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DNAを伝える CASE2 星野リゾート 組織のフラット化を追求。やりたい人が、やりたいことをやれる組織へ

 いつの時代においても、企業は常に競争にさらされている。そして、いつの時代においても、社会に認められ、繁栄する企業には共通点がある。その企業ならではの“らしさ”、すなわち「企業のDNA(遺伝子)」があることだ。しかし、一人ひとりの社員に企業のDNAを浸透させ、継承させていくことは一筋縄ではいかない。
 そこで、本シリーズ「DNAを伝える」では、企業のDNAを社員全員で共有し、次世代に伝えることで成長を続けている企業のキーパーソンに、DNA共有のための取り組みを聞く。彼らの言葉から、きっとヒントが得られるはずだ。
 第2回目は星野リゾートの青森屋総支配人として、星野リゾートの代表である星野佳路氏が築き上げたDNAを受け継ぎ、日々チームに想いを伝えながらリゾートの革新に挑む渡部賢氏に話をうかがった。

 聞き手:古塚 浩一(日経BPコンサルティング 企業DNAチーム)

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星野リゾートのスタッフは一人ひとり「みんなが女将」

――青森屋の総支配人として日々リゾートの革新に挑む渡部さんは、改めて星野リゾートとはどういう会社だと考えていますか。

渡部 星野リゾートの仕事は、旅館やホテルをオーナーからお預かりして運営することです。そのため、すでにあるマーケットでシェアを取るのではなく、新たにマーケットをつくっていく、つまり需要創出をしていく会社だと思っています。

 旅館やホテルが立地する地元、たとえばここ青森県にはすばらしい観光資源がありますが、それが魅力として十分に活かされていない。スタッフや地域の人たちと協力して魅力をつくっていくことで、その地域が盛り上がり、観光客が増えていく、つまりマーケットが生まれるわけです。


星野リゾート 青森屋
総支配人
渡部 賢氏

――渡部さんが青森屋の総支配人に就任して3年半が経ちました。星野リゾートにおける総支配人とはどういう仕事なのでしょうか。

渡部  星野リゾートの総支配人は偉い立場なのではなく、ひとつの役割だと考えています。運営方針は総支配人が考えてトップダウンで指示を落とすのではなく、スタッフたちが考え、話し合って決める。魅力づくりもスタッフのアイデアがベースです。総支配人の役割は、みんなのアイデアをまとめて意思決定し、それを世の中に発信していくことです。あくまでもアイデアはスタッフが考えるもので、総支配人としてはそのアイデアが生み出され、実現していくプロセスを大事にし、支えたいと考えています。

――そのためには、スタッフの方々が思ったことを気軽に「言える」ような環境づくりが重要になりますね。そして、そのような誰もが思ったことを言える環境こそ、組織のフラット化を追求する星野リゾートのDNAと言えるのでしょうか。

渡部 まさにそうですね。青森屋では、私のことを「総支配人」ではなく「渡部さん」とさん付けで呼ぶようにお願いしています。役職で呼ぶと、呼ぶ側は距離が遠く感じてしまいますし、呼ばれる側も自分は偉いんだなと勘違いしてしまい、組織のフラット化を遠ざけてしまうことになります。

 青森屋をはじめ星野リゾートでは、一人ひとりのスタッフに決裁権があって、お客様のご要望にお応えするためその場で判断することができます。スタッフはマルチタスクが基本で、一般の旅館のように厨房だけ、客室清掃だけではなく、あらゆる部分を担当しているので、様々な経験を積んでいます。ですから、お客様にとって快適な空間をつくり、おもてなしをするための判断を自分で下すことができるのです。いわば「みんなが女将」。その強みを育む環境づくりが、だからこそ大切です。これはまさに星野リゾートのDNAと言えるでしょう。

売上目標を立てると、イノベーションが生まれない

――環境づくりとしてどのような工夫をされていますか。

渡部 たとえば、スタッフが集まってアイデアを出し合う「魅力会議」を毎週開いています。これもマルチタスクの強みを活かし、さまざまな仕事を担当するスタッフが集まって、地元の、そして自分が働く施設の魅力を高めるためのアイデアを出し合います。

 会議では、大きなテーブルを囲むのではなく、テーブルを分けて分科会形式にしています。大テーブルだと発言者が偏りがちですが、小さなテーブルなら話せる人が増えますよね。また、会議の最初にまず各々がアイデアを書いてホワイトボードに貼っていきます。そうすると、その話題になったときに発案者に発言の機会が生まれます。

