MaOI

先進技術の活用で海の産業振興と環境保全を両立。人も自然も共に豊かになることを目指す「マリンオープンイノベーション(MaOI)プロジェクト」が本格スタート

静岡の取り組み

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静岡県は、日本の湾の中で最も深い駿河湾を中心として東の相模灘から西の遠州灘まで500kmを超える海岸線を有し、多彩な海洋環境と生物・資源に恵まれた県である。これらを活用した産業の振興と創出を目指しスタートしたのが「マリンオープンイノベーション(MaOI)プロジェクト」だ。静岡県では既に農業分野で先進的な取り組みを進める「AOI(アグリオープンイノベーション)プロジェクト」を展開しており、その海洋版として位置づけられる。

写真1 ●深海など多彩な環境と豊かな生物資源に恵まれた「駿河湾」

もともとは静岡県が中心となって2018年に「マリンバイオテクノロジー研究会」を発足。我が国を代表するバイオ、海洋分野の研究者が参加し、マリンバイオテクノロジーを活用した新たな産業振興の施策について検討を行った。この協議会の提言を受け、プロジェクトを推進する団体として2019年7月に設立されたのが「一般財団法人マリンオープンイノベーション機構(MaOI機構)」である。

MaOI機構設立の背景には海洋の持続可能な開発という視点があると、専務理事兼事務局長の渡邉眞一郎氏は話す。

「持続可能な開発目標(SDGs)では、まさに目標14に『海の豊かさを守ろう』と明記されている。そもそも、これからの時代は人だけが豊かになるのではなく、人も自然も共に豊かになるという観点が不可欠であり、産業振興と環境保全の両立は世界的な流れだ。世界では持続可能性を踏まえた海洋経済をBlue Economyという言葉で表していることから、MaOI機構も同じくBlue Economyを掲げて産業クラスターの形成に向け取り組むこととなった」


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図1 ●国際的に注目を集める「Blue Economy」

まずは2020〜24年度の5年間を計画期間とする第一次戦略計画に沿い、Blue Economyの推進、海洋研究開発拠点の整備・活用、海に関わる人・団体の連携促進の3本を大きな柱として、産官学金の協力のもとで事業を進めている。

まず1本目の柱である「Blue Economyの推進」。Blue Economyの産業分野は幅広く、MaOI機構では海外の団体が示す資料を基に16の分野を挙げている。筆頭にあるのが養殖・水産業だ。


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図2 ●幅広いBlue Economy の産業分野

例えば海面養殖における給餌は、従来は適量かどうかの判断を熟練者の勘に頼ってきたが、現在は魚の様子をモニタリングし、適量を機械で給餌する技術が開発されている。こうした技術を活用すれば、魚が食べ残した餌で海洋環境が悪化することを防げるうえ、労働の削減と効率改善で一次産業従事者の働き方改革につながり、コストも抑えられる。またセンサーを設置すれば、これまでは人が潜水しなければ見えなかった魚の成長具合を可視化し、陸上にいながらパソコンやスマートフォンで確認することが可能になる。

養殖・水産業に続いて挙げられているのが造船業。この業界もいま担い手が減っているが、通信や効率の高いエンジン開発、さらには自動操縦の実現にまで、テクノロジーの可能性は広がっている。このほか、インフラ、港湾運送、ロボット、バイオ創薬、海洋エネルギー・資源など、実に多彩な分野がBlue Economyのターゲットに入っている。

「デジタル技術を活用することで、人にも環境にも優しい形で産業振興が可能になる。MaOI機構では研究のための研究ではなく、あくまでも世の中に価値と利益を生み出すため、社会実装を意識して取り組みを進めている」(渡邉氏)

機構発足からまだ2年も経っていない状況だが、すでに多くの取り組みがスタートしている。

まずは2019年10月、オープンイノベーションの連携組織として「MaOIフォーラム」を設置した。MaOI機構が事務局を務め、多様な企業・機関が会員として参画。現会員数は100を超える。


