ESG投資対策座談会

投資家をつかむ、国際基準に沿ったESG戦略と情報開示(前編)

  • 古塚 浩一

    日経BPコンサルティング カスタムメディア本部第一編集部長 古塚 浩一

投資家をつかむ、国際基準に沿ったESG戦略と情報開示(前編)
国内外で盛り上がりを見せるESG投資。企業は対策として、ESG活動にどう取り組み、どうその情報を開示すればいいのか。ポイントは、単に環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の分野に取り組むのではなく、“国際基準に沿って”取り組んでいるかにある。
ESGに詳しいQUICK ESG研究所 プリンシパル 松川恵美氏を招き、当社ブランドコミュニケーション部長 吉田健一と、カスタムメディア本部第一編集部長 古塚浩一が、そのあり方を議論した。

松川 近年、投資家の間で「ESG投資」の考え方が急速に広がってきました。ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉です。E=環境やS=社会のイメージが強いせいか、CSRと同じようなもの、あるいは単なる社会貢献と勘違いしている方もいるようですが、G=ガバナンスが入っていることからも分かるように、異なる概念です。

古塚 たしかにESGは、CSRの延長線上にあるわけではないという点は最初に強調しておきたいと思います。それにはESGという概念がなぜ生まれてきたのかという背景を知ることが大切です。

松川 背景にあるのは、国際的な方向性、基準ですね。今、地球上にはさまざまな問題があります。すぐ思い浮かぶのが環境問題ですが、人権問題も複雑かつ深刻化していて、解決に向けた努力が求められています。

Environment(環境問題)
低炭素社会への取り組み

松川 恵美 QUICK ESG研究所 プリンシパル

松川 恵美 QUICK ESG研究所 プリンシパル

松川 まずはE、環境の中心課題ですが、やはり地球規模の気候変動が大きな要因として存在します。産業革命以来、CO2(二酸化炭素)をはじめとする温室効果ガスが大量に排出され、世界各地で異常気象を引き起こし、地球温暖化も指摘されています。人類はどのように対処すべきか、ここ数十年をかけて、国連、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)といった機関で議論を重ねてきました。その結果、2015年、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)においてパリ協定が採択され、翌年に発効しました。

パリ協定では2020年までに、平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度未満に抑えることを目的としています。しかし、目的を達成するには、現在の経済活動を続けていてはまず不可能です。

古塚 先進国が収益を上げるために環境を無視し、CO2を出し続けてきたツケが、今大きな負のコストになっているわけですね。この問題を解決しなければ、世界経済の持続的な成長は難しい、と。

松川 それだけでなく、資本主義や金融市場にとっても大きなリスクになり得ることに気づいた投資家たちは、負のコストをビジネス全体として支払っていくべきと考えました。そこで、企業の環境対策を重視し、企業価値として評価しようという動きが生まれたのです。

吉田 現在の制度開示ではCO2排出量を発表する義務はないのですが、企業もその動きを受けて、気候変動への取り組みを環境報告書やアニュアルレポートで開示するようになっていますね。

松川 CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)という、イギリスのNGOが企業に対して低炭素社会への取り組みに関する質問書を投資家を代表する形で送り、それに回答することで情報開示できる仕組みも生まれています。

古塚 経営者の中でも、企業価値を高めるために環境に関する情報開示が重要だと考えるようになってきたと思います。

Social(社会問題)
人権・労働への取り組み

松川 Sには、ビジネスと人権に関わる項目が入ってきます。実は、日本企業はSの部分が弱いんです。Eでは、日本は高度経済成長期に公害問題を経験し、世界的に見ても厳しい基準が設けられていて、各企業が積極的に対応してきました。ですからEは総じて評価が高いのですが、残念ながらSは低い。

ビジネスにおける人権とは、要は「労働」です。世界的に見れば、児童労働や奴隷労働といった過酷な実態が今でも存在します。日本にはそうした悪質な労働は基本的にないので、企業も自分ごととして考えないようですが、例えば製品の原料調達先の途上国の労働現場では、まだ根強いのが現実です。そこから経済格差が生まれ、貧しい国はいつまでたっても貧しいままという実情があります。

いまや企業は自社がクリーンなだけでなく、サプライチェーン全体に責任を持つことが求められているといえます。

古塚 Sではその社会的責任を投資家が評価することで、人権問題を解決していこうというわけですね。

Governance(ガバナンス)
取締役会の機能や隠ぺい、腐敗防止の取り組み

松川 そしてGではコーポレートガバナンスを評価します。取締役会は独立性を保ち、社外取締役を導入しているか、女性取締役の比率を高めているかなどのほか、隠ぺい体質や腐敗問題も大きな観点です。ダイバーシティの観点も含まれます。ビジネス界ではまだまだ贈収賄や政官界との癒着が根強く残っており、透明性を高める対策を実施し、公正競争を行っているかを注視して企業を評価しようというのがGの視点です。

