「~非上場企業も対応を強化~ いま注力すべきESG情報開示を考える」①

企業が2023年に開示すべきサステナビリティ情報のポイントとは

  • 古塚副本部長2020

    サステナビリティ本部 本部長 古塚 浩一

企業はいま、ESGに関して数多くの情報開示を求められている。企業の経営層が推進すべきESGの情報開示とは何か、そして2023年に重点を置いて取り組むべきテーマは何か。サステナビリティ課題の理解から情報開示、投資家への対応まで一貫したサービスを日経BPコンサルティングと共同で提供する、QUICK ESG研究所プリンシパルの中塚一徳が語った。

2023年5月10日開催
企業価値向上セミナー
~非上場企業も対応を強化~ いま注力すべきESG情報開示を考える」より
文=斉藤俊明
構成=古塚浩一、金縄洋右

投資家目線に立った開示要求事項の整理がカギ

企業はこれまでにもWebサイトや統合報告書、CSRレポートなどでサステナビリティ情報を開示してきたが、金融庁の「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正されたことを受け、2023年からは有価証券報告書において情報開示が求められるようになった。

中塚氏は「これは大きな変化であり、企業にとって、今年よりも、むしろ2024年の開示に向けた準備がとても重要になる」と指摘する。

有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示は、「企業の状況」と「従業員の状況」の2つについて求められる。

まず企業の状況では、「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄が新設され、サステナビリティ全般に関して「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」という4つの枠組みに沿った開示が求められることとなった。このうち、「ガバナンス」と「リスク管理」は必須であり、「戦略」「指標と目標」は重要性に鑑みて開示が求められるという位置付けだ。また人的資本に関する開示要求事項としては、「戦略」「指標と目標」の開示が必須のものとして整理された。

一方、従業員の状況では、提出会社単体及びその連結子会社の合算ではなく、それぞれにおいて、管理職に占める女性の割合、男性労働者の育児休業取得率、男女の賃金の差異といった情報を開示することが求められた。

「ポイントは、TCFDに沿った4つのフレームワークで開示要求事項が整理されたことです。これはつまり、投資家の視点に立って開示要求事項が整理されたということであり、このことを押さえることが重要です」と中塚氏は語る。

これらの中でもとりわけポイントになる点として、中塚氏は「リスク管理」と「ガバナンス」を挙げる。

前者については「今回必須とされたのはサステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価して、管理するためのプロセスを開示してくださいという点です。言い換えれば、サステナビリティ関連のマテリアリティ(重要課題)を特定し、評価・管理するプロセスを開示してくださいということです」と解説。実際に企業が特定したサステナビリティ課題と、その課題に紐付く短・中・長期のリスク及び機会については、「戦略」で開示することになると指摘する。

出所:金融庁 企業内容等の開示に関する内閣府令(昭和四十八年大蔵省令第五号)
太字が必須開示。(資料提供:QUICK ESG研究所)

その上で、まず2023年は「リスク管理」を中心に開示し、2024年以降はそれに従って実際にどのようなリスクを特定したのか、その結果、指標・目標をどのように抽出したのか、この「戦略」と「指標と目標」の開示が多くの企業で進むだろうと中塚氏は話す。

もう一つの「ガバナンス」については、サステナビリティ課題に対する取締役会による監視体制と、経営者の役割の開示が求められると中塚氏。監視には気候変動、生物多様性、人権、DXといった各課題に対する理解が必要であるため、取締役会メンバーの経歴やバックグラウンドをわかりやすく説明すること、また社外取締役の役割も重要になってくると指摘した。

マテリアリティ特定のポイントとは

では、マテリアリティを特定していない企業はこれからどのように対応していけばいいのか。中塚氏は「会社全体で体制を整えることが重要であり、まさにこれが今回、『リスク管理』で求められている内容です。部門で企業全体のリスクを特定して開示することはできません。どの企業にもリスク管理のプロセスはあるでしょうし、リスク管理の委員会も定期的に開催されるでしょうから、そこにサステナビリティ課題を統合していく準備をすることが必要だと思います」と話す。マテリアリティを特定する際のポイントとしては「サステナビリティ課題をきちんと理解すること」「バリューチェーン全体で考えること」「定期的にマテリアリティの有効性を検証すること」の3つを挙げた。

このようにサステナビリティ情報開示の動きが世界的に強まっている状況を、企業はどう捉えればいいのか。中塚氏は、投資家の視点として次のような背景があると説明する。

「これまで投資家は、財務情報と企業価値の関係を分析してきました。それがサステナビリティ情報にも広がり、サステナビリティ情報と財務情報、企業価値の関係性を体系的に分析できるようになってきています。つまり、非財務情報としてのサステナビリティ情報が財務情報の一部になる動きが、大きく加速していると捉えるべきでしょう」

最後に中塚氏は、次のように語った。

「最終的には企業として主体性を持ってマテリアリティを特定することが重要です。企業はマテリアリティを特定し、リスクと機会を企業の視点で考える、一方、投資家も同じように重要課題を定め、投資のプロセスにおいて何が重要なのかを考える。その両者がマテリアリティをベースにエンゲージメントすることが、次の世代に責任を果たすことにつながります。だからこそ、単に投資家が見る情報画面でESGレーティングを上げるためではなく、本質的な議論をぜひ行っていただきたい。その結果、企業の情報開示が一段と進めば、投資家にもインパクトを与えることができるのではないでしょうか」

2023年5月10日開催 企業価値向上セミナー
講演① 「待ったなし! 2023年に開示すべきESGホットイシュー」
アーカイブ動画、登壇資料公開中

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連載:「~非上場企業も対応を強化~ いま注力すべきESG情報開示を考える」

 

中塚 一徳氏

株式会社QUICK ESG研究所 プリンシパル
中塚 一徳(なかつか・かずのり)氏

1992年QUICK入社。機関投資家向けサービスの企画、開発、研究を担当。
2014年よりESG研究所においてESGデータを活用した定量分析やアドバイザリー業務に従事。2015年、GPIFより受託した「年金積立金管理運用独立行政法人におけるスチュワードシップ責任及び ESG 投資のあり方についての調査研究業務」におけるプロジェクトマネジャーを務める。日本証券アナリスト協会セミナー「ESG投資の現状と課題」、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン2022度第1回目ESG分科会「ESG投資の潮流(投資家の視点)」、2022年日経SDGs/ESG企業課題解決シンポジウム「対談:ESG経営のキーワード」のほか、運用会社、企業などでの講演多数。

※肩書きは記事公開時点のものです。

古塚 浩一

サステナビリティ本部 本部長
古塚 浩一

2018年、日経BPコンサルティング SDGsデザインセンター長に就任。企業がSDGsにどのように取り組むべきかを示した行動指針「SDGコンパス」の5つのステップに沿って、サステナビリティ経営の推進を支援。パーパスの策定やマテリアリティ特定、価値創造ストーリーの策定から、統合報告書やサステナビリティサイト、ブランディング動画等の開示情報をつくるパートまで、一気通貫でアドバイザリーを行うことを強みとしている。2022年1月よりQUICK社とESGアドバイザリー・サービスの共同事業を開始。ESG評価を向上させるサービスにも注力している。

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