サバイバル分析伝えるメッセージが決まらない、素材がない
そんな周年動画制作を完成に導く
- 文=菅原 研
- 2020年01月28日
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YouTubeやSNSの普及で、企業がメッセージを伝える動画を活用する機会が増えました。周年事業の一環として動画制作を検討する企業もあるでしょう。とはいえ、実際に動画制作の経験がある企業はまだまだ少なく、担当者は悩むことも多いでしょう。そこで、映像制作のプロにポイントを聞きました。
動画を見るメディアが増えた。企業VPも増加傾向
従来、企業が動画を利用してメッセージを伝える手段は、テレビCMや展示会など非常に限られたものでした。近年それが大きく変わりました。東京・新宿にあるHAC STUDIOの営業マネジャー稲葉和秀さんは、企業ビデオ・パッケージ、略して「企業VP」と呼ばれる動画制作の近年の動向について、次のように話します。
「企業VPの制作目的そのものに大きな変化はありません。長さや予算などの規模こそさまざまですが、内容は企業や商品のプロモーション、採用、社内研修などです。一方、制作本数そのものは増えています。YouTubeやTwitter、FacebookのようなSNSの普及で動画を見るメディアが増え、誰もがスマートフォンを持つようになったからです」
1989年に設立されたHAC STUDIOは、レジャー・サービス業を幅広く展開するヒューマックスグループの総合映像プロダクション。地上波やBS、CSで放送されるドラマやCM、アーティストのライブ映像やMVなど、幅広い制作実績があります。中でも「ポストプロダクション」と呼ばれる工程での技術やノウハウは高く評価され、アーティストのライブ映像制作では制作会社が変わっても「ポストプロダクションはHAC STUDIOに」と指名されるケースもあるほどです。
動画制作の工程は、撮影の前に行うプリプロダクション(プリプロ)、後に行うポストプロダクション(ポスプロ)の大きく2つに分けられます。プリプロは企画を決める作業で、動画の目的や対象の決定、盛り込む内容をまとめた構成台本、構図や動きを指示する絵コンテの制作、俳優やナレーターのキャスティングが含まれます。ポスプロは素材を作品に仕上げる作業です。映像を順番通りつなぐ映像編集、ナレーションや効果音を入れる音声編集などがあります。タイトルやテロップを入れる作業や、映像の合成もポスプロでの一部です。この大きな流れは、動画の規模や目的が違っても基本的に同じです。
「どこで」「だれに」「なにを」がメッセージを決める
周年事業の一環として動画を制作する企業も増えています。HAC STUDIOでも周年の案件に携わり、企業が困るポイントも見えてきたそうです。なかでも顕著なのが、伝えるメッセージを決まらないことと、映像素材の不足です。
伝えるメッセージとは、「どこで」「だれに」「なにを伝えるか」の3つの組み合わせで決まります。企業VPの制作では、1つでも変わればすべてに影響が及びます。ですからこの3つをしっかり固めるべきだとHAC STUDIOでプロデューサーを務める若山佑介さんは話します。
「例えば、新年の社内イベントで、社員に向けて、グループのこれまでの歩みと目指す先を伝えるとします。これが仮に周年記念サイトで社外の人にも見てもらう動画だったとしたら、長さ、構成、ナレーション、BGM、効果音すべてが変わってきます。伝えるメッセージは、ブレないようにプリプロの段階でしっかり固めておくべきです」
プリプロでは、構成台本の作成も重要な工程だと若山さんはいいます。構成台本とは、どんなシーンを、どのくらいの長さで、どんな順番で、どんな台詞やナレーションと一緒に入れるかを一覧にしたものです。
「構成台本を読めば、動画全体の構成が分かります。作る際には、動画の長さや撮影の可否、素材の有無、予算などは気にせず、見せたい要素、伝えたい要素をすべて盛り込みます。いわば『メッセージの棚卸し』です」
最終的に10分弱にまとめる動画も、構成台本の段階では40分程度の長さになることもあるそうです。
「構成台本を基に、想定する長さや、撮影、制作、収集できる映像素材に応じて、構成台本の内容を調整します。伝えたいことに優先順位を付けて絞り込むと、伝えたいメッセージがより鮮明になります」
伝えるメッセージを構成する「なにを伝えるか」を決めかねている、あるいは明確ではない場合でも、構成台本を作成する過程で固まっていくといいます。
映像素材の不足は、アイデアと技術次第で解決できる