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「星野リゾート 青森屋」(青森県三沢市字古間木山56 Tel.0570-073-022)の敷地は約22万坪。敷地内では、その昔、馬と共存していた古民家での食事や馬車体験なども楽しめる。

――参加は全スタッフの義務なのですか。

渡部 いえ、あくまで立候補です。アイデアがあるスタッフが、それを持ち寄る場ですね。義務でなく立候補制にしているのは、スタッフごとに向き不向きがあり、得意な分野が異なるからです。やっぱり、やりたい人がやることが重要だと考えています。魅力会議だけでなく、業務改善プロジェクト会議やその他のイベントも同じ方針で開催しています。

――この「立候補を大切にする」仕組みも、星野リゾートのDNAといえるかもしれませんね。

渡部 「しなさい」という強制が一番いけないと思います。会議に出なさいとか、接客しなさいとか。それによってモチベーションが下がってしまいます。

 数字についても同様で、星野リゾートでは基本的に売上目標を考えません。数字があるとどうしてもそこをクリアすることに一生懸命になり、今月達成したからまた来月も、と同じ行動を取ってしまいがちです。これではお客様目線になりませんし、イノベーションも生まれません。自分たちはどういう未来をつくっていくか、それを自発的に描くことが大切だと考えています。

――売上目標など目先のことに終始するとイノベーションが生まれないという真実は、私を含め、いまマネジメント層にいる人にとって衝撃的であり、耳の痛い話だと思います。

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青森屋は星野リゾートの中でも特に個性的な施設の一つで、施設内では、「魅力会議」で発案された、青森らしさを表現するイベントが数多く催される。写真は「じゃわめぐ広場」。夏限定の「しがっこ金魚まつり」では「金魚ねぷた」が館内に飾られる。

そういった考え方は、渡部さんが入社してから先輩などに教わったことなのですか。

渡部 私は違う業界から転職してきたのですが、誰かに教えられたという記憶はありませんね。進むべき方向をみんなが理解した上で、自分たちで考えていくというDNAが会社全体に浸透していたのだと思います。

 だからこそ、普通はトップが代わると方針も変わるものですが、私が青森屋の3代目総支配人になってもそこは全く変わらない。コンセプトづくり、魅力づくりをトップダウンで決めるのではなく、みんなで意見を出して決めているから、総支配人が代わっても変わらないのです。

外に出てわかった、星野リゾートの凄さ

――転職したきっかけは何ですか。

渡部 転職前、私は比較的大所帯の、いわゆるトップダウンで縦割りの会社にいました。自分なりに会社へ提案していたのですが、とにかく物事が進まない会社だったんです。提案は上司を通さなければならず、そこで止まってしまうので、いつまで経っても返答がこない。それが日々重なって、フラストレーションがたまっていました。

 そんな時に星野リゾートの特集をテレビ番組で見ました。そのフラットな組織風土や一風変わった運営手法が紹介されていたんです。「これは言いたいことを言える、やりたいことを実現できる会社だ」と直感して、次の日には入社希望の電話をしていました(笑)。

――渡部さんにとって「やりたいこと」とはどんなことだったんですか?

渡部 当時、スノーボードで競技に出ていたこともあったのですが、日本にもっと素晴らしいスキーリゾートをつくりたいという野望を持っていました。そこで入社3年目に、福島県の磐梯で働きたいと手を挙げたんです。

 自分の思いが伝わり、福島で働けることになったのですが、そこで大きな転機がありました。東日本大震災です。やはり福島の地であの震災を体験したことは大きかった。仕事に対する価値観が変わったんですね。それまでは自分の施設の成果にこだわっていたのですが、東北のために、東北全体の復興に貢献していきたいと思うようになったんです。

目先の売上より、5年後、10年後の未来を共有する

――そこから、福島、そして青森で東北の復興に向け取り組むことになったのですか?

渡部 そうです、と言いたいところですが、実はそのあと一度退職しているんですよ。まだ若かったので、自分の力を試してみたいと会社を離れたのですが、あっという間に戻ってきました(笑)。外に出て、星野リゾートのすごさが身にしみてわかったんです。

――凄さとはどういうところですか。

渡部 星野リゾートは、とにかく変化が早い。どんどんチャレンジして、変わっていくんです。それが外から見るとよくわかりました。常にイノベーティブであるほうが、何より自分にとって楽しいし、ワクワクしながら仕事ができるんだと気づきました。

――退職してすぐに復帰できるのもすごいところですね。

渡部 恥ずかしながら、代表の星野に「戻りたいです」と正直にメールを送りました。すると「そろそろ連絡がくる頃かと思っていました」と返事がきたんです(笑)。会社を出たから悪い、出ていないから良いではなく、会社のビジョンを理解している人が会社にとっては大切な存在なのだと感じました。

