ブランド・ジャパン活用事例

データドリブンの議論にブランド・ジャパンの調査は必須

  • 石原 和仁

    ブランド・ジャパン プロジェクトマネージャー石原 和仁

「Amazon」はブランド・ジャパン調査でも必ず上位に入る認知度の高いブランドだ。アマゾンジャパンは2020年にブランド・ジャパンのStandardバージョンと報告会パッケージを活用し、現在のブランドに対する消費者の認知状況を分析、自社ブランディングとのギャップなどを調べた。アマゾンジャパン パブリック・リレーションズ本部の金子みどり氏にブランド・ジャパン調査を活用した背景や狙い、成果などについて聞いた。
アマゾンジャパン合同会社
パブリック・リレーションズ本部 本部長 金子 みどり氏

聞き手・文=石原 和仁

2020年度にブランド・ジャパン(以下BJ)のStandardバージョンと報告会パッケージをご利用いただきました。これまで、この調査を活用されたお客様は社名変更など大きな変化があった前後のブランド認知状況をチェックしたいといった動機がありますが、御社にも何か変化があったのでしょうか。

金子 特に何か変化があったわけではありません。私の統括しているパブリック・リレーションズ本部では、以前からBJは大事な指標の1つとして参考にさせていただいています。そうした中、昨年アマゾンジャパンが20周年を迎えたこともあり、これを機にもう少し深掘りして分析したいと考えました。BJはデータの信頼性だけでなく、企画委員長の阿久津(聡)先生(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)をはじめ、御社のコンサルタントの皆さんなど20年にわたる知見を持った方々の価値も大きいと思います。阿久津先生とはネスレ時代に広告やブランディングを手掛けていた時からのお付き合いで、アメリカの先行したブランディング事例やノウハウを客観的に研究され、日本に合った形に変えて日本企業のために活用していらっしゃることを存じ上げています。阿久津先生が立上げの時からBJの委員長を務めていることも信頼の理由です。今回、Amazonに対しても綿密な聞き取り調査していただき、深い理解の下でご提案いただいたので、その内容に説得力があったと思います。

おっしゃるとおり阿久津教授は企業ブランディングの研究では世界的な権威です。先日、行われた御社の調査結果報告会まで約2ヶ月ほど分析のためのディスカッションを行いましたが、そこにも阿久津教授に参加していただきました。分析結果とお感じになっていたことに何かギャップはありましたか。

金子 ギャップはありませんでした。Amazon自体の調査もありますし、分析結果の多くはもともと分かっていたことでサプライズはありませんが、異なる観点でデータの裏付けがほしかったのです。創業者のジェフ・ベゾスは毎年、株主に書簡を送っていますが、1997年の書簡をいつも付けています。その中で、「短期的な株価に一喜一憂しない」と宣言しています。まるで一昔前の日本企業のようですが、そもそも経営の考え方が短期的な利益にとらわれない長期的思考なのです。それと同じように、ブランドについても年度ごとの上がり下がりを見ていません。

社内でAmazonのブランドのあり方についていろいろな議論をしていますが、その中で「ヒューマナイズAmazon」を強調していこうと以前から話し合っていました。オンラインということもあり、なかなか顔が見えない。しかし実際には日本にも8,500人の社員がおり、物流拠点も全国に21か所あります。なので、人の顔が見えるブランディングが大切ですね。その必要性が改めてBJのデータで裏打ちされたことに意味があるのです。

当社の議論はデータドリブンで、充分なエビデンスがない感情論のぶつけ合いをしません。とはいえ、データ自体が回答ではない。しっかりとした議論を重ねる社風で、会議でもデータをみんなで読み取り、どんなアクションを取るべきか、徹底的に話し合います。その点、データドリブンであると同時に人間味のあるカルチャーなのです。

先日の報告会は確かなデータの裏打ちがあり、知見を持った皆さんの分析や提案に、参加した社長(ジャスパー・チャン氏)や関係部門のトップたちも納得して聴いていたと思います。BJは1500ものブランドに対して6万人以上もの調査対象がおり、それらをベンチマークとすることでAmazonのポジションがよく分かります。また、調査項目が理論的に組み立てられていることも大きな価値です。普段、私たちが考えていることを実証できたのはBJのおかげです。

ありがとうございます。BJは国内最大級のブランド価値評価調査というだけではなく、53業種と多岐にわたっているので、他社はもちろん、異業種との比較にも有効です。過去、いろいろな外資系ブランドの報告会を開いてきましたが、今回はオンラインでつないで、通訳を介して、様々なバックグランドをお持ちの皆さんが参加していただいたのはまさに御社のカルチャーですね。

金子 アマゾンジャパン全体では50の国や地域からなる8,500人の社員がいるので、会議の多くも英語と日本語を使いながらやりとりしています。

また当社はBtoCの会社と思われがちですが、BtoB事業の成長率も高い。クラウドサービスのAWS(アマゾン ウェブ サービス)やAmazonビジネスなどもあります。これまでBtoBのブランディングにはそこまで注力してきませんでしたが、ビジネス・パーソンは消費者でもあり、BtoBもBtoCも区別していません。ブランディングも両方を同時に見て、私たちが向かっている方向性に対してギャップがあれば、それを埋めていくために社員1人ひとりがブランド・アンバサダーとして考え行動しなければなりません。

