メニュー

トピック分析 第1弾どうなる、金融改革2017

第3回大和証券グループ本社 中田誠司社長に聞く
行政に先んじて、顧客の「資産純増」重視に転換

 「7つの基本原則」を中心とする金融庁の改革を、金融機関はどのように受け止めているのか。金融機関側の今後の方針と取組みを聞いていく。

 トップバッターは、大和証券グループ本社 中田誠司社長へのインタビューをお届けする。

この記事の金融コンテンツLab.の視点 Point of View を読む↓

中田誠司(なかた・せいじ)氏
大和証券グループ本社
社長

東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、大和証券に入社。2009年、大和証券グループ本社 取締役。2016年、副社長を経て2017年4月1日、社長に就任(大和証券社長も兼務)。

中田誠司(なかた・せいじ)氏 大和証券グループ本社 社長

FPの資格取得者を増やす、CFPの取得者1000人へ

金融庁が顧客の利益を第一に考える営業を強く求めています。

中田:金融庁の方針はその通りだと思うし、肯定的な立場だ。大和証券は10年以上前から、手数料よりも顧客の資産純増を重視する営業に転換している。行政の動きに先んじて、顧客の満足度を上げる営業に取り組んできた自負はある。

 とは言え、大和も上場企業であり、利益を上げなければならない。顧客満足度の向上と会社の収益が完全に合致するのが理想だが、まだ現実はそこまで行っていない。顧客の満足度を重視する営業に一段と舵を切れば、収益が一時的に下がる可能性はある。そこは経営トップがしっかり認識し、現場の不安を払拭する必要がある。

顧客満足度を上げるため、どのような対策をお考えですか。

中田:社員一人ひとりが顧客の良き投資アドバイザーになれるように、ファイナンシャル・プランナー(FP)の資格取得者を増やす。現在、大和には上級資格であるCFPの取得者が680人いる。これを早い段階で1000人に増やす。CFP取得の前段階として、入社1、2年目の社員には、研修を通じてベーシックなFP資格であるAFPの資格取得を促している。今の取得率は80%程度だが、これを100%に高める。資格取得を昇格の要件にするなど、半ば強制的に取り組んでもらうことも考えている。

“社内ビジネススクール”で「大和スピリット」を浸透させる

CFP取得の研修はないのですか。

中田:これまで入社3年目以降は、会社全体の研修システムがなかった。今後は3年から5年目の社員向けに、顧客満足度を高めるための資質向上につながる研修を用意する。ここでCFP資格に挑んでもらう。ホールセール業務の担当者はアナリスト第2次レベルを目指すことになる。

若手を鍛えることで顧客の満足度向上につなげるわけですね。

中田:若手だけではない。部長級から選抜した20人程度を対象に、大和経営アカデミーと呼ぶ社内ビジネススクールのような研修をしている。4カ月間、土日を使い、業務のスキル向上を目指している。ここでは私自身が講師になり、大和スピリットと呼んでいる仕事の基本姿勢を教える講義もしている。

顧客満足度を上げるためのスキルを身につける

「大和スピリット」というのは、どういうものですか。

中田:鈴木茂晴社長時代に、人事・経営企画副担当常務だった私が作成した。大和の企業理念をかみ砕いて、現場のビジネスのレベルに落とし込み、社員に役立つものを作るように命じられた。6項目からなる基本方針を掲げた。その中核にあるのが、顧客の信頼や満足を得られなければ、会社の発展はない、というものだ。まさに今、金融庁が主導する流れと合致している。

 部長級の研修の前に、次長級を対象にした大和リーダーシップ・プログラムという30~40人程度の研修も年2回、やっている。研修の目的は、いずれも顧客の満足度を高めるためのスキルを身につけることだ。

顧客満足度を計る指標をいくつか用意

社員の研修は重要ですが、結局、顧客はもうからないと満足しないのではないでしょうか。

中田:もうかることと、顧客が満足することは必ずしも一致しない。たとえ、損をしても、自分のためによくアドバイスをしてくれた、相談に乗ってくれた、というように思ってもらえれば、満足度は上がるはずだ。相場全体が下げた時は、顧客は利益を上げにくい。そんな時でも、FP資格を持つ社員がしっかりコンサルタントをしていれば、顧客は納得してくれるだろう。

顧客が本当に満足しているかどうか、どのように把握しますか。

中田:顧客満足度を計る指標をいくつか用意しようと思う。調査会社を活用し、様々な角度や条件のもと、数字で満足度を把握する。肝心なのは数字そのものより、現状からいかに改善していくかだ。営業店では地域によって数字に差が出るのは当然だ。それぞれの営業店が、以前の数字より改善していれば顧客満足度という点で問題はないと判断できる。

資産を増やしたい人と、守りたい人への対応は違う

金融庁は顧客の満足度向上を求めていますが、求める満足は顧客によって様々ではないでしょうか。

中田:それはある。だから顧客の属性を現状よりも細分化し、きめ細かく対応する必要がある。経済が成長していた時代、ほとんどの顧客のニーズは、資産を増やすことだった。今は資産を守りたい人、資産をつなぎたい人などニーズが多様化している。資産を増やしたい人と資産を守りたい人では、提供する情報が当然違う。つなぎたい人なら相続に関する知識が不可欠だ。1人の営業マンがすべてカバーするのは難しい。つなげたい顧客や守りたい顧客なら、例えば60歳を超えたシニアの営業マンが対応する方がいい。大和は70歳まで営業の現場で働ける制度があり、シニアが貴重な戦力になるし、結果的に顧客の満足度も上がる。