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図3 ●MaOIフォーラムの概要

同フォーラムでは会員向けの情報発信やセミナー、コーディネーターによる事業支援を実施する。2020年度はWebセミナーを開催したほか、2021年に入ってからは、新ビジネスを検討する民間事業者や地域振興を考える自治体関係者が少人数で集まり、特定のテーマについて、研究者の講演などで学ぶ「MaOIサロン」も試行している。

「サロンの最近のテーマは海藻のアカモク。そのテーマに関心のある人々が集まるため、熱心な質問が飛び交い、情報交換や交流も進んだ。今後もこうした取り組みをさらに広げていきたい」(渡邉氏)

社会実装に向けて背中を押す目的で、県の助成金をもとに事業化を支援する取り組みも行っている。2019年度から、県内外を問わずマリンバイオテクノロジーの産業応用に資する研究テーマを大学・研究機関から公募する「シーズ創出研究業務委託」、県内企業等の海洋生物資源を活用した製品開発やテクノロジーによる革新的な養殖等の事業化を支援する「マリンオープンイノベーション事業化促進助成」を実施している。共に採択した案件が始動し、後者ではすでに一部で商品化もされている。さらに2020年度からは、海洋にかかる工学・情報系の分野で産業振興に資する基盤技術開発を支援する「海洋技術開発促進助成」もスタートした。

「助成金活用事業はまだ始まったばかりで認知度も高くないため、機構のコーディネーターが個別に企業訪問して事業案内とヒアリングを行いながら取り組んでいる。その中で実現の可能性があるものについては大学・研究機関とのマッチングを図り、事業化に向けて後押ししている。訪問企業数は2021年1月時点で120。すでにマッチングの事例も出ている」(渡邉氏)


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図4 ●MaOIプロジェクトの事業化成果

2本目の柱の海洋研究開発拠点の整備・活用としては、2020年11月、静岡市清水区の清水港にプロジェクトの拠点施設「MaOI-PARC」がオープンした。既存のビルの2階部分を改修し、海洋微生物の分析などを行える共同ラボ、大学・研究機関等が一時的に利用できる連携研究室(大・小計5室)、さらには多様な立場の人々が集える交流スペースなどを整備・運営している。これらを有効に活用することでイノベーションを創出し、海洋に関連する新たなビジネスの芽を生み出していくのが狙いといえる。


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図5 ●MaOI-PARCの概要

人々の連携・交流を促すさまざまな仕掛けに加えて、注目は海洋情報のオープンデータプラットフォームの構築だ。

「さまざまな機関がそれぞれの目的に沿った形で海洋関連データをストックしているが、その貴重なデータが広く共有される状態にはなっていない。MaOI機構の設立を契機にそうしたデータをストックして各機関をつなげ、オープンデータとして活用できるデータプラットフォームとするために『BISHOP』(ビショップ)を構築している」(渡邉氏)

同プラットフォームでは、大学や国の研究機関はもちろんのこと、水産・海洋技術研究所、工業技術研究所、温水利用研究センターといった静岡県の施設、さらには企業等も含め、駿河湾に関するリアルデータを収集・蓄積し、多様な共同研究に活用することを目指している。2021年度からの運用開始を予定しており、MaOI-PARCがそのネットワークの拠点としても機能する形だ。

最後に、3本目の柱の「海に関わる人・団体の連携促進」に関しては、ここまで挙げた取り組みに加えて、海外のBlue Economy先進地との連携による情報交換やネットワーク構築を進めている。また、MaOI機構が事務局となって「美しく豊かな静岡の海を未来につなぐ会」を2020年2月に設立した。世界に誇る美しく豊かな静岡の海の良さを県民に伝え、海を守り、交流を促進する活動にも取り組んでいる。


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図6 ●美しく豊かな静岡の海を未来につなぐ会

「まだまだ生まれたての組織だが、2021年度以降はより本格的に、静岡の海をフィールドとして多彩な方面で事業展開していきたいと考えている」と、渡邉氏は今後に向けた意気込みを語った。

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