ChaOI

異業種とのマッチングで茶業界に活力を生む「Cha Open Innovation(ChaOI)フォーラム」

静岡の取り組み

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静岡県は、荒茶生産量、茶産出額ともに日本有数の“茶どころ”。製茶機械メーカーなどの茶関連産業も数多く集まり、長年にわたって日本の茶業界を牽引してきた。茶は日々の食卓に欠かせない飲料として定着しているが、一方でライフスタイルや嗜好の変化などから急須に淹れて注ぐ、いわゆるリーフ茶の需要が急速に減少している。また、茶業界では担い手の減少と高齢化が進み、耕作放棄茶園が増加するなど、茶業を取り巻く状況は厳しくなりつつある。

こうした状況を打開するため始動したのが「ChaOIプロジェクト」だ。静岡県には茶業界を支援する茶業研究センターがすでにあるが、ChaOIプロジェクトはオープンイノベーションの手法を取り入れた新たな取組である。2020年3月には、静岡茶の需要創出に関心のある茶生産者や民間企業が参画し、プロジェクト推進の基盤となるプラットフォーム「ChaOIフォーラム」が設置された。その狙いについて、同フォーラムで事業推進部長を務める石神崇彦氏はこう語る。

「異業種それぞれの持つ技術やノウハウを組み合わせることで、今までにない革新的な商品開発や販路開拓を目指している。そのため、会員は茶業の再生に向け、需要創出に興味を持つ方であれば、どんな業種でも構わないというスタンス。茶の生産者や茶商、加工業者だけでなく、食品業界から機械メーカー、金融業界、観光業界、研究機関など幅広い業種の方々が参加している」

2021年12月末時点で、会員数は530を超え、茶業界の会員は6割、残りの4割が他業種の会員構成となっている。


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図1● ChaOIフォーラムの概要


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図2● ChaOIフォーラムの会員構成

3人の専任コーディネーターが“よろず相談”

ChaOIフォーラムの活動の柱は3つ。1つ目の柱は、最大の特徴と言える相談対応だ。同フォーラムでは、『よろず相談所』を合言葉に、補助事業やパートナー探しなど、会員からの幅広い相談に対応している。新商品開発支援の九島祥弘氏、販路開拓支援の福島寛孝氏、生産振興支援の後藤昇一氏、それぞれの分野に精通した実務経験のある3人の専任コーディネーターが対応する。技術的課題のアドバイスを行うだけでなく、フォーラム会員同士のビジネスマッチングを提案したり、事業化に向けた“儲かる仕組みづくり”の支援まで行う。石神氏は、現状をこう分析する。

「スタート初年度の相談件数は480件だったが、今年度に入り飛躍的に伸び、相談、マッチング、情報提供等上半期だけで約2,000件に及んでいる。今まではさまざまな担当部署に相談しなければならなかったのが、ワンストップで相談できるようになったこと。そして、出口戦略に基づく、ビジネスに結びつく実践的な相談の場であることが認知されつつあるのだと思っている」

写真1● ChaOI事務局フォーラムのみなさん
左から、石神事業推進部長、九島コーディネーター、福島コーディネーター、(右上)後藤コーディネーター

2つ目の柱は、補助事業だ。相談対応や異業種同士のマッチングを経て、実際の事業化を目指す取り組みを評価する。「新商品開発・試験研究」「販路開拓」「複合作物のスタートアップ」「需要に応じた生産構造の転換」「輸出向けHACCP対応施設の導入」の5つのカテゴリーから審査し、補助事業が採択される。今年度は52件採択された。

3つ目の柱は、情報提供、広報活動だ。会員の取組を紹介するメールマガジンの定期的な配信の他、ホームページにおける会員情報の掲出や静岡茶に関するセミナーを開催している。昨今のコロナ禍では、Web会議ツールを活用してセミナーを行っており、これまでに「国産新香味茶のニーズを探る」「有機栽培茶の品質向上と生産力安定化」など時宜を得たテーマで実施している。