提供する情報やサービスも多様化する必要がありますね。

中田:過去20年、米国の株式相場は上がり続けたが、日本は上がらなかった。日本では成功体験を重ねた投資家は少ない。ただそんな環境でも、「ドルコスト平均法」のようなコツコツ積み立て投資をしていた人は、利益を出せた。時間分散をすれば、相場全体が横ばいでも利益を生み出すことができる。米国でも確定拠出年金401kが始まり、インデックス投資をコツコツ積み立てでやっていた人が、大きな利益を得た。

iDeCoや積み立てNISAで、実際に投資を始めてほしい

日本でも個人型確定拠出年金(iDeCo)が始まりました。

中田:20代から40代あたりまでの若い世代に投資を始めてもらう入り口として、iDeCoや積み立てNISA(少額投資非課税制度)はいいと思う。投資を実際に始めてもらわないと、我々も情報やサービスを提供できない。

若者向けの投資教育が必要ではないですか。

中田:もちろん重要だ。ただこれは業界全体で考えるテーマだろう。日本の証券口座は今、2700万あるが、大和はそのうち360万口座だ。金融資産でいえば30数兆円で、1.3%くらいだ。大和の顧客に絞って投資教育をしても、限界がある。日本証券業協会や文部科学省、日銀なども含めて業界全体で取り組み、中学生くらいから授業で金融や投資を取り入れるといい。大学受験の社会科の選択科目の1つとして、地理、歴史などと同じように投資という科目ができれば、学生時代から投資の知識が増えるし、その後、実際に投資をしてみようと考える若者が増えるだろう。

脱デフレの基調が鮮明になれば、資金シフトは起こる

投資を始める入り口として、インターネット専業銀行の大和ネクスト銀行は有効ですね。

中田:確かにネクスト銀の預金を入り口にして、ここから投資信託や株式など有価証券投資に資金が移動してくれるのが理想だ。マイナス金利の時代だから、ネクスト銀の定期預金にお金が積み上がっていくばかりでは厳しい。これまでネクスト銀の預金のうち、55%が有価証券投資に移っている。この比率をもっと高めていく必要がある。

資金シフトは簡単ではないのでは?

中田:1985年から1993年あたりまで、消費者物価指数でエネルギーと食品を除いた、いわゆるコアコアCPIは、1~2%程度の伸びだった。この時代、個人金融資産に占める有価証券の割合は25~33%あったが、現在は15%だ。日銀がCPI2%達成を目指している状況下、もう少し有価証券の比率が高まってもいい。ここ15年ほどはデフレの時代だったから、個人が900兆円の資産を預金にしていたのは、ポートフォリオ管理としては正しかった。これから脱デフレの基調が鮮明になってくれば、徐々に資金シフトは起こると思う。

鈴木 亮(すずき・りょう)
日本経済新聞社編集局 編集委員兼キャスター。1960年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部卒、日本経済新聞入社。兜記者クラブキャップなどを経て、1997年ロンドン駐在特派員。大阪本社経済部次長、東京本社証券部次長、日経マネー編集長、日経電子版マネー編集長兼マーケット編集長などを経て現職。著書に『株はよみがえった』(日本経済新聞出版社)、『ど素人でも経済ニュースがすぐわかる本』(PHP研究所)など。

(初出 日経ビジネスオンライン)

Point of View

金融コンテンツLab.の視点

 金融庁主導による金融改革は、果たして金融機関にどのように受け止められているのか。今回からは、金融機関側の対応について取り上げていきます。トップバッターとして登場していただくのは、大和証券グループ本社の中田誠司社長です。「大和証券は10年以上前から、手数料よりも顧客の資産純増を重視する営業に転換している。行政の動きに先んじて、顧客の満足度を上げる営業に取り組んできた自負はある」と語る中田誠司社長。顧客満足度の向上と会社としての収益向上を両立させていくためには、トップ主導で改革を進めていく必要があるといいます。

 

 長らく低金利時代が続いている日本では、特に若い世代は「投資における成功体験」に乏しい。下手に動かない方が結果的に正解だったという時期もありました。こんな時代だからこそ、誰もが資産を増やすことだけを望んでいるわけではありません。守りたい人、つなぎたい人、それぞれの顧客のニーズを満たし満足度を高めるために、金融機関には何が求められているのでしょうか。提供する情報やサービスの多様化、個別のきめ細かな対応……今はまだ金融機関も手探りしている段階かもしれません。また、答えは1つだけではないのでしょう。ただ1ついえることは自分たちの利益だけを考えていたのでは、生き残れない、ということなのではないかと思います。先々を見据えて、どんな一手を打つのか。顧客との共存共栄をどう図っていくのか。まずは大和証券グループの取り組みをお読みください。

金融コンテンツLab.
所長 山上祥子

まずはお気軽にお問い合わせください!

お問い合わせはこちら