SDGsはオワコンか。前提が揺らぐ時代に求められるビヨンドSDGsの視点

サステナビリティ

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「SDGsは古い」。そんな声を、サステナビリティ施策や統合報告書制作の実務に関わる現場で耳にすることがある。しかし実際には、2027年の国連SDGサミットにおいて「ポストSDGs」の公式議論が本格化すると見込まれ、国内では「ビヨンドSDGs官民会議」が始動している。世界で戦争が起き、協調が揺らぐ今、企業はSDGsをどう捉え、何を発信すべきなのか。官・民・学の実践知を持つ経営コンサルタントで日経BPコンサルティングのシニアコンサルタントでもある笹谷秀光氏のレクチャーを手がかりに、そのヒントをひもとく。

地政学リスク、感染症のパンデミック、分断の進行、戦争。企業経営は、もはや安定した平時を前提に語れる状況ではありません。今、世界情勢の前提が大きく変わっています。このような状況下でも日本人は危機を自分ごととして捉えきれない。私は危機感を抱いています。海外メディアが発信する情報と比較しながら世界の情勢を注視し、緊張感を持ってその変化を認識すべきです。

笹谷秀光氏の写真

株式会社オフィス笹谷・代表取締役経営コンサルタント日経BPコンサルティング シニアコンサルタント千葉商科大学客員教授 博士(政策研究)

笹谷 ささや 秀光 ひでみつ

東京大学法学部卒、1977年農林省入省。農林水産省大臣官房審議官・環境省大臣官房審議官等を経て2008年の退官後、伊藤園にて取締役、常務執行役員、PwC Japan グループ顧問、日本光電工業社外取締役を歴任。2020年千葉商科大学教授。2025年より現職。グレートワークス顧問(現任)。主な著書『ビヨンドSDGsと経営-ウェルビーイングの実現に向けて』(三和書籍・2025年)『競争優位を実現するSDGs経営』(中央経済社・2023年)『Q&A SDGs経営増補改訂最新版』(日本経済新聞出版社・2019年・2022年改訂)。

サステナビリティ経営をしなければ投資されない

国連総会でSDGsが採択された2015年当時も似た状況でした。世界各地でテロが起こり、中東やアフリカからの難民が急増した。日本ではSDGsの採択を翌日の新聞で大きく扱ったのは工業専門誌一紙だけで、SDGsは「知らないうちにできた」「天から降ってきたようなもの」と受け止められていました。

SDGsを機に、約290兆円(2025年度時点)を運用する世界最大級の年金基金GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(責任投資原則)に署名し、ESG投資を推進すると宣言しました。ここでSDGsは初めて事業機会や投資機会と結びつくものと認識されました。企業は「サステナビリティ経営をしなければ投資されない」時代に入った。そこを理解しないまま、今を迎えている企業が多いと感じます。

最近は、「企業のサステナビリティへの取り組みが後退している」「反ESG」と言われるケースもあります。半面、そのイメージの強い米国企業は面従腹背ではあるものの、何も言わずに取り組みを継続する企業も多い。ヨーロッパでは2027年に向けて新しいルール作りが進んでいます。

持続可能性をめぐる主な出来事を示す縦型タイムラインの図。2015年:ESG元年として、コーポレートガバナンス・コード(G)、SDGs採択(E・S・G)、パリ協定(E)が示されている。2023年:G7で日本が議長国となり「国連SDGサミット」が開催されたことが示されている。2026年:ビヨンドSDGs検討元年としている。2027年:ビヨンドSDGs検討開始として、「国連SDGサミット」開催予定の年として示されている。2030年:世界が合意した持続可能な開発目標(SDGs)の達成目標の年次として示され、タイムラインは最下部のラベル「ビヨンドSDGs」に繋がっていく。
出典:笹谷秀光氏の資料を基に作成

SDGsは飾りではない。整理の共通言語

ESG投資が広がる中で、SDGsは「何に取り組む企業なのか」を外部に伝える共通の言語として機能してきました。重要なのは、SDGsを「目標の一覧」として扱うのではなく、自社の課題や価値創造を構造的に整理するフレームとして使い切れるかどうかです。

特に統合報告書では、「財務と非財務」「短期と中長期」「組織戦略と社会課題」といった複雑な要素を同時に語らなければなりません。SDGsという共通の枠組みを土台に、自社の取り組みを網羅的に整理する「規定演技」を果たした上で、自社ならではの価値やストーリーを「自由演技」として描くことが重要です。

実際には、担当部署ごとの取り組みは積み上がっても、全体像が見えない企業が少なくありません。マテリアリティとの対応関係が整理されていない。担当部署やKPIとのひもづけが弱く経営の言葉になっていない。こうした状態は、SDGsのフレームを使い切れていない証拠です。SDGsの対応表をコーポレートサイトの奥深いところに下げてしまっては、取り組みが社内にも社外にも伝わらず、経営の推進力になりません。サステナビリティ経営は、整理して可視化し積極的に開示しなければ動かないものだからです。

2027年には「ビヨンドSDGs」の制度検討が正式にスタートし、2030年以降に向けた議論が世界規模で動き出します。SDGsは「オワコン」どころか、より深く、より広い自由演技へと進化の段階にあります。

SDGsを使えばISO・ISSB・IFRSなどの開示基準も、国連で合意された持続可能性の理念と整合する形で設計されています。193カ国が合意し世界中に周知されたこの枠組みは、サステナビリティ経営において、企業が外せない土台であり続けます。

一度掲げただけで分かったような気になり、定着する前にオワコンと言っていては世界の潮流に置いていかれます。SDGsを基準として、体系的に整理し、重層的に積み上げる必要があります。

ウェルビーイングと3つの力

SDGsの先に見えるのが「ウェルビーイング」の考え方です。早晩、デファクトスタンダードになるでしょう。今OECD(経済協力開発機構)を中心にルールづくりが進んでいる。一過性の概念ではなく、次の国際的な共通軸になると目されるからです。

ウェルビーイングは単純な福利厚生の話ではありません。もともとこの言葉には、身体的な健康、精神的な安定、社会とのつながりといった要素が含まれます。企業ならば、「この会社で働いてよかったと思えるか」「組織として無理をしていないか」という問いに直結します。

ウェルビーイングの実現に向け、これから企業は3つの力を強める必要があります。人の力、コミュニティーの力、企業の創造力です。どこに軸足を置くかは企業ごとに違ってよい。例えば人的リソース中心の企業は人の力に、地方創生に取り組む企業はコミュニティーの力に、ものづくりなら創造力に軸足を置けばよいでしょう。ビヨンドSDGsでは、この総合力が新たな価値、CSV(共通価値の創造)につながると私は考えます。

日本に昔からある「三方よし」の考え方で整理すると分かりやすくなります。「自分よし」「相手よし」「世間よし」をいまの文脈で捉え直したものがSDGsです。SDGsやウェルビーイングを掲げるのが大切なのではありません。自社の経営課題をどう解釈し、経営戦略とどう結びつけ、どう価値創造につなげるのか。それを整理・意味づけして発信できるかが問われています。

最新刊『ビヨンドSDGsと経営 ―ウェルビーイングの実現に向けて―』の書影
最新刊『ビヨンドSDGsと経営 ―ウェルビーイングの実現に向けて―』(笹谷秀光著、三和書籍)SDGs後の時代を見据え、ウェルビーイングを核に企業・地域・人材の三位一体で新たな価値創造を説く実践の書。

岩﨑 千里(日経BPコンサルティング)


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