 会社のDNAというものは、自然に浸透しているもので、むしろいったん外に出たからこそわかるものかもしれません。その後、青森屋の総支配人になって、やはり一度やめたスタッフから「戻りたい」と言われたのですが、もちろん、私もそのとき「そろそろ連絡がくる頃かと思っていました」と答えました(笑)。

――それは、もの凄くいい話ですね(笑)。トップに直接働きかけられ、しかもすぐ反応がくるところからも、星野リゾートのフラットな組織風土がわかります。改めて、渡部さんにとって星野リゾートのDNAとはどういうものでしょうか。

渡部 いま星野リゾートが掲げている「ホスピタリティ・イノベーター」というビジョンにすべてが表れていると思います。私たちは目前の数値を達成するのではなく、5年後、10年後にどうありたいかを目指して魅力づくりをしていますし、施設や人材づくりにもそのビジョンが投影されています。

 例えば、青森県には星野リゾートが運営する施設は、私が総支配人を務める青森屋を含めて3つります。目先の売上を求めるのであれば、それぞれ自分の施設にお客様が一泊でも多く泊まってくれるようお客様に働きかけるはずと思います。でも私たちは、先ほどお話した通り売上目標を立てていませんし、そういったことはしません。お客様に喜んでいただくことを何よりも大切に考え、星野リゾートが運営する3つの施設すべてをお客様に勧めることで、青森県の魅力を知っていただき、旅に行くことをもっと好きになっていただきたいと考えています。あたりまえのようにこういったことができるのも、社員全員にビジョンを共有しているからこそでしょう。

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組織のフラット化を追求する、星野リゾートのDNAに感嘆する古塚(左)。

――そのようなビジョンを社員が共有できているということは、評価制度もそのようなビジョンのもとつくられているということですね。

 そうですね。社員の評価制度においても目先の売上だけで社員を評価することはありません。評価制度もあくまで社員一人ひとりのビジョンの共有と成長のためのもので、プロセスを重視します。ビジョンを具体化するうえで失敗することもありますが、代表は「ミスを憎んで人を憎まず」と言っています。ミスを否定的にとらえるのではなく、そのミスをいかに活かすかを考える。ミスをしても責められないから隠すことなく開示できますし、その情報をみんなで共有することで、会社にとっても個人にとってもプラスになります。

 また、社内ではさまざまなスキルを学ぶ機会も用意しています。それらをうまく活用して弱点を克服する人もいますし、強い部分を徹底的に伸ばす人もいます。キャリアをどうつくっていくかを自分で考え、常に未来を見据えることで、お客様のおもてなしを革新していく。そういう会社だと思いますし、そのようなDNAが根付いているからこそ、星野リゾートは代わりがきかない会社であり、私のように星野リゾートでどうしても働きたいという想いを抱いた社員をたくさんいるのでしょう。

――今日お話を伺い、心から愛する会社で日々ワクワクしながら働いていらっしゃる渡部さんをとても羨ましく思いました。貴重なお話をありがとうございました。

取材を終えて 【 古塚 浩一(日経BPコンサルティング 企業DNAチーム)】

 数年前、星野リゾート代表の星野佳路氏に、組織のマネジメントに対する考えについてお話を伺う機会がありました。その時、特に印象に残った言葉がありました。

 「会議で発言すると以前は代表が言うから正しいのだろうって社員が同調する空気があったけれど、今は自分が会議で発言しても、違うと思えば平気で否定してくれるようになったんだよ」。目の前で星野氏が笑顔でそううれしそうに語る姿を見て、組織のフラット化が進む星野リゾートは今後ますますリゾートに革新をもたらしてくれると、その時確信したのをよく覚えています。そして星野リゾートの近年のさらなる躍進は言うまでもないでしょう。

 今回、取材に応じてくださった青森屋総支配人の渡部氏に星野氏の過去のその発言のことを伝えると、「その気持ちはとてもよくわかります」と笑顔で答えてくださり次のように続けました。「この間、青森屋のスタッフみんなで集合写真を撮る機会があったのですが、いざ撮影する段階になって気がつけば自分は中心どころかかなりはじっこにいたんです(笑)。そのとき、フラットで良いチームになったとうれしく思いましたね」。

 星野氏が築き上げたDNAが着実に若手に浸透している星野リゾートの今後に、ますます期待が高まります。

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古塚 浩一

日経BPコンサルティング カスタムメディア第一編集部長

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