企業の認識はどうでしょうか。

田中:日本では、欧米に比べて10年遅れくらいでESGが大切だという認識が広がってきました。日本の年金を運用する世界最大規模の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、ESGへの取り組み度合で投資先を選別するようになったことなどを受けて、ESGに本気で取り組む日本企業が増えています。2018年時点で日本のESG投資は230兆円に達しています。

話題トピックスの海洋汚染対策に乗り出す

―ESGに取り組む企業事例を教えてください。

田中:花王の取り組みに注目しています。最近、プラスチックによる海洋汚染が問題になっていますが、花王はSDGsの概要の12項目「つくる責任、つかう責任」と14項目「海の豊かさを守ろう」に着目し、プラスチックの使用量の削減に取り組んでいます。ごく薄いフィルムで作った詰め替え用パウチをボトルとしてそのまま使える「エアインフィルムボトル」を開発し、商品化を進めています。二重構造のパウチのすきまに空気を入れて自立させられるので、ボトルとして使えるのです。また、詰め替えが面倒という人に向けて、ホルダーに付け替えるだけで使える商品も提案。こうしたパウチが使われた後の取り組みも進めています。神奈川県鎌倉市など全国5つの自治体と共同で使用済みのパウチを回収し、リサイクルして子供用のブロックを製造しています。限られた資源がリサイクルされるまで、責任を持つ姿勢が表れているといえるでしょう。森林破壊や人権問題の観点では、原料の1つであるパーム油について、プランテーションによる森林破壊や児童労働、強制労働のない、健全な環境で作られたものしか使わないようにするため、トレーサビリティーの確保を進めています。

―花王がここまでESGに積極的に取り組めている理由は。

田中:経営者自らの姿勢にあるのではないでしょうか。澤田道隆社長が率先して「ESGで企業価値を高める」と宣言し、事業とESGを一体として進めています。2018年からは、中期経営計画にESGを盛り込みました。社長直轄の「ESG部門」を新設し、米国のグループ会社に在籍していたデイブ・マンツ氏(執行役員)をESG統括に抜擢しました。グローバルな視点でESG経営を進める狙いだそうです。こういったトップが率先する姿勢は、ほかの企業でも見受けられます。日本航空は今年、社長自らがSDGs統括の担当に就きました。業務用チョコレートを製造する不二製油グループでも、今年からCESGO(ESG最高責任者)をおいています。変化の激しい時代の中で、20~50年後の将来に会社がどのように成長していくかは、経営者でなければ決められませんし、投資家に対しても説明できません。

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―SDGsに対する姿勢は、今後より強くなるのでしょうか。

田中:6月に大阪で開かれるG20では、海洋プラスチックごみ削減や長期的な地球温暖化対策が議論されます。日本政府はG20で、海洋プラスチックに対する戦略を温暖化対策の長期ビジョンを発表する予定です。経団連を中心に、大手各社が地球温暖化の長期ビジョンを策定したり、業界ごとのプラスチックごみ削減目標などをつくっています。

次回、企業が取り組むSDGsは、どのように発信していけばよいか。生き残る企業は消費者を味方につけ成長していく――。引き続き田中氏に聞きます。

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