2026年に創業40年を迎えた東横インの記念誌は、コロナ禍とその後の回復、リブランディングと全国出店の達成など、直近10年間の大きな転換期をどう記録し、どう伝えるのかが問われた。
同社が選んだのは、単なる歴史ではなく“人と意思”を描く記念誌。
社員やホテルオーナーの声、そして第三者視点を取り入れることで、企業の現在地と未来をつなぐ一冊が生まれた。その舞台裏と価値に迫る。
オーナーと共に成長してきた東横イン
東横インの大きな特徴の一つが、「ホテルオーナー」と共に事業を展開するビジネスモデルだ。
同社では、土地の所有者がホテルを建設してホテルオーナーとなり、東横インがそれを借り上げて運営を担う形を取っている。つまり、ホテルオーナーは単なる取引先ではなく、事業そのものを共につくり上げる重要なパートナーだ。
「東横インは、私たちが‘おなじみさん’と呼ぶ常連の方々を中心に多くのお客さまに支えられ、40周年を迎えることができました。そして、ここまで商売ができたのはオーナーさまのおかげです」
そう語るのは、40周年記念誌の制作を担当したマーケティング部の荻久保美紀氏だ。
「オーナーさまへの感謝の場として周年で行う記念式典を大切していますが、35周年の時はコロナ禍で見送った経緯があります」
当時、東横インはホテル稼働の大幅な低下という厳しい局面に直面していた。そのような状況下で、「華やかな式典を行うべきではない」という判断に至ったという。
だからこそ、コロナ禍を乗り越えて迎えた40周年には、これまで以上に特別な意味があった。
株式会社東横イン マーケティング部 主任
荻久保 美紀 氏
「歴史」ではなく、「人と意思のストーリー」を描く
2026年に創業40周年を迎えた東横イン。同社はこの節目に際し、記念式典の開催とともに記念誌を制作した。
30周年以降、同社は大きな転換期を経験している。初のリブランディング、コロナ禍による稼働急落とその後のV字回復、さらに悲願だった47都道府県出店の達成――。まさに“激動の10年”だった。
「この10年間は当社にとって特別な期間でした。だからこそ、単なる歴史の列挙で終わらせられませんでした」(荻久保氏)
その考えは誌面構成にも反映されている。
象徴的なのが、社長と若手社員による座談会企画だ。当初は外部有識者との対談案も検討されていたが、最終的には「感動のおもてなしを紡ぐ東横INNの担い手たち」との対話を選択した。東横インをつくっていくのは社員であり、その声を記念誌に残すことに意味があると考えたからだ。参加した若手社員にとっては、経営トップと直接対話する貴重な機会となった。
さらに、ホテルオーナーへのインタビューも印象的な企画となった。
「これまでオーナーさまと深くお話しする機会は多くありませんでした。今回、生の声に触れることで、本当にオーナーさまに支えられている会社なのだと実感しました」
誌面に収まりきらないほどのエピソードが集まり、「それだけで一冊の本にしたいほどだった」と振り返る。
「いろいろな人が登場することで“血が通った”記念誌になったと感じました」
単なる歴史の整理ではなく、“人の想い”を通じて企業のリアリティーを描く。それが今回の記念誌の大きな特徴となった。
第三者視点と徹底した取材が、記念誌の価値を高める
こうした“人と意思”を描くうえで重要な役割を果たしたのが、第三者である日経BPコンサルティングによる取材だった。
「記念誌を社内でまとめると、どうしても内向きの表現になりがちです。第三者に取材・執筆していただくことで、客観性と信頼性が担保されました」(荻久保氏)
誌面には日経BPコンサルティングによる取材であることを明示。
さらに制作に入る前に、経営層や関係者へのキーパーソンヒアリングを実施している。
「正直、最初はここまで必要なのかと思いましたが、結果的には非常に重要でした」
キーパーソンに、会社の全体像や運営にかける思い、会社の変遷に隠された背景など、これまで発信されることのなかった情報を含めてヒアリングすることで、記事の深みが格段に増した。単なる情報整理ではなく、「企業を理解したうえで書く」という編集姿勢が、最終的なクオリティーを高めた。
記念誌制作は、企業理解を深めるプロセスでもある
今回のプロジェクトは、完成した記念誌そのものだけでなく、制作プロセスにも大きな価値があった。
「インタビューや原稿のやり取りを通じて、経営陣が何を考えているのかに深く触れることができました」(荻久保氏)
細かなニュアンスのすり合わせを重ねる中で、企業の意思や価値観を体感的に理解していく。
記念誌制作は単なる制作業務ではなく、企業を深く理解し、自分ごと化していくプロセスでもある。
記念誌は「賞味期限のない資産」として残り続ける
完成した記念誌は、式典での配布にとどまらず、営業ツールや一部はWebコンテンツとしても活用されている。
「記念誌は賞味期限のない制作物です。時間がたっても価値が失われることはなく、会社の情報資産として残り続けます」(荻久保氏)
ほかの制作物とは異なり、長期的に価値を持ち続ける点が大きな特徴だ。
「自分が関わったものが将来にわたって活用される。それはとても責任のある仕事であり、やりがいでもありました」
さらに、次の世代への意識も生まれたという。
「今回、自分自身が過去資料の整理に苦労したからこそ、次に周年誌を担当する人のために、取材データや歴史資料をきちんと整理して残しておく重要性を強く感じました」
周年事業は短期的な成果を求める施策ではない。しかし、そのプロセスは企業の本質と向き合う機会となる。
「大変な仕事ではありますが、その分、自社を深く理解できる機会でもあります。これから記念誌を担当される方には前向きに取り組んでほしいと思います」
東横インの40周年記念誌は、人の声、第三者視点、そして編集力を掛け合わせることで、企業の現在地と未来をつなぐ“意味ある一冊”となった。
滝澤 嘉一(日経BPコンサルティング)
脇山 誠司(日経BPコンサルティング)
株式会社東横イン
https://www.toyoko-inn.co.jp/総客室数は8万室を突破、全国47都道府県に展開する国内最大級のビジネスホテルチェーン。「全国ネットワークの基地ホテル」をブランドコンセプトに掲げ、ビジネス、観光、イベントなど、あらゆる人の移動を応援している。「原則ワンプライス」、「アクセスNo.1」「おもてなし力」で安心・安定の宿泊を提供。近年は海外展開にも注力し、100年企業を見据えた成長を続けている。
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