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周年事業セミナーレポート「周年事業セミナー」(6)

JTBコミュニケーションデザイン主催「ニューノーマル時代の周年事業」が開催

  • 文=脇山 誠司
  • 2021年05月10日
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JTBコミュニケーションデザイン主催「ニューノーマル時代の周年事業」が開催

2021年4月14日、JTBコミュニケーションデザイン主催で周年事業オンラインセミナー~ニューノーマル時代の周年事業~が開催された。セミナーは3部構成となっており、第1部は周年事業の課題について周年事業ラボ所長の雨宮健人が講演。第2部は周年事業の準備と施策、事例についてJTBコミュニケーションデザインの塩谷久美子氏が、第3部は周年事業のニューノーマルコンテンツについてギネスワールドレコーズジャパンの矢崎正道氏が登壇した。以下、周年事業ラボの講演内容について掲載する。

長生き企業はリスクへの対応が迅速

―100周年を迎えるような長生きな企業になるために有益なデータ・情報。

雨宮:日本の企業が長生きとよく言われますが本当だと思いますか? 実は今まで明確なエビデンスが存在しませんでした。そこで世界に対して周年事業ラボで先般、調査を行ったところ、創業100年以上の日本企業は3万3000社を超え世界の41%、創業200年以上に至っては1340社65%という定量的な結果が出ました。日本企業が長生きであることが数字的に明らかにされたんですね。

別の調査結果では、周年事業ラボでビジネスパーソンを対象に、業務への影響と課題、対応を尋ねました。その結果この非常事態、いわゆるリスクに対して、創業年数の長い企業がいち早く取り組みを進めている様子が見えてきています。

特に現在、コロナの感染拡大という社会情勢の変化が起きている状況で、新商品・サービス提供や、既存商品サービスの拡充・増産といった対応計画について、100年以上の企業は実施・計画中が他の層に20ポイント近く差をつけて40%を超え、外部環境変化への対応の早さがうかがえます。

外部環境変化への対応計画状況(社会情勢の変化をきっかけにした新商品・サービス提供や、既存商品・サービスの拡充・増産)
【外部環境変化への対応計画状況】(社会情勢の変化をきっかけにした新商品・サービス提供や、既存商品・サービスの拡充・増産)

―企業や組織は周年事業をきっかけに新しいことをしたり、形を変えたりする。なぜ企業が周年事業を大切にしているのか。

雨宮:もともと株式会社はつぶすためにできたんです。世界初の会社といわれるオランダ東インド会社は、船が沈没してもその損害を出資者で分け合ってリスクヘッジできるようにしたのがはじまりです。無事に船が帰ってこないとリターンがなくなっちゃいますから、船の強度を上げたり、座礁しにくいルートを調べたり、そういった企業努力を必死にやっていたはずなんです。努力をしているところは沈没せずに、事業を長く続けられる可能性は高くなりますよね。もちろん続くのは船が壊れなかった以外にも、みんなが喜ぶ有意義なことをして、また次の船を出してくれという需要が出てこないといけません。例えば10年続いた、20年続いた、100年続いたのは社会に必要とされたという証になるわけです。

皆さんのおかげで長く続いて節目を迎えて、なおかつもっと長く続けられるようにこれまでしてきた企業努力を発信し理解してもらい、さらに喜んでもらえるようにしようというのが「周年」なんだと思います。特にここ10年くらいで、デジタルの普及や産業構造の変化が進み、ちゃんと身のあることをしていかないともったいない、過去よりもこれからに生かせるものにしていかないと無駄だという風潮が強くなり、周年事業を単なるお祭りではなく事業プロセスに組み込む流れが加速してきたように思います。

