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企業研究ご長寿企業を支えるロングセラーヒット商品のひみつ(1)

ヒットを牽引するのは誰か

  • マーケティング戦略研究所 渡辺和博上席研究員
    聞き手=内野侑美/文=河村裕介
  • 2017年12月04日
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ヒットを牽引するのは誰か

高度経済成長期の三種の神器にはじまり、ヒット商品は世の中の動きに連れて変遷してきた。長生き企業が投げかけた商品が、新たに登場した消費者に歓迎されている例もある。長寿企業を支える商品が売れるヒントはどこに隠れているのか。ヒット商品のトレンドをもとに、売れる商品とその背後にある消費マインドについて考察を続けてきた日経BP総研 マーケティング戦略研究所の渡辺和博氏に、ヒット商品とそれを牽引するクラスターについて聞いた。

現在は地方創生講演会等を多く手がける渡辺さん。
現在は地方創生講演会等を多く手がける渡辺さん。

ヒットは商品(モノ)から現象(コト)へ。みんなに共通のヒットはなくなっている

― まず、ヒット商品が売れる傾向についてお聞きしたいと思います。最近では、どのような人がヒット商品を買っているのでしょうか。

渡辺:美容や健康をサポートする食品をはじめ、子育てファミリーの時短を支援する商品、特別なシーンで選ばれるアイテムなど、最近のヒットは女性が牽引しています。その中で、どのような商品が選ばれているかというと、モノの選択肢は豊富にありますから、コトが求められるようになってきました。コトとは、これは私にとって特別なものであるという理由、喜び、感謝、エモーショナルなつながりです。また、普段は軽く立ち食いそばで済ませてしまうような若い女性でも、京都に行くと老舗そば屋に立ち寄るというように、シーンによって選ばれるものも異なってきます。

30〜40代女性、団塊ジュニア、団塊の世代が大きなクラスター

― 最近の女性は、「アガる」や「自分へのご褒美」がキーワードになっているようです。

渡辺:ヒット商品の裏側には常に女性が関わっていると思っています。まずそのクラスターのひとつは、30代〜40代の女性です。「おひとりさま」の場合は、可処分所得も増えていますし、男女不平等な環境で仕事をしてきた世代ですから、気持ちを「アゲる」ための消費も重要です。また、結婚して子どもができると、子どもと一緒の体験や、安心・安全を大切にした商品を求めるようになります。二つめのクラスターは、その上の世代となる団塊ジュニアです。この世代は1学年が200万人と人口が多く、競争好きなので、写真などの情報発信で「幸せ自慢」をするなど、体験を重視したコンテンツ系の行動を活発に行う傾向があります。三つ目のクラスターは、70代前後の団塊の世代があげられます。今までも、この世代は1学年220万人という巨大なクラスターで、さまざまなヒット商品を生み出してきました。

注目クラスターに新たなニーズが生まれている

― 老舗企業が新たに生み出したヒット商品について教えてください。

高知県の酔鯨酒造の「純米吟醸 高育54号」(右)「特別純米酒」(左)
高知県の酔鯨酒造の「純米吟醸 高育54号」(右)「特別純米酒」(左)。「SUIGEI」と表記し、女性にも受け入れやすい印象に。また、インバウンド需要も好調だという。

渡辺:ひとつには、日本酒があげられます。1970年代から日本酒の酒蔵は減少の一途をたどっていました。しかしここに来て、新たな市場開拓で息を吹き返している会社が増えてきています。高知の酔鯨酒造は社長の代替わりとともに、女性へ向けたクルーズ船のパーティを開催するなど、女子飲みの普及拡大にも取り組み、30代〜40代の女性向けのブランディングに成功しました。

もう一つの例として、秋田藩の御典医をルーツとする龍角散の「らくらく服用ゼリー」があげられます。これは、たくさんの薬でも、喉に引っかからないで楽に飲めるゼリーです。高齢化とともに、ニーズの多い世代が増えてきたことをチャンスとしています。従来も、龍角散では、医薬用の液体オブラートを提供していましたが、それを一般向けに売り出すことで年間10億円の売上を達成するまでになりました。

参考 https://www.ryukakusan.co.jp/company/jp#company_01

第2回に続く>

第2回では「ひとり歩きするロングセラー商品」と題して、人々の生活の中でスタンダードになった商品が、巻き起こした面白い販促について聞きます。

プロフィール

渡辺和博

1986年筑波大学大学院理工学修士課程修了。同年、日本経済新聞社入社。日経パソコン、日経ビジネス、日経トレンディなどIT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の商工会議所等で地域振興や名産品開発の講演・コンサルを実施。

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  • 2017年12月04日
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