国際的な指標に基づくESG投資とコーポレートブランディング

吉田 健一 日経BPコンサルティング ブランドコミュニケーション部長

吉田 健一 日経BPコンサルティング ブランドコミュニケーション部長

吉田 総じて言うと、ESG投資の本質は地球規模での社会課題の解決にあり、その社会的責任を果たしている企業への投資だということですね。

従来のCSRは、9時〜5時の本業の外にあり、プラスアルファ的にボランティアで行うものという意識が強かったと思います。しかしESGは、社会課題を解決しなければ、いずれ企業活動を継続できなくなるという危機意識を持ち、本業の中で解決していく姿勢が必要になります。

賢い投資家はそこをしっかり見ていますし、当然消費者も見ています。コーポレートブランド戦略の観点からも、持続可能な企業経営であることは評価につながります。

松川 Gの部分でも、例えば贈収賄がよくないことは新入社員のときに必ず教育されますね。投資家としては、この企業はそういう教育をきちんとしているのかを知りたい。それが分かればクリーンな企業だと評価できるのですから。

吉田 企業は、消費者に対してはいろいろなコミュニケーションをとっているのですが、株主や投資家といったステークホルダーに対しては、その量も、分かりやすさという点から見た質も、薄くなりがちと感じます。「いや、IRでやってるよ」と言いますが、ただ決算の数字が並んでいるだけでは、ブランドイメージの醸成にはつながりません。当然、ESG戦略を込めたメッセージも伝わらないでしょう。

松川 「やって当たり前のことをこれ見よがしに言うのは恥ずかしい」という考えではいけません。特にESG投資はグローバルなものなので、日本流の以心伝心は通じない。例えば、創業100年の企業は日本にはいくらでもありますが、アメリカでは老舗中の老舗になります。100年も続いているのは、サステナビリティがあることなので、遠慮せずにアピールすべきです。

古塚 浩一 日経BPコンサルティング カスタムメディア本部第一編集部長

古塚 浩一 日経BPコンサルティング カスタムメディア本部第一編集部長

古塚 そこでESGにおいて重要になってくるのは、やみくもなアピールではなく、国際基準に沿うグローバルな視点と、長期的に取り組む姿勢になります。

特にEとSの国際的な指標の一つが、2015年9月に国連が、今後15年かけて解決する目標として採択した「 持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals= SDGs) 」ですね。投資家の中でも歩調を同じくするのが、厚生年金や生命保険などを数十年単位で運用するような機関投資家です。当然、今年来年の話ではなく、10年後、30年後に投資を還元してくれる企業を選定する必要がある。しかし既存の会計基準や財務諸表を見ても、そんな未来のことは分かりません。そこで登場するのがESGなのです。

吉田 機関投資家などのステークホルダーに「50年後、100年後を見据えて活動している企業だ」と評価されることが、ESG投資対策に効果的なコーポレートブランディングだと言えます。私はクライアント企業に対し、コーポレートブランド戦略を中長期経営計画に寄り添って進める提案を、常にしているのですが、ESG戦略とは、取り組む方向性も施策のサイクルも一致すると感じています。目指すところは、サステナブルに50年後、100年後も企業価値を高めていける仕組みづくりなのです。

古塚 だからこそ今、日本企業の経営者には、ESG戦略とコミュニケーションの重要性をこれまで以上に認識することが求められているのです。 では具体的にはどうすればいいのか、一緒に考えていきましょう。

ESG戦略はどう立て、どう情報開示すべきか、後編へつづく

後編

QUICK ESG研究所 プリンシパル
松川 恵美

2012年12月より(株)QUICKのESGサービス事業企画に携わり、2014年4月ESG研究所設立以降プリンシパル・コンサルタント。2017年10月より環境省「環境報告ガイドライン及び環境会計ガイドライン改定に関する検討会」委員。

※肩書きは記事公開時点のものです。

日経BPコンサルティング カスタムメディア本部 第一編集部長
古塚 浩一

カスタムメディアのプロデューサー、ディレクターとして主にBtoB領域の企業コミュニケーションを支援。ナショナルジオグラフィック日本版広告賞(三井物産)、日経電子版広告賞BtoBタイアップ広告部門賞(三菱商事)等受賞。

日経BPコンサルティング コンサルティング本部 ブランドコミュニケーション部長
吉田 健一

慶應義塾大学経済学部卒業後、IT企業を経て、日経BP社に入社。日経BPコンサルティングに出向し、2001年より始まった日本最大のブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」ではプロジェクト初期から携わり、2004年からプロジェクト・マネージャー。2014年から現職。

企業や大学のブランディングに関わる調査、コンサルティング業務に従事する傍ら、各種メディアへの記事執筆、セミナー講師などを務める。著書に「リアル企業ブランド論」(弊社刊)がある。

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