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企業研究ご長寿企業を支えるロングセラーヒット商品のひみつ(3)

1往復半のコミュニケーションがファンを作る

  • マーケティング戦略研究所 渡辺和博上席研究員
    聞き手=内野侑美/文=河村裕介
  • 2018年03月19日
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1往復半のコミュニケーションがファンを作る

老舗企業のプロモーションや商品デザインが注目を集めている――。ターゲットの気持ちにどれだけ寄り添えるか、それがロングセラーやヒット商品づくりのキーになってきた。今回も、日経トレンディとともに30年、売れる商品とその背後にある消費マインドについて考察を続けてきた日経BP総研 マーケティング戦略研究所の渡辺和博氏に、「一往復半のコミュニケーション」について聞いた。

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その昔、日経トレンディネットでキャッチをツイッターで募集して数週間だけ変更するキャンペーンも実施したと振り返る渡辺さん。

「ネット民」とのコミュニケーションがうまい日清食品

――ネット上で日清食品の「カレーメシ」や「10分どん兵衛」が話題になっている記事を見かけます。

渡辺:カレーメシは、昨年12月の日経トレンディ「ヒット商品ベスト30」の29位にランクインしています。カレーメシのCMでは、「メンよりメシだ」というキャッチフレーズで、看板商品のカップヌードルが爆発してしまいます。普通のメーカーではあり得ない表現ですが、日清食品はそういったタブーに挑戦するとネット民が楽しんでくれることを知っているのです。
「10分どん兵衛」のコミュニケーションも秀逸でした。お湯を入れて5分で食べられるカップ麺どん兵衛ですが、10分待って食べると旨いということが話題になると、「日清食品は10分どん兵衛のことを知りませんでした」と、お詫びを出しました。本来とは違う食べ方を認めただけでなく、メーカーはあなたたちの意見を尊重しますという発信をしたのです。老舗企業ではありますが、ターゲットの若者の気持ちを、よく分かっていると思います。

コミュニケーションが、ターゲットを「当事者」にさせてしまう

――こういったコミュニケーションが販売促進につながるのはなぜでしょうか。

渡辺:私は、ネットをプロモーションに活用するコツは、ネット民たちと「一往復半のコミュニケーション」が取れることだと考えています。ネットは情報発信の道具であり、多くの人にローコストで接触できることがメリットであると考えるならば、一方通行にしかなりません。ところが情報の受け手は生きた人間ですから、メーカーの投げ掛けに対して、何かを投げ返したくなる。そうすると、コミュニケーションは一往復します。さらに、その投げかけに対して、メーカーが態度を変えて何かを投げ返す、そうすると受け手はものすごく喜ぶのです。無名の民である自分たちが有名メーカーを動かせるのだ、ということで完全にものづくりの当事者になってしまうのです。

ターゲットに寄り添うデザインとストーリーがヒットしたチョコレート

――インスタ映えするということで売れている商品もありますね。

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meiji THE chocolateの王道2種、コンフォートビター(左)とベルベットミルク(右)。 インスタグラムで#meijithechocolateと検索すると、パッケージに絵を書いたり、アクセサリーを作ったりと、消費者がアレンジした作品が並ぶ。

渡辺:meiji THE Chocolateも老舗ブランドの商品ですが、おしゃれな小箱に入れたことでインスタ映えするようになり、パッケージを栞などに再利用している人もいるようです。以前は、カカオ◯パーセントという機能を売りにしていましたが、それは「健康に良いので受け入れなさい」というメーカー側の押し付けに過ぎません。チョコレートの購買層は女性であることを起点に、会社のデスクに置いてもおしゃれなデザインを開発するなど、お客様に寄り添ったのがヒットの要因だと考えています。

――多くの人々に受け入れられるブランドや商品に求められることは何でしょう。

渡辺:meiji THE Chocolateは、商品を購入することが、カカオ農家への間接的な支援になるという仕組みを作り、グッドデザイン賞を受賞しています。単にコストパフォーマンスではない、エシカルなものが評価されているのです。生活者は、自分の行動がサステナブルな社会につながるというストーリーを重視するようになっています。企業が生活者の気持ちに寄り添い、一緒に社会を変えていく時代になってきたと言えるでしょう。

プロフィール

渡辺和博

1986年筑波大学大学院理工学修士課程修了。同年、日本経済新聞社入社。日経パソコン、日経ビジネス、日経トレンディなどIT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の商工会議所等で地域振興や名産品開発の講演・コンサルを実施。

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