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第5回静岡銀行 大橋弘常務に聞く 地域経済活性化の先導役は地方銀行

第5回静岡銀行 大橋弘常務に聞く
地域経済活性化の先導役は地方銀行

 地方創生は、安倍内閣も政策課題の1つとして取り上げる古くて新しいテーマだ。地元の企業を育て、地元に雇用を産み、地元への投資を呼び込む。その先導役として期待されるのが地方銀行だ。折しも金融庁が地銀に対し、地元での融資拡大を促している。果たして地銀は地方経済活性化の起爆剤となれるか。いち早く「地方創生部」を立ち上げ、成功事例を積み上げている静岡銀行の大橋弘常務に聞いた。

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大橋弘(おおはし・ひろし)氏
静岡銀行 常務執行役員

1980年慶應義塾大学法学部卒業後、株式会社静岡銀行入行。審査部、経営企画部、欧州静岡銀行出向、支店長、法人部長等を経て、2013年、執行役員沼津支店長、2015年より現職。

大橋弘(おおはし・ひろし)氏 静岡銀行 常務執行役員

「地方創生部」というのは銀行ではあまり耳にしない部署名です。

大橋常務(以下、大橋):2015年7月に発足した。静岡県の経済活性化を支援するのが部の目的だ。きっかけは地元経済の地盤沈下に対する危機感だ。静岡県はかつて、太平洋ベルト地帯の中心で、大企業の製造拠点が集まっていた。東日本大震災が起こり、南海沖地震への懸念が高まるにつれ、静岡県の工場は大丈夫なのかという声が増えた。東北や九州に移転するケースも出始め、裾野市にあったトヨタ自動車のグループ企業の工場が移転し、3000人の雇用が失われた。家族を入れれば1万人が県外に去ってしまった。

 一方で静岡は新東名高速道路の開通もあって、物流拠点としての魅力が高まっている。観光資源の豊富さは昔から変わらないし、製造拠点としても、工業団地を整備することで、中堅企業が進出するなど、新しい流れが出てきた。静岡の経済は、まだまだ可能性を秘めており、伸びしろがある。そのお手伝いをするのが地方創生部だ。

具体的にどのような取り組みをしていますか。

大橋:2015年9月から地方創生全体会議を開催している。増田寛也さんを講師に迎え、県内すべての市町村のトップや担当者、大学、商工会議所などが参加し、静岡県の経済活性化のために議論している。中小、中堅企業を誘致したり、県内企業を成長させたりするために、行政の立場から何ができるか、考えてもらっている。すでに工業団地への企業誘致、観光産業での広域連携など実績が上がり始めた。観光産業は市町村の垣根を越えてやるべきだ。観光客からすれば、今いる場所が何市だろうと何町だろうと、関係ない。伊豆の13市町で組織した「美しい伊豆創造センター」と連携し、海外メディア向けに伊豆の観光体験ツアーを催したり、静岡県と神奈川県、横浜銀行などと広域連携の活動を立ち上げ、市町村の境のない地図を作成するなど、どんどん広がりが出てきた。

お話を伺っていると、銀行の仕事というより、県知事や県庁がやるべき仕事のように思えます。

大橋:確かに銀行の仕事としては異色かもしれないが、これが地方創生部の役割だ。これまでとは違うやり方でビジネスを産み、そこに発生する資金ニーズに応える。この流れを銀行自らが起こしていく。融資を拡大せよと言われ、頑張って営業を強化したところで、県内企業向けに、そうそう融資案件が次々と出てくる時代ではない。

 地方創生部の部員の3割超が、県や静岡市、浜松市、商工会議所、産業振興財団などに出向している。行政と連携し、情報収集し、地元企業を巻き込み、企業が個別に動いていたら到底実現できないような案件を生み出す。当然、実現まで時間がかかることも多いから、人事考課も長い目でみる必要がある。3年くらいかかる案件は普通だから、中長期での成果をきちんと評価する。

地域の金融機関を巻き込んで様々なビジネスを支援

実際にどのような流れでビジネスが生まれているのですか。

大橋:下田市で、ちょっと豪華なキャンプ場を手掛けるVILLAGE INCという会社の社長は県外出身だが、意欲的に事業を拡大している。富士宮市ではドライブインを複合型のレジャー施設に改修する事業も立ち上がった。資金は、しずおか観光活性化ファンドという13億円規模のファンドを立ち上げ、そこが出資する。静銀グループのほかスルガ銀行、浜松、三島、富士、富士宮などの信用金庫が出資し、すでに3件の投資実績がある。しずおか農林漁業成長産業化ファンドも活用する。ヤマト運輸、ANA総合研究所と連携し、県産の農産物をアジアに輸出するための動きも始まっている。銀行がコーディネーターのような役割を果たすことで、新しいビジネスが生まれ、融資案件が発生し、地元経済が活性化する。いい流れが生まれつつある。

地銀が地域活性化に貢献するモデルケースのようにもみえます。

大橋:まだまだ課題は多い。静岡県には昨年、170万人の外国人観光客がやってきたが、県内の滞在日数は1.3泊しかない。御殿場市のアウトレットには年間1000万人が訪れるが、宿泊する人はわずかで、山梨県など県外に流れてしまう。観光資源を十分に生かし切れていない。また静岡県は19歳から24歳の県外流出人口が非常に多い。大学を卒業後、Uターンする学生を増やしたい。地方創生を担う銀行として、やるべきことはいくらでもある。

鈴木 亮(すずき・りょう)
日本経済新聞社編集局 編集委員兼キャスター。1960年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部卒、日本経済新聞入社。兜記者クラブキャップなどを経て、1997年ロンドン駐在特派員。大阪本社経済部次長、東京本社証券部次長、日経マネー編集長、日経電子版マネー編集長兼マーケット編集長などを経て現職。著書に『株はよみがえった』(日本経済新聞出版社)、『ど素人でも経済ニュースがすぐわかる本』(PHP研究所)など。

(初出 日経ビジネスオンライン)

Point of View

金融コンテンツLab.の視点

 金融機関へのインタビュー第3回は静岡銀行の常務執行役員であり、地方創生担当という金融機関では目新しい肩書きを持つ大橋 弘氏にお願いしました。静岡銀行といえば常にトップ3に名を連ねる「地銀の雄」。総資産額や収益性においても非常に優良な銀行というイメージがあります。しかし、地元経済の地盤沈下に危機感を抱き、2年前に「地方創生部」を発足させたといいます。

 金融庁は地銀に対し1. 地方に仕事をつくり、安心して働けるようにする、2. 時代にあった地域をつくり、安心を守るとともに、地域と地域を連携する という2つの取り組みを求めています。インタビューの中で紹介されている物流拠点、製造拠点としての魅力を高める取り組み、近隣とも連携した観光産業振興への取り組み等はこうした要請を具現化している例といえるのではないでしょうか。人口減少や地域産業の競争力低下、事業承継の困難化等、地域社会、そして地銀が直面する課題は様々です。単純に合併等で規模の拡大を図るだけでは生き残っていくのは困難、というのが金融庁の見立て。中長期的に持続可能なビジネスモデルをいかに構築していくかが問われています。

 地域ごとの課題やそれに応じた戦略が必要とされるため、静岡銀行の取り組みがすべての地域において正解というわけではないでしょう。しかし、行政や近県も巻き込み、次々と手を繰り出す静岡銀行の取り組みは、参考になる点も多いのではないでしょうか。

金融コンテンツLab.
所長 山上祥子

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