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図3● 補助事業の支援メニュー

写真2● WEBマッチングを実施するChaOIの専任コーディネーター

柔軟な発想によるイノベーションが始動

では、具体的にどんな取組が始動しているのだろうか。

新商品開発の分野でいま注目されているのが、「お茶の漬物ET(Eat Tea)」だ。静岡県の山間地で無農薬栽培された茶の葉っぱを使用し、乳酸発酵させた漬物で、「飲むお茶」という今までのイメージを変える斬新な新商品である。「隠れ茶を守る会」による取り組みで、山間地の収穫時期の遅さというハンディを解決し、品質の良さと無農薬を生かす目的から生まれた。地方に眠る魅力的な商品を発掘する地方創生プロジェクト「にっぽんの宝物」静岡大会でグランプリを受賞し、茶の新たな味わい方を広める商品として期待されている。

写真3● 「お茶の漬物ET」をペースト状にし、肉や野菜と合わせた料理

写真4● 「にっぽんの宝物」静岡大会でグランプリを受賞

販路開拓で話題になっているのが、星野リゾートが展開する温泉旅館「界 遠州」とコラボしたティーツーリズムだ。「界 遠州」では朝食前後、宿泊客向けに静岡茶をもてなすサービスを始めている。ユニークな点は、茶の生産者自らがお茶を淹れているところだ。生産者は宿泊客と直接触れ合うことで、日頃の想いやお茶の知識などを伝えることができる。宿泊施設とのマッチングによって、普段は接点のない生産者と消費者が出会える機会を作り出し、認知度アップや販売促進にもつながっている。

写真5● 星野リゾートの温泉旅館「界 遠州」では茶の生産者自らがお茶を提供

耕作放棄地の課題解決には、複合作物のスタートアップ事業が着実に効果を挙げている。たとえば茶園750aを経営するある農家では、茶園跡地で比較的収入が安定している白ネギ栽培を開始した。JA営農指導員の指導を受けながら品質の安定化に努め、初年度からほぼ計画した生産量、販売額を確保することができた。茶園を継続維持する方法として、複合作物の導入は確かな支えとなっている。

写真6● 茶園跡地の白ネギ栽培で行っている土寄せ作業

昨今では急須で飲むリーフ茶の国内需要が減少し、ドリンク原料や輸出向け有機栽培茶の需要が拡大している。「需要に応じた生産構造の転換支援事業」では、生産者と流通販売業者がコンソーシアム(共同体)を組んで需要に応じた茶を生産する体制に転換を図るため、製茶機械や関連施設を導入・整備している。流通販売業者等と連携し、需要のある茶種へ転換するとともに、生産から販売までの一貫した体制づくりに成果を上げている。

写真7● 導入した過熱蒸気対応型蒸機(左)と過熱蒸気発生装置(右)

コロナ禍を乗り越え、会員同士の自発的な取り組みへ

こうした取組を通じ、ChaOIフォーラムでは茶は飲料だけでなく、食品、化粧品、医薬品にも利用でき、ポテンシャルを秘めた商材であることを実感したという。また、販路を拡大することで、潜在的需要層に訴えるだけでなく、将来的に海外の顧客を取り込むことも期待できる。茶業界全体の活性化に着実につながっている。

一方で懸念されるのが、昨今のコロナ禍だ。石神氏によればChaOIフォーラムも少なくない影響を受けたという。

「ビジネスマッチングをする上で、対面での業者間の引き合わせが重要になるが、移動制限等により難しくなってしまった。オンライン会議などで、この苦境をなんとか乗り越えていきたい」

基本は人と人の繋がり。課題はあるが手応えも大きく、今後をこう展望する。

「ChaOIフォーラムに相談することで、何らかの得るものがあるという流れが生まれ、知名度も上がってきている。異業種とのマッチングによって茶業者さん達も触発されて、自信も生まれていると感じている。今後、最も重視したいのは、会員同士の自発的な取組が進むこと。オープンイノベーションである以上、会員それぞれが持つ強みを発揮できる、それを他の会員の強みとの相乗効果で事業が進められるような土台を作っていきたい」

スタートから約1年半、茶の伝統を引き継ぎながら自由な発想で新たな価値の創出を目指すChaOIプロジェクト。静岡らしいオープンイノベーションの取組が、茶業界、そして静岡のビジネス界に新風を巻き起こしている。

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