チャン社長からも報告会の後、「このままで終わらせずに、次のアクションにつなげてほしい」というコメントがありました。

報告会で驚いたのは、いろいろな部門の皆さんが同じマインドで話されていることでした。やはり、考え方が共通しているからですか。

金子 Amazonには世界共通で「Leadership Principles」という14項目からなる信条があり、一般社員もマネジャーも全員がリーダーだという考え方の下で行動しています。いろいろな国や地域から様々な考え方を持った社員が集まっているので、みなが同じアマゾニアンであるための世界共通の行動指針です。

もちろん、14項目すべてを実践できる人などいないので、1人の社員に対して毎年、多くの関係者が評価し、本人にフィードバックします。社内での評価は、業績や数字よりも、行動指針を最も重要な基準として位置付けています。

ブランディングに対して現在、課題として取り組んでいらっしゃることは何ですか。

金子 先ほど申し上げたように人間味あるAmazonという会社の実態をしっかり伝えていくことです。数年前までは、コーポレートコミュニケーションを積極的に行なっていませんでした。それは、語ることがお客様のプラスにならないし、サービスを向上させるわけでもないと考えていたからです。

ベゾスはかつて、レストランの紙ナプキンにAmazonのビジネスモデルを書きました。そこで言いたかったことを要約すると、豊かな品揃えとお求めやすい価格、そして利便性を追求し続けるということです。そのことをAmazonはひたすら追求し、サービスを進化させてきました。その結果、「便利だけどAmazonには人がいるの?」と思う人も出てきたのです。

25年の歴史を経て、社会的にも大きな影響力を持つようになりました。そうなると、どんな人がどんな哲学や行動指針を持って働いているのか、そして「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」という世界共通のミッションをもっときちんと伝えないといけないと考えるようになり、この数年、強化してきました。

同時に次世代に向けた人材育成やSTEM教育(STEMはScience, Technology, Engineering and Mathematicsの略。科学・技術・工学・数学の教育分野の総称)に加え、Amazonの「ほしい物リスト」の機能を活用した、自治体・非営利団体への支援活動も広く展開しています金銭的な寄付をするというより、Amazonのテクノロジーや仕組みを使って、社会に貢献することを心がけています。いわゆる持続可能な「CSV(Creating Shared Value)」活動です。

御社がデジタル化へ日本社会を牽引してくれることを期待しています。

金子 日本のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を促進していくことに貢献していくことも私たちの目標です。そのために、Amazonのテクノロジーやサービスをより広く活用していただければと思いますし、Amazonだけではない、様々なセクターそして中小企業を含む組織のDX化が進めば日本全体のちからになっていくと思います。ただし、デジタル化そのものに価値があるわけではなく、Eコマースのみならず、医療や教育そして人々の日々の生活がより豊かになっていくことが大切です。また、オンラインとオフラインの融合で生活者の選択肢が増えていくでしょう。そのために、私たちは実店舗のオンライン化なども支援させていただいております。

今後もお客様のために熱い議論を日々行い、常にイノベーションを生み出し、その人間的な営みを皆さんに伝えていければと思います。

Amazon

関連リンク

ブランド・ジャパン活用事例

アマゾンジャパン合同会社
パブリック・リレーションズ本部 本部長
金子 みどり氏

日本で生まれ育ち、16歳の時に単身で渡米。州立ミシガン大学を卒業後帰国。25年余、グローバル企業におけるコミュニケーション分野でキャリアを積む。オグルヴィ(広告)、ネスレ(飲料・食品)、シティバンク(金融)、GE(医療・コングロマリット)そして現在のAmazonと業界は多岐にわたる。
2002年からは米国ペンシルバニア州立テンプル大学日本校の理事に就任し、2009年からは理事会会長を務めている。

※肩書きは記事公開時点のものです。

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 コンサルタント
石原 和仁

大学ではバイオテクノロジーを専攻。卒業後は、飲料メーカー、リサーチ会社、マーケティング会社を経て、日経BPコンサルティングに入社。2015年より日本最大のブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」のプロジェクトマネージャーを担当。様々な企業のブランディング業務(調査、体系づくり、PDCA設計、ブランドメッセージ制作など)に従事。

 

※このプロフィールは、掲載時点のものです。最新のものとは異なる場合があります。

日経BPコンサルティング通信

配信リストへの登録(無料)

日経BPコンサルティングが編集・発行している月2回刊(毎月第2週、第4週)の無料メールマガジンです。企業・団体のコミュニケーション戦略に関わる方々へ向け、新規オープンしたCCL. とも連動して、当社独自の取材記事や調査データをいち早くお届けします。

メルマガ配信お申し込みフォーム

まずはご相談ください

日経BPグループの知見を備えたスペシャリストが
企業広報とマーケティングの課題を解決します。

お問い合わせはこちら