周年事業での動画制作では、映像素材の不足も課題になりがちです。歴史の長い企業では、創業当時の映像どころか写真すらない状況も想定されます。テレビCMや新聞・雑誌広告を制作する機会が多い企業なら、そうしたものが素材になります。製造業でも製品写真やカタログなどが利用できます。一方、そうしたものを制作する機会が少ないBtoBやサービス業の企業では、素材不足が課題になるでしょう。
素材が少ないからといって諦める必要はありません。手元にある素材が少なくても、ポストプロダクションでのアイデアや技術次第で実現できることは多いと若山さんはいいます。
「例えば、当時の街並みを残したアーカイブ映像や報道写真なども、ナレーション原稿を工夫したり、BGMと組み合わせたり、動きを付けたりすれば、効果的な演出ができます。予算やスケジュール次第ですが、再現ドラマの撮影、CGやアニメーションの制作も可能です」
会社案内や社内報は多くの企業が制作しているでしょう。それらが少しでも残っていれば、素材になります。部署や個人が写真や資料を残している場合も多く、社内やOB・OGへ素材提供を呼びかければ素材が集まることもあります。
「古い会社案内のモノクロ写真を加工して、色を付けたり動かしたりできます。歴史博物館から写真の利用許諾をもらい、CGと組み合わせたシーンにしたこともあります。素材はないよりあった方がいい。ですが、素材はあくまで素材。大切なのは、素材をどこでどう使えば最も効果的にメッセージが伝わるかというアイデアと技術です」
そう話す若山さんに続けて、そのアイデアと技術を上手に取り込むためにも、まずは実績豊富な映像のプロに相談してほしいと稲葉さんは話します。
「社内のメンバーだけでずっと打ち合わせを重ねても、なかなか新しいアイデアは浮かびません。仮にいいアイデアが浮かんでも、それが実現可能かの判断が難しい。そういうときこそが、プロの腕の見せどころです。打ち合わせ時に第三者の視点からアイデアを出すと、思いがけない方向性が見つかることがよくあります」
スムーズな進行にはイメージの共有と確認フローを
プロが持つアイデアや技術を最大限活用するためには、クライアントと制作サイドとの「完成イメージの共有」が不可欠だと若山さんは話します。
「特に企業VPの制作中には、多くの案件でその企業から『ここをもうちょっとこうしてほしい』という意見が出ます。内容は映像の色合い、BGMやナレーションのイメージ、ナレーションやテロップの原稿など多岐にわたります。こうした修正作業をできるだけ減らすには、クライアントサイドと制作サイドが緊密にコミュニケーションを取り、完成イメージを共有し続ける必要があるのです」
HAC STUDIOでは、案件の特性に合わせて参考になる既存の動画を見てもらったり、仮編集段階の映像を確認してもらったりして、手戻りが減る工夫をしています。それでも「ここをもうちょっと」がなくなりません。やはり、実際に動く映像を見て初めて自分のイメージとの差に気づく人が多いということでしょう。
スムーズに動画制作を進めるためにもう1つ重要なのが、社内での確認フローの確立だと稲葉さんは続けます。
「企業VPの場合、制作スタッフと一緒に作業するクライアント側の担当者だけではすべては決まりません。必ず社内確認の工程が入ります。制作開始から完成までの、どの工程で、社内の誰に確認や承認を取りながら進めるのか。それを事前に決めておくことが、制作をスムーズに進める大切なポイントです」
周年事業では、プロジェクト同士の横連携も必須です。周年記念誌の発行や周年サイトの公開、周年イベントの開催など、動画制作だけでプロジェクトが完結しない場合もあります。横の連携が不十分なままプロジェクトが進むと、完成したものから伝わるメッセージがバラバラという事態にもなりかねません。
YouTubeやSNSの普及で、企業がメッセージを伝える動画を活用する機会が増えました。これは同時に、一定以上のクオリティのものを制作しなければ、その他大勢のなかに埋没することを意味します。周年事業の一環として動画制作を検討する場合、企業は時間と予算を使います。動画の撮影や編集が簡単にできる機材やソリューションは増えています。だからといって内製化しても、見かけの費用はかからなくても人件費等のリソースは割かれます。技術やノウハウがないまま制作して、メッセージが伝わらないものしか完成しないのはもったいないことです。
若山さんは、動画を制作するからには見た人に『伝わるもの』であるべきだというのが、映像制作に携わる者としての思いだといいます。そのためのアイデア、技術、ノウハウを持つプロの力はぜひ活用すべきではないでしょうか。
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