知見がたまりにくい、プロジェクトが長期なゆえに生じる課題

―企業や学校法人の周年事業に関する課題は。

雨宮:一般的な課題といえばとにもかくにも、企業に知見がたまりにくいので、どうすればいいのか分からないというのがまずあると思います。どんな業務やプロジェクトでも、失敗はあるし、それを糧にして改善し繰り返すことで知見がたまりますよね。周年はせいぜい10年に一度とかなので、まず同じ人が担当するケースはまれ。同じ人がやったとしても10年たてば、もっといいやり方が生まれますからね。次にまた周年事業をやるといっても、それが10年も先だと企業では必ず「単発案件」になります。継続案件じゃなければやり方を記録しておこうとか、次の人のために何かしておこうなんて普通は思わないでしょう。

もう1つは周年事業はブランディングが絡んだり、資料を発掘するところから始めなくてはならなかったりして、プロジェクトが1年2年は当たり前という「長期案件」なんです。そうすると進めている最中に、部門が変わったり社長の考えが変わったりなんてことがよくあるんです。だから長いプロジェクトになればなるほどしっかりと戦略を立てて、ロードマップをつくってスタートしていかないといけません。

あと、誰が何をやるのか役割分担が明確でないと、ある部分がずっと塩漬けされたままになってしまうケースもよくあります。たいていの場合、責任の所在があいまいなことが原因になって起こります。

より重要になった“戦略性”

―ニューノーマル時代に突入した今、新しい周年事業の課題は。

雨宮:一番顕著に感じるのはリアルイベント、特にお客さんを呼んで何かをするプロジェクトの激減です。これは周年事業にかかわらず、世の中全体がこういう状況になっていますから、いたしかたないところでしょう。

オンラインになれば物理的な制限が原則なくなりますから、地方や海外に拠点があるところは逆にそれを利用して、参加のハードルを低くして動画を流してブランディング施策を実施したり、少し派生させたり発展させたりして、従来イベントが持つ「親睦を深める」目的とは別の目的に変えるケースが見られます。

あとはイベントは中止して、その代わりコンパクトな冊子を制作してお客さんに郵送する手段を選択されるケース、そのほかには郵送はせずに顧客訪問をする際に渡せるものをつくって、継続的に活用するケースもあります。

こういった事例から分析できるのは、自分都合ではなくてリーチする相手のニーズに、これまで以上に柔軟かつ的確に寄り添って設計しないと、効果が出にくくなってきている点です。社員にせよ社外の取引先にせよ、ターゲット設定をしたうえでアウトプットの中身とリーチの手段を考えるプロセスが、これまで以上に重要かつ高度化しています。ほぼマーケティング戦略に近いと思います。

もう1つ、大きな変化を感じるのはデジタルアーカイブ需要の増加です。周年事業のこれまでの柱は社史でしたが、これと同時に資料をデジタル化してイントラに格納する企業が増えています。これは会社に行かなくても、あるいは分厚い本やファイルをめくらなくても、目的のものにたどり着ける仕組みをつくる施策といえます。デジタルでアーカイブしてしまえば、今後の業務にも活用できます。DXの一環と位置づけられるでしょう。

―周年事業担当者へのメッセージとまとめ。

雨宮:コロナで働き方が大きく変わりましたよね。新しい生活様式で消費者の意識が変わって、あらゆる事業領域でブランドの再定義を迫られていると思います。働き方も変わりました。オフィスのスペースも縮小されたところも多いんじゃないでしょうか。社内外を問わずターゲットへの導線が複雑化して、つくるだけつくっても届かないということになりかねない。リーチの仕方をこれまで以上に考える必要性が出てきました。今までは「前回これをやったから今回もこれをやる」「担当になっちゃったからなんとか乗り切ろう」……などと「つくる」をメインにされていたかと思います。今は、「つたえる」ところまで考えなくてはならなくなったわけです。

そういった「つくる」「つたえる」の前に、設定した目的に対してターゲットをセグメントして何をどう届けるか、きちんと戦略を立てる「きめる」というフェーズ、さらにきめるために、現状がどうなっているかをしらべていくフェーズを周年事業では入れてください。この、「しらべる」「きめる」「つくる」「つたえる」という4つのフローを、焦って省略せず、きちんと実施して周年事業を成功へ導いていただければと思います。

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  • 2021年05月10日
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